第13話 仲間と顔合わせ

 【生きペディア】

 構成員のほとんどが設定の考察をしているのが特徴で、ゲームの設定資料収集が目的の大規模ギルド。

 大鐘楼の街の一角あるギルドホームは外部にも公開されており、彼らが集めたゲーム内情報は誰でも閲覧できるようになっているそうだ。

 

 この地下水路の攻略の助っ人にやってくるのは、そのギルドに所属している人物らしい。

 ほぼ手付かずの無垢なダンジョンを攻略できることより、とにかく未知のテキストフレーバーが手に入ることに価値を置いているとか。

 情報屋のドーリスが曰く、金払いの良い生きペディアは一番の得意先らしい。 

 以上の説明を踏まえ、やってきたのがこの人物。

 

「土偶のシーラと申します。よろしくお願いしますわ」

「お、おう。アリマだ、よろしく……」


 土偶だ。茶色い土偶がいる。

 正式名称、遮光器土偶。誰もが土偶と聞いてまっさきに脳裏に浮かべるアレがいる。

 人間よりひと回りほどサイズがデカい。更に浮遊している。ものすごい存在感だ。

 ボスエリアにいてもちっとも違和感がないだろうな。

 しかもお嬢様言葉だよ。そんで声が綺麗。

 ロールプレイやネタでやるにして随分と堂に入っている。

 品がありすぎるので、マジもののお嬢様の疑いあり。

 外見で面喰って、喋り出した中身の上品さで二度びっくりだい。


「仔細は聞いておりますわ。物理の効かない敵に困っているのだとか」

「液体の敵がいる。俺じゃ歯が立たん」

「失礼」


 直後、土偶の眠たげにも見える一文字の眼が閃き、まばゆい熱線が照射された。

 光は鋭く広場の床に突き刺さり、黒い煙を上げていた。

 

「一見に如かず、でしょう? わたくしの通常攻撃ですわ。相手にとって不足はないかと」

「あ、ああ。頼もしいよ」


 見た目のインパクトが凄い。めちゃくちゃ強そう。

 カルチャーショックだ。これが通常攻撃なのか。

 なんか俺がいつもドタバタ蹴ったり斬ったりしてるのが急に惨めに思えてきたな……。

 いや、それを承知で俺は冒険の王道は騎士だとリビングアーマーを選んだんだ。後悔などすまい。

 これならあの憎き液体を打倒できそうだ。通常攻撃ということなので残弾を気にしなくて済むのも気楽でいい。


 しかしシーラはなんというかこう、ゲーム終盤に行ける隠しダンジョンの古代遺跡に出てくる敵みたいだな。

 あたかも雑兵のように登場するのに魔王軍幹部クラスの強さのやつね。

 まさか土偶のお嬢様と肩を並べてダンジョンを攻略する日が来るとは。

 人生わからんもんだ。

 

「当方は後衛職ですわ。アリマさんには矢面に立っていただきたいのだけれど」

「任されよう」

「結構。攻撃速度と命中精度には期待してくださいまし。背中を見せるのに不安を抱く必要はなくってよ」


 このゲーム、おそらく当然の如く味方への誤射がある。俺も背後の射線を気にした立ち回りを心掛けなくては。

 とかなんとか考えていたらシーラのこの言葉。

 確かに彼女の熱線のように高速かつ高精度な飛び道具であれば、誤射は起きにくいだろう。


「ただしわたくし、ご覧の通り脆いので。取り扱いにはゆめゆめ気を付けてくださいまし」

「把握した。ベストを尽くすよ」


 ご覧の通り……? という疑問がよぎったのはおくびも出さずに言葉を返す。

 確かに土偶って割れ物にカテゴライズされるもんな……? いや、確証はないんだけど。

 うっかり敵を背後に通してしまわないよう、気を付けねばなるまい。

 頼りがいはありそうだが、いつもと勝手が変わるだろう。

 不安もあるが、それを上回るくらい楽しみである。


「にしても……リビングアーマーの方とパーティを共にするのは初めてですわね」

「ああ、どうも希少種らしいな」

「なんでも、"産業廃棄物"の称号を欲しいがままにしているとか」

「ちょっと言いすぎじゃないか!?」


 思わず声を荒げてしまった。

 産業廃棄物て。もっとこう、マイルドな言い方があるだろ。

 ただのHPの回復手段が無い上に修復できなきゃHPの最大値がずっと低いままの種族じゃないか!

 うん、問題点が非常にシンプルかつ重大だね。


「まあ確かに回復手段はないが、この地下水道じゃ俺の装甲が通用する。壁として使ってくれ」

「存分に頼らせていただきますわ」 

「よし、じゃあダンジョンに入る前に敵の情報を共有しておきたい」

「よくってよ」


 情報共有は大切だからな。

 現時点で知れているエネミーの種類と、その性質。それを漏れなく共通の認識としておく。

 彼女の方がプレイヤーとして先輩だろうが、それでも認識のズレがないように話を通しておいた。

 具体的には毒とか疫病が俺に通用しないことや、慌てて不潔コウモリを始末しなくても俺ならダメージをほぼ負わないこと。

 リビングアーマーのメリットデメリットもちゃんと話した。デメリットを伝える時間の方が長く尺を取るので悲しくなっちゃったな。

 もちろん彼女の種族についても聴かせてもらった。

 種族名、ミステリーゴーレム。脆弱な耐久の代わりに高火力の遠距離攻撃を持つ。

 得手不得手がはっきりした種族だ。役割が明確で連携を取りやすい。


 加えて、彼女には一度散策して感じたダンジョンの所感をきっちり伝えておいた。

 一通り説明を聞いたシーラの反応はといえば。

 

「ふむ。意外ですわ」

「どうした?」

「いえ。種族にリビングアーマーを選ぶような方ですから、もっと後先を考えない愚鈍な方かと思っていましたわ」

「いやまあ、否定はできないが」


 幸運に支えられている部分も大きいしな。

 自力でエトナを発見したとはいえ、彼女がいなければ酷いことになっていた。

 掲示板調べでは彼女に会えないケースのがほとんどのようだし、効率ではなく浪漫でリビングアーマーを選んだのも事実だ。

 ここまでゲームを遊んで痛感したが、俺がうまくやれてるのは完全にエトナありきだ。

 他のリビングアーマーが絶滅したのも頷ける。

 

「慎重でないとやっていけないだけだ」

「むぅ。遠まわしに褒めたつもりでしたのよ」


 シーラはそんな風に言ってくれるが、あまり素直に受け取ることはできない。

 もし俺がエトナに嫌われたら、その瞬間からとてつもない窮地に追いやられる。一瞬で大ピンチだ。

 だいたい彼女がいつまでも俺の装備を修復してくれるとも限らないんだ。

 防具を直す当てがあるからといって、死を顧みずに無謀な突撃を繰り返したりできない。


「何にせよ、アリマさんが信を置くに値する方で良かったですわ」

「それを決めるのは、ここを攻略し終わってからの方がいい」

「あなたがそう仰るのでしたら、そうしましょうか」


 かくして、騎士と土偶という奇妙なパーティによるダンジョン攻略は始まった。

 

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