第12話 スキル発現

 ドーリスを頼って仲間を呼ぶより先にすることがある。

 ダンジョン浅部の探索だ。

 

 行ける場所は片っ端から行く。分岐も行き止まりも全部だ。

 この地下水道は構造が素直なので、行ける道を片っ端から辿っていけば地図が埋まる。

 ランダムで出現する宝箱もちょくちょく見かけた。行きはなかったのに帰りには通路のど真ん中に鎮座しているとかザラだ。

 中身は今のところイマイチ。鉄くずとか鉱石とか、素材アイテムばかりだ。

 今の俺には無用の長物だな。

 でも集めておけばいいことがあるかもしれないので、見つけたら欠かさずに回収だ。

 いつかエトナが鍛冶仕事に欲しがるかもしれん。ギブミー頑丈な武器と鎧。

 

 また、俺は探索と平行で戦闘能力の向上にも力を入れている。

 なにせ俺はヒトネズミと不潔コウモリの極悪スリーマンセルをらくらく倒せる立場にあるのだ。

 戦闘訓練し放題なんだから、しない理由がない。

 もし俺が毒を食らう種族だったらヒトネズミに近寄られる前に大慌てで遠距離攻撃でコウモリを倒し、神経質にネズミ退治をしなくてはいけなかっただろう。

 それじゃ戦闘訓練とか言っている暇ないよな。

 でも俺はリビングアーマーなので問題ありません。

 種族のアドバンテージを活かせる立場なんだから活用させてもらう。

 俺の戦法は至ってシンプル。近寄って、蹴って、剣で切り払う。

 

 戦闘のモデルは俺をボコボコにした帽子女、レシー。

 俺は思ったのだ。蹴りは強い。

 相手の防御を崩しやすく、躱されても体の勢いを次の攻撃に乗せられる。

 

 俺は元々盾を持っていたのだが、それは失って久しい。

 それはつまり、相手の攻撃を盾でいなしてから反撃に転じるという戦法が取れなくなったことを意味する。

 故にこちらから攻撃を仕掛け、相手の守りをぶち破ってでも倒しきる方向に戦術をシフトする必要があったわけだな。

 

 更にこの戦法、俺の体とすこぶる相性がいい。

 重く硬い鎧の体で蹴ると強い。非常にシンプルな話だ。

 しかも鎧の中身が入ってないので重さの割には身軽に体を動かせる。飛んだり跳ねたりも容易い。

 相手の懐に飛び込みながら回し蹴りを叩き込んだりもできてしまうのだ。


 が、欠点も多い。

 まず、俺のHPが減る。

 鎧で蹴ってるんだからそりゃそうなるよな。

 たぶんこれが一番大きなデメリットになるだろう。

 戦うたびに損傷していく足甲を見ると申し訳ない気持ちになる。

 無理させてごめんな。

 

 次に、うるさい。

 鎧の中が空洞なので敵に蹴りを炸裂させるたびカァン! とかゴォン! とか景気よく打ち鳴らしてしまう。

 音の響きは当たり所と相手の硬さ次第。

 なおジャストミートさせるとコォン、と足甲の中で音が短く反響する。

 小気味いい音でうるささも控えめ。常にこうありたいものだ。

 ちなみに俺の蹴りがヘタクソだったときはガシャーン! といった風に情けない音が出る。

 不思議だね、被弾した時と同じ音だよ。HPも多めに減りました。

 

 実際問題としてこのうるささ、おそらく敵を呼び出してしまう。

 地下水道では敵が密集しておらず、囲まれにくい地形だからまだ問題はない。

 だが別のフィールドで戦うようになったらこの欠点がどんどん目立ってくるんじゃないだろうか。

 今後、エリアの性質や敵エネミーの強さ次第では封印も視野に入ってくる可能性もある。

 この騒音はそのレベルのデメリットになるだろう。俺はそう予想した。

 

 しかし、これらのデメリットを抱え込む価値があると俺は思っている。

 というのも、見よう見まねで下手くそな蹴りをヒトネズミにぶちかましているうち、とうとう俺にもスキルが発現したのだ。

 名を【蹴撃】。これが俺に宿ってからというもの、一気に蹴り技のキレが増した。

 

 以来、なんとなくこうやって蹴りたいな……というイメージの通りに体がアシストして動いてくれるようになった。

 当初は急に暴れ出したミミズみたいなキックしかできなかった俺も、このスキルのおかげでまともな蹴り技を扱える。

 きちんと戦いの手札として成立するレベルの代物だ。

 レシーのような変幻自在な蹴りを繰り出すまではいかないが、お陰様でこの鎧の体はかなり頼もしい武器になった。

 

 お前騎士みたいな見た目しておいて最初のスキル蹴りかよという文句は受け付けない。

 俺の剣はしばしば折れるのだ。武器は多いに越したことはない。

 

 しかしこの【蹴撃】、まだ習得したてだからかなのか熟練度が低い。アシストの精度にムラがある。

 俺の体の扱い方が野暮ったいのももちろんあるだろうが、使い込みで向上されそうな余地があるのだ。

 それに不慣れでも練習すればスキルが習得できるとわかったのは大きい。

 もちろん種族適正や習得難度等はあるだろうが、いっきに拡張性が見えてきた。

 

 ドーリスが紹介する助っ人は、既にある程度このゲームに触れたプレイヤーが来るはずだ。

 その人におんぶにだっこで攻略では、あまり恰好がつかないだろう。

 それに多分、楽しくない。せっかく未踏破のダンジョンがあるのに、それで終わらせるのはもったいなさすぎる

 だから俺は更にスキル面で自分を強化することにした。

 

 欲しいスキルは色々ある。おそらくだが戦闘スキルはざっくり分けて攻撃系、防御系、回避系にカテゴリ分けされるはず。

 差し当たりの目標として、各カテゴリーで一つずつくらいは欲しい。

 攻撃スキルは蹴撃があるので、残るは防御と回避。

 蹴撃スキル習得の成功体験をもとに考えると、へたっぴでもいいから数を重ねるのが重要と見た。

 

 ちなみに蹴りを試し始めた頃の俺は、傍から見るとただの暴れるオタクくんだった。

 到底見るに堪えない姿だったぞ。

 クールな全身鎧にコーティングされているのが余計悲愴感を増していた。

 あのダッサいキックを誰にも目撃されなくて良かったと切に思う。これもダンジョン独占の恩恵。

 だって巻き取りの際に暴れる掃除機のケーブルにさえキレで負けてたよ。本当に人に見られなくて良かった。

 だがそんな俺の素人感丸出しへなちょこキックでさえスキル【蹴撃】の糧となったのだ。

 巧拙は関係ない可能性が高い。

 

 まずは防御。これには俺にカスダメしか与えられない不潔コウモリくんに手伝っていただく。

 やり方はシンプルで、体当たりに合わせて体を流し、衝撃を殺す。ひたすらこれの数を重ねた。

 結果として入手できたのが──【衝撃吸収】。

 叩くような物理攻撃に対して、体が勝手に衝撃を飲み込むように脱力してくれるようになった。

 これはいいものだ。俺の鎧が凹む可能性が減る。

 身体が吹っ飛ぶような強い衝撃であるほど、このスキルの恩恵は強くなっていくだろう。

 

 そして回避スキル。

 こっちはヒトネズミを相手に使うことにした。

 敵の攻撃を誘い、当たらないように避けるだけ。

 なんのヴィジョンも浮かばないが、やってればなんかしらのスキルがもらえるだろ。

 【衝撃吸収】のスキル習得がうまくいったからそんな楽観的な気持ちでやっていたのだが、これは全然ダメだった。

 収穫無し。時間の無駄。

 スキルの習得はそんなに甘くないらしい。

 

 俺は悲嘆に暮れ、打ちのめされた気分で間合いを見切りながらヒトネズミを蹴り砕いていた。

 するとなんと、まったく予想だにしていないタイミングで別のスキルが手に入った。

 スキル名は【絶】。

 

 強そうな名前にワクワクしながらチェックしてみると、ずばり間合い調節のスキルのようだった。

 うーん、拍子抜け。回避スキルじゃないし。今後も攻撃は自力で避けなきゃいけないじゃん。

 とか思っていたのだが、やや様子がおかしい。

 

 このスキルが発現してからというもの、蹴り技の当て感が異常なのだ。

 蹴りを繰り出すとグイっと体が進む。もはやターゲットの敵に引力が発生してんじゃねえのってくらい体が引っ張られる。

 かなり強引な挙動に疑問を覚え検証を進めてみると、衝撃の事実が判明した。

 

 ──これ、蹴り技限定の間合い改変スキルだ。

 一定の範囲内であれば"絶対に蹴りが届く"。これが効果。

 あくまで距離の話であって必中効果が付随するわけではないが、凄まじく便利。

 助走ゼロでも遠間の相手に飛び蹴りとかできる。

 蹴りを使った先制攻撃がめちゃくちゃしやすくなった。

 この"届く"というポイントがミソで、この効果のおかげで空を飛んでいる相手の所にも体が運ばれていく。

 試しにちょっとした高所にいる不潔コウモリに向かって使ってみたら、確かに体が吸い寄せられて蹴りが命中した。

 なお着地のケアはなし。

 危なすぎた。 

 使いどころを誤ったら落下死して死ぬね、これね。

 

 ともかく、こんな経緯で戦闘スキルを各種習得するという目標は達成できた。

 【絶】を回避スキルの枠に当てはめてよいかは疑問だが、このスキル探しは多分永久にできる作業なのでこの辺にしておく。

 今はレベリング感覚だが、ゆくゆくはエンドコンテンツと呼ばれるようなやり込み要素となるだろう。

 でも鎧をキンコンカンコン鳴らしながらヒトネズミを蹴っ飛ばしまくるのはここいらで終わり。

 

 次はドーリスに仲間を紹介してもらって、この地下水路の奥に進むぞ!





【蹴撃】

あなたがこの攻撃スキルによって一度目の死を迎えた場合、習得が容易になる。


【衝撃吸収】

一度目の死を迎えた攻撃の属性は、耐性を習得しやすい。


【絶】

習得前提:レシーが再会を望んでいる。

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