第11話 地下水道の探索

 さて、一度エトナの元に戻り防具の修復をお願いして、武器も貰ってきた。

 武器が折れたと伝えたら、何も言わずに新しい剣を一本差し出されたのでありがたく頂戴したぞ。

 俺、武器をくださいとも言ってないのに。

 以心伝心というやつだな。

 ちなみにくしゃくしゃの鎧の方はエトナが俺を視認するや否や、鍛冶の手を止めて有無を言わさず乱暴に全部剥ぎ取られた。

 まあいいんだけどさ。もう少し手心というか……ない?

 ないよね。わかってた。

 

 もちろん鎧をエトナが盗むわけも無く、防具はぜんぶ完璧に修復してくれた。

 懸念していた鎧の修復に掛かる時間だが、こちらもあっという間だった。

 エトナが言っていたように、まだ装備が生きているならどうとでもなるらしい。

 エトナが金槌で叩くと、鎧が元の形に覚えているかのように再生していくのだ。

 

 作業を眺めているうち、俺でもできそうって言葉が喉元まで出掛かったが、飲み込んだ。

 たとえ単調に金鎚を振るっているだけに見えても、プロの仕事に素人が口出しするもんじゃない。

 真剣なエトナの表情を見ればなおさらだ。

 こんな下らないことでエトナの機嫌を損ねたくもないしな。

 

 ところでエトナは快く失敗作の武器を俺に譲ってくれるが、鍛冶師って不出来な武器を戦士に渡すのってどうなんだろう。

 こう、鍛冶師の沽券に関わったりしないのか? プライド的にいいのか?

 そんなことを聞こうとも思ったが、これもやめておいた。

 俺はエトナに武器を扱う戦士とも思われておらず、不良在庫を体よく押し付けられる便利なゴミ箱として扱われている可能性が見えたからだ。

 深く追求せずにおけば、真実は闇の中というわけだな。

 

 というわけで、装備の補充兼回復はしっかり行えた。

 ドーリスにあんな大見得切っておきながらやっぱり駄目でした武器売ってくださいは悲しすぎるからな。

 エトナとの縁の切れ目が俺の命の切れ目だ。是非とも良好な関係を維持したい。

 が、だからといっておべっか使ったりベタベタ擦り寄ったら一瞬で嫌われそうなのが怖いところ。

 このまま戦士と鍛冶師としての、程よい距離感を保つのが良いんだろうな。

 

 さて、ダンジョン攻略には助っ人を呼んでもいいという話だったが、まずはソロでうろつくことにした。

 さっそく地下水道のダンジョンに踏み込んでわかったことがいくつかある。

 まず、地下水道は俺の想像したような汚物まみれのエグい環境ではなかった。

 通路の壁には水路を照らすクリスタルが規則正しく壁に埋まっており、明度充分、視界良好。

 脇を流れる水路の水は透き通っており清涼感がある。一帯はクリスタルの柔らかな光に包まれており、地下水道という閉塞感も感じにくい。

 しかも直角にしか曲がらない通路は常に見通しが良い。モンスターを警戒しやすい構造は冒険初心者にかなり優しい仕様だ。

 

 出現する敵の種類も、そう恐ろしいものではなかった。

 まず一体目、二足歩行のデカいネズミ。【ヒトネズミ】という名前で、一番多くて一番弱い。

 エトナ謹製失敗作の剣で5回くらい斬りつければ倒せる程度の体力しかない。

 サイコロガイコツのように自爆したり仲間呼び出したりといった悪辣な性質がない良心的な存在だ。

 ──とか思ってたらコイツ図鑑には疫病持ちって書いてあった。俺リビングアーマーだから気づかなかったよ。

 

 ドーリスに聞いたら疫病は接近時にもらう状態異常で、他人に感染する性質があるそうだ。

 武器を使うならともかく、素手で殴ったりすると高確率で疫病をもらうらしい。

 もちろんコイツから攻撃を食らうのもアウト。

 

 気になる疫病の症状だが、スタミナ枯渇、視界不良、防御力の大幅低下、定期継続する割合ダメージ、回復アイテムの効果半減etc……。

 聞いてるだけで俺は青ざめた。状態異常として凶悪すぎる。

 しかも近くのプレイヤーに伝染するってんだから恐ろしい。

 武器と防具で圧倒していても、こいつ一体でパーティ壊滅しかねないじゃねえか。

 リビングアーマーのような無機物系統の種族は疫病が効かないようなので良かった。

 

 ちなみにドーリスにこれを聞き出すのに金は取られなかった。

 チンケな情報でまで金を巻き上げるようなセコい真似は、彼のポリシーに反するらしい。

 確かにインターネットで調べれば入手できる情報でもある。ただ、ドーリスの口から聞いた情報は信頼性が高い。

 彼の口から直接質の高い情報を得られる俺の立場は、かなりおいしいな。

 

 さて、こいつのメインのドロップアイテムは【病の潜む皮】。

 使い道はあるのか? 換金性があるようにも思えないが、捨てる理由もないのでありがたく頂いてある。

 奇特な生産職のプレイヤーが欲しがるかもしれないからな。

 

 2体目、不潔コウモリ。

 凄く弱い。俺の剣でワンパンできる。ちょっと剣を当てづらいのが鬱陶しいだけで、さしたる脅威ではない。

 倒し損ねてもコイツじゃ俺の鎧を牙でも爪でもさして傷つけられなかった。

 高確率でヒトネズミの周りに二体くらいうろちょろしてるが、完全に無視していいレベル。

 ヒトネズミを始末したあとにさくっと両断して終わりだ。

 

 倒したあとに図鑑を確認すれば、案の定疫病持ち。

 しかも疫病とは別に猛毒も持っていた。

 猛毒。猛々しい毒と書いて猛毒。

 効果、即死。

 ヤバすぎて草。

 

 詳しくは解毒が間に合わない毒だそうだ。

 実際には即死ではなく喰らった瞬間昏倒、HP上限が極限まで低下して超ハイペースで小ダメージが連続するらしい。

 どっちにしろ即死じゃねえか。

 ちなみに解毒薬を口に含みながら猛毒を食らうと、スリップダメージを止めるのは間に合ってもHPの上限が1になって元に戻らないらしい。

 そして上限値は死ぬことでしか元に戻らないようだ。

 じゃあ死ぬしかないじゃない。ふざけやがって。

 俺、リビングアーマーで良かったよ。

 リビングアーマーは死んでもHPの上限元に戻らないけどね。ペッ。

 

 こいつからは【不潔な翼】がドロップした。俺の持ち物が不衛生なもので埋まっていく。

 使い道がありますように。

 

 3体目は【濁り水】

 このダンジョンの問題児。

 入口付近にはいないのだが、奥の方へと進むにつれて出現しだす。

 こいつのせいでダンジョンの奥に進めない。

 苔のような緑色に濁ったスライムみたいなモンスターなんだが、攻撃が効かん。

 オーソドックスなスライムのように粘性があったりコアとかがあればいいものを、コイツはマジで水。

 斬ろうが突っつこうがパシャパシャ飛沫が出るだけで、完全に攻撃が無駄に終わる。

 倒し方がさっぱり分からん。お手上げ状態。

 バケツで掬って水路に捨てたろか。

 普通に反撃されるのが目に見えているのでやらないけど。

 

 しかもこいつスルーしようにもすばしっこくて通り抜けられないうえ、一丁前に攻撃してきやがる。

 水のボディで勢いをつけてタックルをしてくるんだが、これががっつり物理攻撃だ。

 逃げる分には追ってこないのが救いか。

 

 こう、特殊技能や魔法的なものがあれば攻略できるか?

 火炎放射で蒸発とかさせてさ。

 ぶっちゃけソロでダンジョン踏破する気マンマンだったのだが、こいつのせいで頓挫してしまった。

 

 うーん、悔しい。なんとかならんかのう。

 それまでは敵との相性の良さを感じていただけに歯痒く感じる。 

 

 名残惜しいが、この濁り水が門番のように立ちはだかっているせいでドーリスの伝手を借りて助っ人を呼ばざるを得なくなった。

 初めてのパーティ編成になるだろう。

 ドーリスは期待しろと言っていたが、果たしてどんな人が来るのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る