15.滝行
「……おい、お前ここで何をするつもりだ?」
眼前に広がる光景に、カミルがゴクリと喉を鳴らす。
カミルがシャルロッテの魔法の練習を見張るようになって早5日。風の魔法はカミルに変な顔をされながらもひたすらベンチに座り風を感じ続けた結果、すぐに習得することができた。
ならば次の属性を、とシャルロッテは考えた。その結果来たのがここである。
「なぁ、なんか言えよ……」
カミルの問いかけをフル無視し、シャルロッテは準備してきた服に着替えた。気合を入れるため、髪を一つに結ぶ。
「よし……!」
「いやよし!じゃねえよ!お前まさか……」
風の次は水を。水の自然のエネルギーを一番感じられる場所、とシャルロッテが来たのは、轟轟と音を立て、水飛沫があたりに飛び散っているこの場所。
そう、滝である。
「もちろん滝行するのよ!」
「おいやめろっ!正気か⁉︎お前少し前まで寝込んでたんだぞ!その状態で滝行なんてバカのすることだぞ!」
「私の好きにさせてくれるんでしょう?ならほっといてちょうだい!」
滝壺の音があまりにも大きく、つい話す声も大きくなってしまう。
雨に打たれるのも方法の一つかとも考えたが、そもそも雨が降る日はこの時期少ないのだ。それにもろに水のエネルギーを感じるならば全身で水を感じられる滝行が一番。
そして運よく侯爵邸の近くに滝行にちょうどいい滝を発見したのだ。
「じゃあ砂時計の砂が全部落ちたら私に言ってね!」
「ちょ、ま……」
「行ってきます!」
*ー*ー*ー*ー*ー
「今日のところはこの辺りでいいかしら」
何度か滝に打たれることを繰り返し、夕食の時間が近づいてきたためシャルロッテは今日の滝行を終えた。濡れた髪をタオルで拭き、服を着替え馬車に乗り込んだ。
「お前は本物のバカだ……」
「あら何言ってるの?私は至って正常よ」
「正常な奴が滝に飛び込むかっ!どうみてもおかしいだろっ!」
ずっと砂時計を見ていただけのカミルの方がげっそりとしている。
「じゃあ慣れてね。明日もやるから」
「嘘だろ……」
信じられない、という顔でシャルロッテを見る。
(貴族令嬢が滝行をするのがそんなに珍しいか?)
「そんなにおかしいこと?あなたもやってみない?」
「誰がやるかっ!そもそも滝に打たれようなんて考えるやつがいるわけないだろっ!」
(なるほど。ここでは滝行という概念自体がないのか)
「ねぇ、水魔法、使えるようになりたくない?」
「そっ……れは……まぁ……」
人間の世界では、生まれ持った魔力と相性がいい属性の魔法のみを使うようだ。魔族は基本的な全ての属性の魔法を使えるように訓練するが、そんなことはしないらしい。
そしてカミルは火の魔法との相性がいいらしく、生活魔法+火の魔法を使えるようだ。二属性以上使える人間は非常に少ないらしく、使える人間は非常に重宝され将来は安泰らしい。
「ほら、今なら私と滝行をするだけで水魔法が使えるようになっちゃうわ。どう?やってみない?」
「胡散臭いわ。怪しい商人かよ」
「あら、怖いの?怖いんでしょう?」
「怖くねえよ!」
「じゃあ明日から私と滝行ね」
「なんでそうなるんだよ……」
カミルは侯爵家の後継者として毎日勉強に励んでいる。忙しいはずなのに空いた時間にシャルロッテの元を訪れては魔法の習得に付き合ってくれる。なんだかんだ面倒見がいい。
「今日の食事は何かしら」
侯爵邸で出される食事は王宮に引けを取らないほど美味しい。食事がシャルロッテの最近の楽しみになりつつあるほどだ。
「体が温まるやつだよ」
「……なんで知ってるの?」
「お前が滝行なんてことをするから温まる料理を出すようさっき急ぎの使いを出したんだよ!また寝込んだらどうするつもりだ!」
「……あなたって意外といい人なのね」
「うるさい。また寝込んで父上と母上に心配をかけるようなことがないようにするためだからなっ!」
最近もう一つわかったことがある。
カミルは多分、ツンデレ、である。
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