16.第一王子
次の日。
シャルロッテはカミルの勉強が終わるのを待ち、再び馬車に乗って例の滝へと向かった。
「さあ、あなたも早くこれに着替えて」
「……」
シャルロッテが滝行用の服をカミルに渡すが、カミルは滝壺をみつめるだけで微動だにしない。
このままだといつまで経っても進まなさそうなので、とりあえず簡単な説明から始めることにした。
「まずは滝に入ったらできるだけ雑念を断つの。そしたら自分の中の魔力を巡らせて、感じる水のエネルギーとこう……混ぜるイメージで」
「ちょっと待てよ。なんだよ魔力を巡らせるって」
「え?だから、魔力あるでしょ?それを身体中に……」
「だからまずどうやって魔力を動かすんだよ!普通動かないだろ!てかそもそも動かせるものなのか⁉︎」
「動かせるわよ当然でしょう?血液が身体中を巡るのと同じように、魔力も巡らせるの。その方が効率がいいし」
「イメージはできるけど……それと滝行とどういう関係があるんだよ」
「自分の魔力を水のエネルギーで染めるのよ。もう埒があかない。とりあえずイメージはできるんでしょ?じゃあそのイメージ通りにやってみて。ほら早く着替えてっ!」
「はぁ⁉︎ちょっ……」
何か言いたげなカミルを着替えさせ、一緒に滝へと向かった。
轟々と飛沫を上げながら止め処なく水が降り注ぐ。
少し痛いほどだが、体に満ちる魔力が水の色に染まっていく感覚がなんとも言えず心地良い。
まだ自分のものとして使えるほどではないが、透明だったシャルロッテの魔力が今は風と水の色に染まっている。このままうまくいけば、残りの基本的な属性は網羅できるだろう。
「ふぅ……今日はすごく良い感じだったわ」
「……お前は本当に頭がおかしい」
人生で初めて滝に打たれたカミルは寒さと衝撃で目が虚だ。
「イメージ通りにできた?」
「いや、できたかはわかんねえけど……一応お前のいう通りにはしてみた」
一応できたのか。なら安心だ。
「明日もやりましょうね」
シャルロッテが素晴らしく美しい笑顔でカミルに微笑んだ。
「……本当にできるようになるのか?水魔法」
「あら、意外とやる気ね。8歳の世間知らずの令嬢のとち狂った話なのに」
「自覚あるのかよ。でもなんか……こう、体の中になんか流れてきた気がするんだよ」
(へぇ……意外と筋がいいな。多属性を身につけるという概念すらない人間なのに、軽い説明だけで初日から……)
魔族ですら初めてこれを行うときは魔力とエネルギーの融合がうまくいかずそれだけでも数日はかかるというのに、カミルはそれをスムーズにこなした。
「明日もうまくできそう?」
「お前、自分のところに来てる手紙とかちゃんと読んでるか?」
(え?手紙?)
そういえば、ただでさえ体が弱かったせいで体力のないシャルロッテが慣れない外で長時間活動しているため、最近は侯爵邸に着き食事、入浴を済ませたらあとは泥のように眠る日々だった。アリスが何か言い続けていた気がするが、シャルロッテの意識とは反し体は重く、つい眠ってしまっていた。
「その様子じゃ読んでないな。明日、お前の婚約者が来るって連絡きてただろ……」
「あぁ!婚約破棄になりそうだっていう婚約者の第一王子?」
「はぁ?お前何言ってんだよ。お前の体調面も含めて大丈夫そうだったらうちでお茶を飲む予定だそうだ。だから明日はお互い魔法の練習はできない」
「ねぇ、第一王子ってどんな人?」
「そういえば今記憶ないんだったな。そうだな、顔が整ってて、勉強も武道も魔法もできる。完璧超人みたいな人だよ」
「私じゃ釣り合わないわよね」
カミルが複雑そうな顔をした。
「釣り合うか釣り合わないかはさておき、本当にすごい人だよ...」
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