14.カミル

「カミル……お兄様?」


「うるさいっ!お兄様と呼ぶな!」


ちゃんと顔を合わせて話すのは今日で二度目だが、本当に何をしたんだ、と言いたくなるほどカミルはシャルロッテを嫌っている。


「じゃあなんて呼べばいいの?私のことが嫌いなんだったらそもそも声をかけなければいいのではないかしら」


「っ……!俺だって好きで声をかけたわけじゃないんだからな!お前が……お前がまた変なことをしでかすかもしれないから見張りにきただけだ!」


今までと様子が違う妹に驚いたのか、少し怯んだが彼の意思は堅いようだ。


「はぁ……勝手に見張ってくれていいけれど、私の邪魔はしないでくれる?」


「じゃあせめて、今何をしているのかを教えろ。邪魔をするかしないかは返答次第だ」


兄妹仲は良くないだろうに、なぜそこまで関わりたがるのか。しかし返答次第ではこれからの魔法の習得に影響が出そうだ。



「……魔法の練習」


仕方なく答えると、カミルの表情が少し曇った。


「魔法……?お前、魔法なんて使えないじゃないか。どうして急に……」


先程までの威勢のいい声とは打って変わり、狼狽えた声でシャルロッテに問いかける。


「どうしてって……使えるようになりたいから。いろんなことをやってみたいから。それに、私が魔法を使えた方がみんなにとってもいいと思って」


シャルロッテは魔法が使えないことで周りから邪険にされていたはずだ。それにより侯爵家の評判もあまり良くないい。そしてたびたび家族で食事をとっている時に気づいたが、カミルは両親のことを尊敬し、心から慕っているようだ。


 (あぁ、なるほど。大好きな両親が自分の妹のせいで苦労しているのが許せないのか。でも本当に心からシャルロッテのことを嫌っているようにも見えないのよね)


あくまでも両親に迷惑をかけるのが嫌いなだけで、それ以外の部分は嫌っていないはずだ。現に嫌がらせなどは何も受けていないし、今日声をかけたのもシャルロッテが不可解な行動をしていたため、また人に迷惑をかけないように来ただけのようだ。


「お前っ……そんなこと気にしなくていいんだぞ!魔法が使えないのは生まれつきなんだ。せっかく元気になったんだから、最低限おとなしくしてくれていたらなんだって好きなことをしていいんだぞっ!」


「魔法を使うことが私の好きなことなの。まだ使えないけど、使えるようになりたいって思ってる」


シャルロッテの纏う雰囲気にカミルが一瞬止まる。


「……本気、なのか?」


「ええ」


「……」


シャルロッテが魔法を使えないのは周知の事実。にもかかわらず頑なに魔法を習得しようとするシャルロッテにカミルは困惑している。


しばらく無言の時間が流れていたが、時間がもったいないと感じたシャルロッテはまた静かに目を閉じ風のエネルギーを融合させる作業に戻ろうとした。


「おい待てっ、無視するな!」


「……何?」


「もう一度聞く。本気なんだな?」


「ええ」


はぁ、とため息を吐く音がした。


「お前は何をするかわかったもんじゃないからな。俺が隣で見張る。俺が隣にいる時にだけ、魔法の練習をしていい」


カミルがシャルロッテのすることを否定しなかったのは意外だ。


「怒らないのね。私が魔法をやりたいっていうの」


「父上と母上に迷惑が迷惑がかからないならお前は基本好きなことをしていい。そして俺はお前がやらかさないように見張るだけだ。好きなようにしたらいいだろ」


「……あなた勉強はいいの?」


「ちゃんとやるよ!だから俺が勉強している時間は部屋にいろ!」


子供ならではの少し横暴な感じや何気なくシャルロッテの様子を見ようとしているあたり、カミルは悪い人間ではないようだ。だんだん可愛く思えてきて、つい笑みが溢れた。


「じゃあよろしくね。あ、そうだ。私が魔法を習得したいってこと、お父様とお母様には内緒にしておいてくれる?」


「……何でだよ」


「習得できなかった時、二人を悲しませたくないの。だからこれは二人だけの秘密にして?」


上目遣いでカミルを見つめる。


「っ……わかった」



少し頬を赤くしたカミルが聞こえないほど小さな声で返事をした。


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