13.魔法の習得
シャルロッテは今、馬車に揺られている。
そう、ついに侯爵邸に帰るのだ。
シャルロッテが奇跡の回復を遂げた、と言われてからしばらくの間、貴族や学者たちの間でかなりの騒ぎになったらしく、王宮中がバタバタしていた。それだけならまだしも、シャルロッテの過ごす部屋まで突撃して詳細を聞き出そうとする輩までいたため、体調が回復し魔力が安定してからもしばらくの間あの部屋から出ることができなかったのだ。
どうやら魔力の精錬の仕組みを解明したものに多額の報酬が与えられる、などというデマが流れていたらしく、しかも魔力の精錬を行ったのが狂乱令嬢であれば簡単に丸め込めるなどと考える者が多かったらしい。毎日知らない贈り物が届いてはイリアスや父に処分されていた。
イリアスや両親がシャルロッテが彼らと会うことを阻止してくれていたが、それでも部屋の前まできて何やら叫ぶものはいた。
そんなこんなで王宮にいたが、今日やっと帰ることができる。部屋から出られなかったため、外の空気すら懐かしい。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
屋敷に着くと、執事やメイドが列になってシャルロッテを迎えた。
全員仮面を貼り付けたような笑みだが、気にする必要はないだろう。部屋に案内してもらい、シャルロッテになって以来の自室に入った。
(とりあえずは今後どうするべきかを考えてみるか……)
シャルロッテとして生きる、と決めたものの、あの手紙以外シャルロッテについての情報はない。
(婚約者がいるとかなんとか書いてあった気がするが、婚約破棄になる可能性が高いと書いてあったな。ならば気にする必要はないか)
「ねぇ、あなた名前はなんていうの?」
シャルロッテのそばにずっとついている明るい茶髪に黄緑色の瞳をした17歳くらいのメイドにとりあえず名前を聞く。
「アリサと申します」
(アリサ……そういえば気になることがあればアリサに聞け、と手紙にあったな)
「ねぇアリサ、私は普段何をしているの?」
「お嬢様は第一王子殿下の婚約者でもありますので、通常でしたら礼儀作法の授業や歴史のお勉強などがございます。ですが、今は体調を優先しろとの侯爵様から指示がありますので、来月までは全てのお勉強はお休みとなります」
「そう……」
(自由に使える時間がかなりある。それならあれができそうだな)
*ー*ー*ー*ー*ー*ー
次の日、シャルロッテは庭に来ていた。目的はただの散歩などではない。
「いい風ね……」
弱すぎず、強すぎない心地の良い風が吹いている。
(本当にいい風だ。この調子なら、そこまでかからずとも習得できるだろう)
しばらく何をするか考えた結果、シャルロッテは魔法を習得することにした。
「お嬢様ー!お風邪を引いてしまいます!中へ戻ってきてください!」
アリサがシャルロッテに声を掛けるが、これをやめるわけにはいかない。
シャルロッテは一番風が通りそうなところにあるベンチに腰をかけると、目を閉じた。
(集中……)
風以外の全てのものをシャットアウトし、全身で風を感じる。そして身体中に満ちる魔力をゆっくり循環させ始めた。
魔族は魔法に関しては多種族の追随を許さないほど優れていた。それゆえ基本的に魔族は得意不得意はあるもの基本的にはほとんど全ての魔法を使うことができた。
(各属性の魔法を習得する方法は至ってシンプル。自身の魔力と、習得したい属性に関係する自然の力の流れを融合させるだけだ)
とりあえず一番身近にある風属性から習得することにした。
体を巡る魔力と肌を撫でる風のエネルギーをゆっくりと馴染ませていく。そのまま定着すれば習得完了だ。
しばらく風に吹かれながらベンチに座っていると、近くからガサッと音がしたかと思えば、聞いたことのある苛立ちを含んだ声がした。
「おいっ!お前何をしているんだ!」
仕方なく習得を中断し目を開けると、出会った当初から仲が悪いことが明らかだったシャルロッテの兄、カミルが仁王立ちで立っていた。
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