12.奇跡(らしい)
「奇跡だ……」
医者が全身から力が抜けたように呟く。その場にいた両親も、イリアスも、控えていたメイドさえもが歓喜に湧いた。
王宮の一室で過ごす様になってから一ヶ月。シャルロッテの持つ魔力は実際に精錬を初めてみると、想像していたよりもずっと多いことがわかったため、睡眠と食事、それから見舞いにきた人たちと話す時間以外は全て精錬に当てた。
「魔力が一ヶ月前とは比べものにならないほど安定しています。私が魔力を流しても、拒否反応が全く起きません。体調も非常に落ち着いている様ですし……」
ヴァレリアがシャルロッテとして生きるようになってから一ヶ月。毎日精錬を続けた結果、その膨大な魔力の量は十分過ぎるほどに抑えられ、かつ純度が大幅に増した。
(元魔王が全力で精錬したんだから当たり前ね。これでシャルロッテも、少しは魔法が使えるようになるのではないかしら)
シャルロッテが魔法を使えなかった理由は、魔力を抑えることが最重要で、それを使う余裕がなかったから。精錬が成功した今、魔法を使うことができる様になったはずだ。
「シャルロッテ……‼︎」
「あなたっ、シャーリーが苦しそうです!もう少し手加減をしてください」
先程医者から奇跡だと言われてから、父が潰れるほど抱きしめてくる。母はそれを止めようとするものの、目元が赤い。
「シャルロッテ様の容体は落ち着いた、と見ていいでしょう。とは言ってもシャルロッテ様はまだ8歳。魔力は年齢を重ねるにつれ増えていくため、定期的に様子を見る必要はありますが……本当にこんなことが……」
部屋にいるときに外にいるメイドたちや両親、医者が話していることをこっそりと聞いている限り、どうやら人間の世界には魔力の精錬、という概念も行為も存在しない可能性がある。
「シャルロッテ様、どうしてこの病気が治ると確信していらっしゃたのか、教えてはいただけませんか?」
医者という立場上、どうしても気になるのだろう。
「魔力が多ければ減らせばいいって思っただけよ。やってみたらできただけ」
周りの人間の顔にはてなマークが浮かんでいる。当たり前だ。
魔族であれば誰だって知っている方法だが、なにぶんヴァレリアの時代は魔族と人族は仲が悪かった。それは今も変わらないはずだ。多少の改善は見られるかもしれないが、魔族がそんな細かな情報をやりとりするとは思えない。
本当はシャルロッテ本人の手紙で火をつけられ、できるかわからない状況であったことはさておき、それらしい理由をつけて詳細を誤魔化すことにした。
「身体中が燃えるくらい熱かった時、自分の体を巡る何かを感じたの。でもそれは破裂寸前の風船みたいですごく苦しかったし、所々濁ったり所々ムラがあったりもした。だからそれの悪い部分を取り除いて、全体的に均一にしたの」
「自分で魔力を操作した、ということですか⁉︎」
医者が声を荒げる。子供ならではのファンシーな世界観を交えながらできる限り曖昧に伝えたはずなのだが、そもそも魔力をいじる、という概念自体想像もできないようだ。
「んんーー。わからないわ。でもそれをやってみたら体が楽になったの」
医者が慌ててペンと紙を取り出し、シャルロッテの言うことをメモしていく。
「これは世紀の大発見になるかもしれない……。不治の病である魔力過剰が最終段階まで進んでいたシャルロッテ様が一ヶ月もの間に奇跡の回復を遂げたことだけでも大ニュースなのに、魔力を自分で操作するだなんて……。今すぐにでも研究を始めて……」
医者が何かぶつぶつと言いながら紙にペンを走らせる。両親は呆気に取られているし、メイドたちは魔力の話をしたあたりからざわついている。
ただ一人イリアスだけ、医者から無事を確認した瞬間からシャルロッテの元に駆け寄り、先ほどからずっとシャルロッテの手を取り頭を撫で、心から安心しているような穏やかな笑みを浮かべていた。
それにしてもこのカオスな状況。
(もしや私、想像以上にとんでもないことをやってしまった……のか?)
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