10.王宮生活

シャルロッテの強気な言葉に、当然だがその場にいた三人は呆気に取られている。自分がいつ死ぬかもわからない状況で、どうして笑っていられるのか、と。


「シャルロッテ様……魔力過剰は、現代医療ですらどうにもならない解決方法のない未知の病気です。お気持ちはわかりますが……」


医者が可哀想なものを見る目で見てくる。

仕方ないと言えば仕方ないが、シャルロッテはもう人族のシャルロッテではない。別種族の知識を持つ、元女魔王のシャルロッテだ。


「皆様嘘だと思っているのでしょう?私の気が狂ったと。見ていてください。一ヶ月。一ヶ月の間に元気になって見せますわ」


口調は……こんなものでいいだろう。シャルロッテからの手紙を思い出しながら、彼女の口調に近づけてみる。


「シャルロッテ、そんな方法はないんだ。父親として、何もしてやれないことを本当に申し訳ないと思っている……」


 (この反応、絶対に信じていないな)


ならばいい。シャルロッテの手紙にあった一ヶ月で、入れ替わりによる不調は解消する。一ヶ月もあれば魔力の精錬もそれなりのところまで行くだろう。


 (8歳の少女に売られた喧嘩、買ってやるわ。あなたが羨むくらい自由な人生を生きてみせる)


 

*ー*ー*ー*ー*ー



それからシャルロッテは侯爵邸までの移動ができる程度体調が回復するまで、王宮の一室で過ごしている。顔も見たことがない国王だが、その国王が許可を出したらしい。あったこともない第一王子とかいう婚約者のおかげだろうか。



王宮生活、5日目。

相変わらず体調は悪いが、あの激マズな薬を飲めば少し楽になる。最初は賭けだったが、魔力の精錬を行うことに成功した。シャルロッテの魔力量は魔王すら凌ぐほどだと思う。まだ侯爵邸には戻れないらしい。


王宮生活、10日目。

魔力の精錬により、魔力の量は減り、純度を上げられている。ほんの少し体調が楽になった気もする。ほぼ毎日のように両親が見舞いにくる。シャルロッテは両親からかなり愛されているようだ。それとは別に、例の美少年もかなりの高頻度で見舞いにくる。彼が一体誰なのかは知らないが、シャルロッテがこの部屋にいることを知っているのはごくわずかの人間らしい。となるとかなり身分の高い人間だろう。


王宮生活、20日目。

体調が明らかに回復している。運ばれてくる食事も最初はスープのみだったが段々と固形物が増えてきた。


シャルロッテの膨大な魔力も、なんとか精錬することができている。最初の精錬が成功したことで、魔力のキャパに少しの余裕ができた。それにより精錬は捗る一方だ。日に日に魔力を抑えるために消費していた生命力の量が減り、ついには部屋を歩けるほどになった。


「よいしょっ……と。この体、ずっと寝ていたのもあるけど体力が全くと言っていいほどないわね……」


バリバリの魔王として活発に動いていた魔王時代の自分と比べるのもおかしな話だが、本当に体力がない。


 (これもなんとかしなければ、風邪を引く程度で死んでしまいそうだ)


そして部屋を歩ける様になって、初めて目にしたものがある。


シャルロッテ、という少女を。


初めて目を覚ましたあの日から、自分が映ることができる高さや場所に鏡がなかった。部屋を歩くことにより、初めて自分の姿を確認できたのだ。


 (言いたくないが、かなり整っているな)


淡い桃色がかった金髪は、ゆるく波打ちながら腰まである。紫がかった空色の瞳。整った顔立ち。どれをとっても一級品だ。


ずっと見舞いにくる美少年ともいい勝負だ。

彼はずっと見舞いにくる。どういう関係か、気にはなるが彼自身が聞くな、とでもいいたげな雰囲気を醸し出しているため、結局私は彼の名前がイリアスだということしか知らない。どこかで聞いた名前な気がするが、魔界にそんな名前の知り合いでもいたのだろう。


「シャルロッテ、入るよ?」


今日もまた、イリアスが見舞いに来た。

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