9.決断
『どうしてもなんとかしたくて、私は禁書庫ならば何かあるんじゃないかって思った。みんなが寝静まった時、こっそり禁書庫に行ったの。鍵がかかっていたけど、隣の暗号を解けば簡単に開いたわ。そしてついに見つけた。
自分の望んだ条件に当てはまる魂を体に宿す術を。
私の求めた条件はこれ。
私の魔力を制御できるほどの能力を持っていること。
貴族令嬢として生きられる程度の教養が身についていること。
命を失う危機にあること。
そして、生きたいと強く願っていること。
なんとかこの術をして欲しくて、王宮魔法師や騎士、お父様とお母様にまで話をしようとしたけど、誰も聞いてくれなかった。そして今、もう私の体は限界に近いの。もう自分の魂を触媒に術を行うしかない。けどやるわ。
今あなたがこの手紙を読んでいると言うことは、私の術は成功したのね。あなたは私の求める条件全てを満たしている人ということにもなる。混乱しているかもしれないけど、あなたが私の体にいるということはあなたは生きたいと願ったということ。私はもう生きられないけど、私の体を使って、あなたが前の体でできなかったことをして有意義な人生を生きてくれればいいと思ってる。まあ、半分以上私のわがままね。
ただ私として生きるために気をつけてほしいことがあるの。私はメリアベリルという侯爵家の令嬢として生きてる。でも私の評判は良くない。なんなら最低と言ってもいいわ。それは私がこの術を行うために色々とやりすぎたせいでもあるのだけれど、人間っていうのは自分たちと違うものを排除しようとするみたい。魔法が使えない私のことをよく思っていないわ。だから周りの人たちからは辛く当たられるかもしれないけど、この魔術に選ばれたあなたならなんとかできるのではないかしら』
一旦ここで読むのをやめる。
ここまでで分かったのは、おそらくこのシャルロッテという少女は年齢にしてはかなり頭が切れるらしい。8歳なんて一般的な魔族でもせいぜい一通りの基礎魔法を習得できるかできないかというところ。それを彼女は自力で自分んの病気を見つけ、その解決をするために禁書庫の暗号を一人で解いた。禁書庫というのだから、その暗号は相当なものだろう。
しかし何か気に入らない。
ここ何行か、どうにも私を挑発でもしているような内容である。『この魔術で呼び出されるほどの人物なんだから、できないわけないよね?』とでも言いたげだ。
「あはっ……」
思わず乾いた笑いが溢れる。
(いいじゃない。そうでなくてはつまらないわ)
魔界の女王として君臨していたヴァレリアが、たった8歳の少女に喧嘩を売られたのだ。このまま引き下がれば、魔界の皆にも顔向けできないではないか。
(つまりは全てシャルロッテの計画通り、ということになるがいいだろう)
固まっている三人を置いて、手紙の残りに目を通す。
『あと、私には婚約者がいる。この国の第一王子のイリアス殿下。けど、評判最悪の私との婚約なんて破棄になるだろうから気にしなくていいと思うわ。
今は体調が良くないでしょう。本にもそう書いてあったわ。入れ替わりが成功したら、魂が新しい体と馴染むまでの一ヶ月間は体調に異常をきたすって。魔力過剰とは別の様だから、一ヶ月たてばまずは少しマシになるはず。
何か気になることがあったら、メイドのアリサにさりげなく聞くといいわ。彼女は私のことを悪く言わない信頼できる人間だから。
あなたがこの人生を有意義に生きてくれることを願います。
シャルロッテ・リィーン・メリアベリル』
結局この少女は何がしたかったのだろうか。賢いくせに所々抜けている。
(いいわ。絶対に生き延びてあげる。そうしたら好きな様に生きていいってことよね?)
今にも泣きそうなシャルロッテの父の方を向き、にっこりと微笑んだ。
この状況と酷く場違いなシャルロッテの笑顔に、父だけでなくその場にいる三人が驚いた表情で固まる。
「私、死なないので安心してください。何があっても絶対に生き延びて見せるわ」
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