8.シャルロッテの手紙

魔族は基本的に魔力を多く持って生まれる。この医者が言う魔力過剰とまではいかないが、人族と比べれば多い。もちろん今のシャルロッテのように体調に異常をきたしてしまうことはないが、魔族は多い魔力を最大限活かすため、小さな頃から魔力の精錬を行う。


魔力の乱れを落ち着け、純粋な魔力として練り上げ魔力の純度を上げるのだ。

そうすることによって、魔法を使うのに必要な魔力の量は抑えられるだけでなく効果も増大する。


生まれながらに体にあっただけの量の魔力を持って生まれる人族はこの様なことを行わない。うまくできるかはわからないが、この魔力の精錬をシャルロッテの体で出来れば魔力の量を抑え、いずれ自身の力だけで制御することができるかもしれない。


 (まぁ、できなければその時点で死を待つだけになるけれど)


もちろんリスクもある。この医者によると自分の魔力は堤防が決壊する寸前の様な状態にある。下手に何かをしようとしてそれが刺激となったら、一気にその堤防が決壊し死ぬかもしれない。


いわばこれは自分の命を賭けた大博打だ。


シャルロッテだけが一人、思案を巡らせていると、不意に思い出したようにイリアスがシャルロッテに手紙を差しだした。


「そうだ、シャルロッテ。この手紙を覚えて……はいないかもだけれど、君から預かったものだ。もちろん中は見ていない」


 (手紙……?本物のシャルロッテからの?)


普通自分に手紙を書くなんてことはしない。狂乱令嬢なんて呼ばれるシャルロッテならしかねない、と言う人もいるだろうが、イリアスはそうは思わない。ここ数ヶ月のシャルロッテの行動に、どうも違和感がしてならないのだ。普段のシャルロッテの何倍も情緒が不安定で、常に焦っていた様に見えた。


そしてその答えがこの手紙に書いてある気がしてならないのだ。婚約者だと言うのに初めの顔合わせ以来、一緒にお茶を飲むことも、話をすることも、そもそも顔を合わせる様なことをほとんどしてこなかった仲だったのに、急にシャルロッテが自分の元を訪ねてきた上に頼み事をしてきた。違和感がないと言う方が難しい。


「今、読むことはできるかい?」


少しでもこの違和感の正体を知りたい。その一心でシャルロッテに言うと、手紙を受け取ったシャルロッテは困惑した顔のままだが、手紙の封を開けた。


 (本物のシャルロッテがわざわざ他人に預けてまで私に出した手紙。何もないはずがない)


真っ白な便箋に8歳の少女が書いたとは思えないほど美しい文字が綴られている。

その内容を読むうちに、シャルロッテの表情は真剣なものになっていった。



『こんにちは。

 今あなたがこの手紙を読んでいるということは、私の計画は成功したのね』


 (なんだ?計画)


『突然こんなことになって驚いているでしょう。もしかしたら恨んでいるかもね。でもこれは私が全てをかけた計画なの。今私の体に入っているならわかると思うけど、私の身体は生まれつきすごく弱かった。小さい頃は気にしていなかったけど、成長するにつれて周りとの差がどうしても気になってきたわ。みんな背が高くなって、魔法も使えるのに私だけ使えないのだもの。二年前、この国の第一王子殿下との婚約が決まった時、自分が異常だって気づいた。他の人が私のことをこう言うんだもの。出来損ないだ、欠陥品だって』


 (二年前、と言うことはシャルロッテが6歳の時か。たった6歳の少女にこんな言葉を浴びせるなんて、どういう神経をしているのだろうか)


『外に出るのが怖くなった。だから、ずっと家にいて本ばかり読んでいたわ。でもある日、家の本棚の一番上にある、埃の被った本を読んだら全て分かったわ。私は魔力過剰なんじゃないかって。だって書いてある全てが私に当てはまるんだもの。そしてこのままだと私が死ぬ、と言うことも知った。そんなの嫌じゃない?だからなんとかできないか調べたのだけど、いい方法は全くないまま、本に書いてある通り私の体調もだんだん悪くなっていったの。私は死ぬのが怖くて怖くて、色々な人に当たってしまったわ』


 (たった8歳の少女が、自分がすぐ死ぬという事実を受け入れられる方がおかしい。このシャルロッテの反応は正常だ)


 

   でも三ヶ月前、やっと見つけたの。

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