7.魔力過剰

薬を飲んでから数十分、体感的にもわかるほど熱が下がった。それを見たメイドが部屋から出て誰かを呼ぶ。


しばらくして部屋に入ってきたのは先ほどの美少年と白衣を着た女、そしてシャルロッテの父親だった。


「シャルロッテ様、少し触れてもよろしいですか」


白衣を着た女が尋ねる。おそらく見た目からして医者だろう。シャルロッテ自身、この原因不明の体調不良を解決できるのならしてほしい。医者の問いに無言で頷いた。


シャルロッテの腕や首、頭。さまざまなところに触ていくうちに、医者の顔がどんどんと険しくなっていく。


「まさかこんなことが……」


「どうかしたのか?原因は分かったのか⁉︎」


シャルロッテの父が声を荒げる。


「シャルロッテ様、最後にわたくしの手を握ってくださいますか」


差し出された手を握る。

すると手を握ったところから何かが流れ込んでくる感覚がした。


その瞬間。


「うっ……!」


強烈な頭痛と眩暈が襲ってきた。握った手を即座に振り解き、頭を押さえる。


「これは一体っ……」


「シャルロッテに何が起こったのですか!」


シャルロッテの異常な反応に美少年と父が医者を問い詰める。


「大したことはしておりません。……ただ少し、魔力を流しただけでございます」


「……魔力を?」


喋ることすらできないシャルロッテは三人の会話に耳を傾ける。


「以前、今のシャルロッテ様の症状に当てはまる病気を書物で見たことがあるのです。ほとんど起きることのない、非常に珍しいことなのですが……」


「なんだ……?」


「シャルロッテ様は、おそらく魔力過剰の状態にあります」


「魔力過剰……?」


「はい。この世界に生きる全て生き物は魔力を持って生まれます。通常の場合、それぞれの生き物の体に合った適切な量を。しかし稀に、その許容量をはるかに超えた量の魔力を持って生まれてきてしまうことがあるのです。それが魔力過剰です」


「しかしシャルロッテは魔法を使えない……。皆はシャルロッテには魔力がないのだと……」


「魔力過剰の状態にあるものは、その膨大な魔力が体の中で常に暴れているような状態にあります。魔力を持っていても、制御する余裕がない。それゆえ魔力を使って魔法を使うことができないのです。その上、膨大すぎる魔力を抑えるために、自身の生命力を使ってしまいます。シャルロッテ様のお身体が弱いのも、魔力過剰のせいで常に生命力を消費しているせいではないかと……」


「治す方法は⁉︎もちろんあるのだろうな⁉︎」


「侯爵、落ち着いてください」


伝えられた衝撃の病気にシャルロッテの父が取り乱す。それを隣の美少年が宥めるが、彼自身も戸惑いの色が濃い。


「お伝えしにくいのですが……治療法はありません……。魔力過剰の状態で長生きをしたという記録は残っておりません。魔力は歳をとるごとに量が増えていきます。その膨大な魔力が暴走しないように、抑えるために使う生命力の量比例して増えていく。生命力を使い切ってしまえば、その時点で生き物は命を失います。わたくしが先ほどシャルロッテ様に流した魔力はごく僅か。それでもあのような強い反応が起きるのを見れば、今の状態のシャルロッテ様は既に限界に近いはずです」


「それはつまり……」


「シャルロッテ様は、もう長くはない、ということになります……」


部屋中に異常なほど重い空気が流れる。


 (待て、私はもう死ぬのか?こんなにもあっさりと?確かにこの燃える様な熱さも、魔力が暴走寸前だからと言われれば納得できるが……)


なんの因果かはわからないが、体は違えど新しい生を得た。にもかかわらずこんなにも早く死ぬと言うのだろうか。


「理論的には、生命力を消費せずとも自身の力だけで魔力を制御することができれば、この先も生きることができますが、そのような方法は……」


 (魔力の制御……?それができればいいということか?)


その言葉を聞いてシャルロッテ……いや、ヴァレリアの中に一つの可能性が生まれた。


 (できるかどうかはわからない。でも、もしかするとなんとかなるかもしれないな)


三人が絶望に暮れる中、ヴァレリアの瞳にはまだ、生への希望が強く宿っていた。




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