第5話 ソラ君と勝手にメールしないでよ!

 私は慌てて、今度はメールを開いた。


「ラキ、パスタが出来たわ。ペペロンチーノとクリームパスタどっちにする?

あのね、ソラ君はボロネーゼが好きなんですって。……ねえ、ラキ聞いてる?」


 何でそんな事知ってるのママ。ソラ君とメールでどんなやり取りしたのよ!

怒りと焦りで手の震えが止まらない。


「もちろん、ラキがソラ君に片想いしてるって事よ。ママ、久しぶりにときめいちゃったわ。パパとの恋愛中を思い出しちゃった」


 ママ、黙ってて。もう何も言わないで。お願い。私はママのメールの文面を見て目眩がした。いつの間に自分の名前を教えたんだろう。ママったらもう。


📩 

初めまして。小早川ソラです。

昨日は色々と失礼な事をいいました。

ラキのママさんですね。メアド教えてくれてありがとう。

よかったら下の名前を教えて下さい。 


📩

ソラ君ですね。こんにちは。

もう学校終わったのかしら。ラキはまだ帰宅してないわ。

私の名前は小百合さゆりです。

メールを頂けて嬉しいです。テストどうでしたか?


📩

小百合さんですか。いい名前ですね。

祖父がイタリア人で幼い時からイタリア語と英語で育ったので、

英語はばっちりだったんですが、世界史が難しかったです。

カンニングしなかった。


📩

ソラ君、偉かったですね。

頑張りました。ラキが言ってたんだけど、あなた、クラスで一番成績がいいのよね。自分で落ちこぼれなんていったらダメよ。

悪い言葉も上手に使いこなせていたけど……。

ソラ君、ちゃんと敬語が使えるじゃない。すごいわ。


📩

小百合さんて呼んでいいですか?

一つ聞きたいんだけど、どうしてラキのケイタイ持ってるの?

親だからってやっていい事といけない事があると思うんだけど。


📩

これはね、パパが決めた事なんです。

テスト期間中はSNSはやらないって事。

その約束を守るっていう条件でケイタイを与えたの。

中学生の時はクラスのお友達も協力してくれたわ。

今は美月ちゃんと花音ちゃんだけだけど。


📩

もう高校生なんだから、プライバシーの侵害じゃない?

まあ、他人の家の事とやかく言う気はないけど。

俺は親にそんな事されたらキレる。


📩

そうね。ラキの事信じてるんだけど、昨日みたいに

ネットでいじめみたいなの見ちゃうとね。

心配なの。


📩

ラキなら大丈夫じゃないですか。

いつも笑顔だし、みんなと仲良いし。

何かあったら、俺がラキを守りますよ。


📩

ソラ君、ありがとう。やっぱりラキが片想いしてるだけの事あるわ。

ソラ君は優しいのね。あ、ごめんなさい。今のは聞かなかった事にしてね。


📩

いいですよ。けど知ってるし。いつもラキの視線感じるし。

あ、すいません。腹減ったんでここで。冷凍パスタ、レンチンして食べ終わったらまたメールしますね。俺、ボロネーゼが好きなんです。

小百合さん、楽しかったです。じゃ。


📩

ソラ君、ありがとうございます。じゃ。


───ママ、じゃ。じゃないよ。


「ママ、何でママが私の代わりに告ってるわけ?!」

「いいじゃない。ソラ君気づいてたみたいね。ラキ、いつも見つめてるんでしょう。分かるわ。好きな男子を目で追っちゃうの。ママもそうだった」


 ママのそういうデリカシーのない所が嫌いだ。ソラ君に気持ちを知られていたなんて。これから学校でどんな態度で接したらいいの。


 ちょっと待った! そういえば、ソラ君は私と約束したからあんな事したって言ってたよね。


「ママ、いつ、何をソラ君と約束したの! 私、襲われかけたんだよ!」

「……ラキ、大げさね。ラキが小学生の頃に言ってた事をお願いしただけよ」


 ママはふふって笑うと、パスタを口に入れた。私が食べたかったクリームパスタの方だ。


「好きな男の子が出来たら、ヤって欲しい事があるんでしょ。ほらアレよ、アレ」


───まさか、アレをソラ君にお願いしちゃったの!


 

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