第19話:決死
わたくしは神使のヒューを頼りにする事なく、先頭を駆けました。
左右は乗用馬が護ってくれています。
わたくしの背中は、ヨハンが護ってくれています。
ヨハンの背後は、三頭の乗用馬が護ってくれているのです。
わたくしに神共々激しく罵られたヒューは、わたくしを護る気が失せたのか、或いは神から見殺しのするように新しい指示が入ったのか、後方の乗用馬達の更に後ろをついてきています。
「何をしている、さっさと謀叛人を殺せ」
ジャスパーが我が家に婿入りする時に、実家のオレリー伯爵家から連れてきた騎士が、兵士達に厳しく命令を下しています。
母上様を謀殺した、許し難い謀叛員の一人です。
そんな謀叛人が、大きな顔をして正統なダグラス女伯爵家の当主を謀叛人扱いするのですから、この世に真っ当な神など存在しない証です。
「愚かで身勝手な神が見過ごしにした悪行をわたくしが裁く。
死になさい、当主殺しに加担した堕騎士」
とても有難い事に、わたくしの魂から出た本気の怒りの言葉に、左右にいた乗用馬達が反応してくれました。
速足から駆足に速度を上げて、敵の中に突っ込んでくれたのです。
そして今までと同じように前足による蹴りで敵を粉砕してくれました。
ですが、敵も無能ではありませんでした。
指揮を執っていた騎士の命令で、十数人がハルバートを突き出して兵列を作ってしまいしました。
「危ない、止まりなさい、戻って来なさい」
わたくしの心には、二頭の馬がハルバートの刃先に捉えられ絶命する姿が浮かんでしまい、思わず制止の言葉を口にしました。
ですが、わたくしのために戦ってくれている二頭の馬は止まろうとしません。
間に合わないと分かっていて、乗っている馬に指示を出して助けようとしましたが、どうにもならない事は自分が一番分かっています。
(神の奇跡よ、神が護ると約束した者の仲間を護れ)
ヨハンや馬達には聞こえない、わたくしにしか聞こえない言葉で、ヒューが二頭の馬だけではなく、わたくしに味方する者への護りの奇跡を唱えました。
神と神使の事を何度も悪く言っていたので、奇跡など起こらないと思っていましたが、予想に反して護りの奇跡が発動されました。
本来なら二頭の馬に突き刺さるはずだったハルバートの刃先が、するりと馬達を避けてくれたのです。
二頭の馬は突進の勢いそのまま、兵列を粉砕してくれました。
「ヨハン、神が護りの奇跡を発動したようです。
わたくしの背中を護る必要はなくなりました。
奇跡が発動している間に敵を皆殺しにしなさい」
「はい、マイロード」
ヨハンは言葉通り獅子奮迅の活躍をしてくれました。
剣は馬上から兵士を斬るには少々長さが足りません。
そこでヨハンは兵士が持っていたハルバートを奪い、それを縦横無尽に振るって、外城にいた敵兵を皆殺しにしてくれました。
後はもう内城と呼ばれる館の中にいる敵だけです。
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