第20話:対決

「実の父親を殺そうとするなど、やはり残虐非道だな、オリビア」


「婿入りしたにもかかわらず、当主である妻を殺し、初代国王陛下が定められた、女系が家を継ぐというダグラス女伯爵家の特別な役割を無視して、わたくしを追放し自分が当主に成った、傍若無人で不忠なお前に言われる覚えはありません」


「言いがかりは止めろ、アメリアを殺した覚えなどない」


「お前に反省など求めていません、黙って死になさい、それだけです」


 わたくしの言葉と同時に、馬が全力で突撃してくれました。

 卑怯で下劣なジャスパーが正々堂々と一騎打ちなどするわけがありません。

 伏兵や罠が仕掛けられている事など分かり切っています。

 わたくしに味方してくれている馬達の感覚は人間など足元にも及びません。

 落とし穴など簡単に避けられますし、左右の伏兵の所には二頭ずつの馬が突撃を仕掛けてくれています。


 ヒィヒヒヒヒヒィン


「射よ、矢を射て殺せ」


 内城の矢狭間や窓から雨あられと矢が射かけられます。

 ですが、ヒューの護りの奇跡が発動されていますから、全ての矢が射かけた本人の心臓に突き刺さってしまいます。


「「「「「ギャアアアアア」」」」」

「なにをしている、やれ、もっと矢を射よ。

 伏兵、さっさと助けに来い、馬ごときに遮られるとは何事だ、直ぐにここに来い」


 わたくしを誘いだすために、自分の側に誰一人護りを置かなかったジャスパーの油断と言うべきか、それともこちらが非常識過ぎると言うべきか。

 ジャスパーは周囲をぐるりと落とし穴で囲んでいたのですが、ヒューの護りの奇跡のお陰で、落とし穴に落ちる事なく空を駆けられるのです。

 わたくしとジャスパーとの距離はもう指呼の間です。

 信じられないモノを見て、唖然とするジャスパーの表情が面白いです。


「母上様の仇、死になさい、卑怯者」


 わたくしはそう言うと、盗賊達から手に入れた剣を振るいました。

 馬上ですから、本当はランスかハルバートを使いたいところです。

 ですが、女である私の筋力では、どちらも重すぎるのです。

 敵と戦う時に、自由自在に操るというわけにはいかないのです。

 間合いはとても短くなってしまいますが、細身の剣の方が使い易いのです。

 そして、その選択は正しかったです。


「ウ、ギャッフ」


 信じられない光景を見て動けなくなっているジャスパーに肉薄できました。

 渾身の力を込めて叩きつけた剣が、見事にジャスパーの兜をとらえました。

 兜を思いっきり叩かれて意識を失ったジャスパーがその場に崩れ落ちます。

 このまま叩き殺したいのですが、わたくしの腕力では、完全鎧を装備した敵を殺す事はできません。


「止めは私が刺させてもらいます」


 ヨハンがそう言って馬から降りてくれました。

 地に倒れ伏したジャスパーの面貌を跳ね上げ、剣を突き刺してくれました。

 顔面を深々と剣で刺されたら、人は確実に死ぬ事でしょう。

 自分で止めをさせなかった事は残念ですが、ゾーイとサクスブルフを逃がさないためには、ここで時間をかける訳にはいかないのです。


「ヨハン、あと二人、急いで館の中に入るわよ」

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