第18話:獅子奮迅
「行きなさい、神使は好きにさせておけばいいのです。
神と神使が何を考えようと、わたくしの知った事ではありません。
わたくしにとって大切なのは、忠誠を尽くしてくれているヨハンです。
何としてもヨハンを護るのです、いいですね」
わたくしは六頭の乗用馬に声を出して命じました。
ヒューに対してだけなら別に声に出さなくても伝わるのですが、ヒューにわたくしの思いを伝えるためには、声に出す必要があったのです。
ヨハンには引き続き忠誠心を捧げてもらうために。
ヒューには、神やお前など信じてもいないし頼ってもないと宣言するために。
なにより自分を追い込んで逃げ道をなくすために。
「いけ、もっと前に行くのだ、マイロードの盾になるのが私の務めだ。
頼む、お願いだ、私にマイロードを護らせてくれ、頼む」
ヨハンが自分の乗っている馬に懇願しています。
ヨハンと馬の間に亀裂が入っては、ここから生きて帰らないかもしれませんし、後々致命傷になるかもしれませんから、よく言い聞かせておきましょう。
「ヨハン、貴男の言葉はうれしいですが、間違っています。
ヨハン、貴男の務めはわたくしの背中を護る事です。
わたくしが後ろを心配する事なく前に進めるように、背後を護るのです」
「……承りました、決してマイロードを背中から攻撃させません」
誠意と主君の威圧を持ってヨハンに言う事を聞かせました。
そのお陰で、わたくしが先頭に立って城内を進んでいます。
どのような手段を使ってでも、母上様の仇を討つのです。
神に逆らった事でヒューに見捨てられ、死を迎える事になろうと構いません。
母上様の仇を取った後なら、死を恐れはしません。
いえ、仇を討てずに途中で死す事になっても構いません。
神と神使の手先に使われてやりたくもない事をやらされるくらいなら。
ヒィヒヒヒヒヒィン
わたくしを背に乗せてくれている乗用馬だけでなく、ヨハンを背中に乗せている乗用馬も、予備の武器と装備を背に乗せている乗用馬四頭も、大きく嘶いて敵の中に突撃してくれました。
それほど馬格も大きくない、軍馬用の戦闘訓練を受けた事もないのに、前足を使った蹴りで敵を粉砕してくれるのです。
強烈な前蹴りで、敵となった兵士の頭部を粉砕してくれるのです。
神と初代国王陛下と初代ダグラス女伯爵との間にどのような約束事があったのか、わたくしには分かりません。
ですが一つだけはっきりとしている事があります。
神や神使を名乗り口先だけのクズよりも、ただの馬の方がよほど信用できます。
神や神使と違って、力を出し惜しむ事もなければ隠し事をする事もありません。
たった一つしかない命を懸けて、わたくしを助けてくれます。
「神や神使など、あなたたち以下の存在です。
わたくしが信用できるのは口先だけの神や神使ではなく貴方達です。
さあ、天国であろうと地獄であろうと一緒ですからね」
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