第17話:乗り換え

「ヒューは好きにしていなさい」


 わたくしはヒラリとヒューの背中から飛び降りて、盗賊達が乗用に使っていた馬に乗り換えました。

 ヒューは姑息にも、わたくしがヨハンの盾になれないように、わざと指示に従わず、ノロノロとした動きをしていたのです。

 わたくしは、そのような小汚い卑怯者の背に乗って安全を図るような恥知らずではありません。


(やれ、やれ、これでは仕方がありませんね)


 今更態度を変えられても、わたくしの決意は変わりません。

 忠誠を尽くしてくれている美少年を見殺しにするくらいなら、神と神使の護りを捨てて、殺された方が遥かにマシです。

 恥知らずな生き方をしていては、天国で母上様に会えた時に、まともに顔をみる事ができなくなってしまいます。


「仕方がないと言われてまで助けてもらおうと思いません。

 わたくしは誇り高きダグラス女伯爵家の当主なのです。

 神であろうと神使であろうと、意のままにできると思わないで」


 今まで抑えてきた神や神使に対する敬いや遠慮など、忠臣の死を賭した働きと比べたら、塵同然です。

 神や神使の玩具にされて運命に翻弄されるくらいなら、母上様の娘として誇り高く死んだ方が数万倍もマシです。

 わたくしは、もうダグラス女伯爵家にはこだわりません。

 それよりも母上の娘である事を優先します。


(アグネス嬢、お待ちください、お願いでございます、アグネス嬢)


「お前達、わたくしを主だと思っているのなら、ヨハンよりも前に出なさい。

 ヨハンの乗っている馬は、ヨハンよりもわたくしの命令に従いなさい。

 わたくしの後ろから付いてくるのです」


「「「「「ヒィヒヒヒヒヒィン」」」」」


 わたくしが本気で怒って命じたからでしょうか、わたくしとヨハンが乗っている馬だけでなく、他の四頭も素直に命令を聞いてくれました。

 命を捨てる勢いで先頭を駆けていたヨハンですが、馬がわたくしの命令を優先した事で、わたくしの後ろにつく事になりました。

 その影響で、ヨハンに降り注ぐはずだった矢が、わたくしに向かってきました。

 ここで死ぬことになったら、少なくとも神とヒューの鼻は明かせるでしょう。


(ここまでされたら仕方ありませんね、矢よ、お前達を放った者の心臓を貫け)


 人間や動物が相手なら兎も角、矢に命じた所でどうなるモノでもありません。

 そう思っていたのですが、神使の力はわたくしが思っていたよりも強いようで。

 それも、想像しているよりも遥かに強いようです。

 矢が命じられた通り、射手の心臓を貫いています。

 中には金属の胸当てをしている者もいるのに、深々と刺さっています。

 恐らくですが、ヒューの力で威力が上がっているのでしょう。


「ジャスパー、ゾーイ、でてきなさい、母上の仇討ちに戻ってきました。

 わたくしを殺したくはないのですか、さっさと出てきなさい。

 出て来なければ城ごと丸焼きにしますよ」

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