第16話:突撃

「ダグラス女伯爵家の正当な当主、レディ・オリビアが母の仇を討ちに来られた。

 正々堂々を一騎打ちに立ち会え、謀叛人の妻殺しジャスパー、毒婦ゾーイ」


 ヨハンがわたくし代わりに城門の前で口上を叫んでくれています。

 変声期を過ぎたばかりのヨハンには辛い役目でしょう。

 ですが、たった二人しかいない以上、ヨハンに頼むしかありません。

 

「はぁあああああ、追放刑になった犯罪者が何をほざいてやがる。

 恥知らずにも、のこのこと戻ってきやがって、まるで乞食だな。

 食うに困って子供をひっかけてきたのか、アバズレ、ギャッ」


 聞くに堪えない悪口雑言をわめいていた門番が、ヨハンに斬り殺されました。

 わたくしに命を救われたヨハンは、わたくしの悪口を聞くのが我慢できなかったのでしょうが、これで舌戦を続ける事ができなくなりました。

 たった二人で、ダグラス女伯爵家の全戦力と戦わなければいけません。

 その内の一人は、ろくに戦う力のないわたくしなのです。

 実質まだ少年と言っていいヨハンとダグラス女伯爵家の全戦力の戦いです。


「もはや突撃あるのみです、城内の案内をお願いします、マイロード」


 ヨハンはそう言うなり馬を駆って城内に突撃してしまいました。

 門番が愚かなのか、それとも母を殺してダグラス女伯爵家を横領したジャスパーが愚かなのかは分かりませんが、城門が開け放たれていたのです。

 ヨハンの口上を聞いたら、普通の警戒心を持っている門番なら、即座に城門を閉めていたでしょうが、ヨハンに殺された門番は何の危機感も持たなかったようです。


「本当の当主、レディ・オリビアが戻られたぞ。

 忠誠心のある者は馳せ参じて己が武勇を主君に披露せよ」


 ヨハンが精一杯声を張り上げて味方を募ってくれますが、今この城に残っているのは腐り切った連中ばかりです。

 当主殺しで妻殺しのジャスパーと、ジャスパーを誑かして母上を殺させた毒婦ゾーイに媚び諂う者ばかりです。

 そうれなければ、わたくしはこのような目に会ってはいないのです。


「賊だぞ、賊が侵入したぞ、ギャッ」

「賊ではない、正当なご当主、レディ・オリビアがご帰還されたのだ」

「出会え、賊だぞ、ギャッ」

「賊ではないと言っているであろうが」

「ここだ、ここに追放されたオリ、ギャッ」

「おのれ、おのれ、恩知らずの不忠者達が、皆殺しにしてくれる」


 ヨハンが獅子奮迅の戦いをしてくれていますが、多勢に無勢です。

 それでなくてもまだ少年のヨハンは体力が少ないのです。

 騎士に叙任されるだけの実力はあっても、同じように騎士に叙任されている歴戦の大人が相手だと、圧倒的に不利なはずです。

 相手がただの兵士だったとしても、複数に囲まれて槍で突かれたら危険です。

 ヨハンを死なせないためには、わたくしが盾になってヒューを動かさなければいけないのですが、予想していたよりも動けないのです。

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