第11話:美少年

 ヨハンはよほど疲れていたのか、私の方が先に目を覚ましました。

 朝日に輝く黄金色の髪はとても美しく、少し見とれてしまいました。

 昨日聞いた話では、弱冠十二歳で騎士に叙任されるほどの逸材です。

 まだ完全に成長していない華奢な体ですが、それでも騎士になれるだけの筋肉がついているのですから、とても引き締まったいい筋肉なのでしょう。

 少し見てみたい気もしますが、淑女にあるまじき行為なので、我慢です。


「申し訳ありません、寝すぎてしまいました、お許しください」


 失態に慌てて赤面する表情もとても可愛いですね。

 昨日はわたくしも慌てていたのでしょうか、青いと思っていたヨハンの瞳が、宝石のターコイズのような、明るい緑がかった青い瞳だとようやく気がつきました。

 黄金色の絹糸のような髪と一緒に、瞳までが朝日に輝いています。

 高名な画家が描いた絵画など足元にも及ばない芸術品です。

 これ以上見つめていると、淑女としても主君としても失格ですね。


「気にする事はありませんよ、ヨハン。

 今日の移動のために、できるだけ休みなさいと命じたのはわたくしです。

 ヨハンはその命令に従っただけですから、何の罪もありません。

 それよりもしっかりと食べて体力を回復させるのです」


「はい、マイロード」


 今朝もまた昨晩に引き続き果物だけの食事です。

 追手から逃げる事を考えれば、お腹に溜まる穀物か肉を食べたいところなのですが、ヒューも肉にする獣を狩る事はできないのでしょう。

 あるいは、必要もない時に命を奪う事を神から許されていないかです。

 まだ自分が契約している神の事がよく分かりません。

 わたくしがこの国を出たら、神が国を滅ぼすと、今は亡き母上様から教わっただけなのです。


 ヒィヒヒヒヒヒィン


 馬に揺られる事も考えて、腹八分目に果物を食べたわたくしとヨハンに、馬に変化した神使のヒューが敵の接近を教えてくれました。

 普通の人間には馬が嘶いただけにしか聞こえませんが、わたくしには明確に意味が伝わるのです。

 わたくしを追う者達が現れたと教えてくれたのです。

 どのような方法を使えば分かるのかは知りませんが、誰かまで分かるのです。

 チェンワルフ第二王子と盛りの付いたケダモノが追ってきたと。


「ヨハン、グズグズしていると置いていきますからね。

 しっかりとついてきなさい、いいですね」


「はい、マイレディ、マイロード」


 さて、追手はどのようにして追跡用の馬を手に入れたのでしょうか。

 盛りの付いたケダモノは、軍馬を持っていないと言っていましたから、村の共用乗用馬か、個人で所有している乗用馬でしょう。

 乗用馬が相手なら、盗賊が持っていた乗用馬でも十分逃げ切れるでしょう。

 問題はチェンワルフ第二王子がわたくしと同じように愛馬を隠していた場合です。

 一頭なら、完全鎧も運ばせているはずですから、足が遅いはずです。

 ですが、鎧を運ばせるための予備の軍馬が一緒にいたら……

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