第12話:追いつ追われつ

 ヒィヒヒヒヒヒィン


 神使が馬に変化したヒューがまた警告を発してくれます。

 チェンワルフ第二王子達が追いかけてきているようです。

 今日で追いかけっこを始めて三日ですが、わたくし達を見失うことなく着実に近づいてきています。

 ヒューだけなら痕跡を残さないので逃げきれるのですが、六頭の乗用馬がいるので、どうしても痕跡が残ってしまうのです。


「私が時間稼ぎする事を許してもらえませんか、マイロード」


「何度同じ事を言わせるのですか、ヨハン。

 家臣を使い捨てにして、自分だけ生き残ろうとするのは、主君として恥ずかしい事だと言っているでしょう。

 自分の主にそのような卑怯なマネを勧めるのではありません。

 もう二度と言ってはいけませんよ、いいですね、ヨハン」


「はい、申し訳ありませんでした、もう二度と申しません」


 ヨハンがわたくしを試しているとは思いませんが、王侯貴族の誇りと尊厳を失わせるような、外道な献策をするのは止めて欲しいです。

 家の教えが悪かったのか、ヨハン本人の考え方が少しずれているのか、あまりにも自分の事を顧みない忠誠は重すぎます。

 主君は家臣に庇護と権利を与え、その代償に忠誠心を得るのです。

 確かに私はヨハンの命を救いましたから、命懸けの忠誠心を捧げてもらう資格はありますが、その命はもっとも必要な時にもらうと決めているのです。


「分かったのならもういいわ、それよりも少し急ぎますよ」


「はい、マイロード」


 ヒィヒヒヒヒヒィン


 ヨハンが馬に指示を与えるより前に、ヒューが嘶いて指示しました。

 六頭の馬が並足から早足になりましたから、ヒューは駆足にしなくても追いつかれないと判断しているのでしょう。

 あるいは、駆足にしたら六頭の馬がもたないと考えているかです。

 それにしても、ヒューは何を考えているのでしょうか。

 単に逃げるだけなら、六頭の馬は見捨てた方が確実に逃げ切れると思うのです。


 それをこうして追いかけっこするというのは、わたくしをこの国から出したくないという事なのでしょうか。

 つまり、まだ神はこの国と民を見捨てていないという事でしょうか。

 わたくしとしては、もうこのような国などどうでもいいのですが、神が見捨てさせてくれないのなら、少しでも暮らしやすい国にしなければいけません。

 ですが、今わたくしが持っている物と言えば、六頭の乗用馬、十九人分の血痕が明らかな中古の衣服と剣と防具だけです。


 盗賊達が持っていた僅かなお金は、チェンワルフ第二王子が確保しましたから、ほとんどお金がありません。

 このような状態では、領地を取り戻すための兵力も集められません。

 神使のヒューが力を貸してくれれば、簡単に領地を取り戻せるでしょうが、ヒューが力を貸してくれるなら、家を乗っ取られる事も追放される事もなかったのです。

 そう考えると、神もヒューも行動が一貫していないような気がします。

 神はいったい何を考えているのでしょうか、それとも何も考えていないのでしょうか、神は気紛れで自分勝手だそうですから、判断に困ります。

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