第7話:慈愛
「どちらももう成人している男でしょう、まだ年端もいかない子供を金に換えようなんて、それでも騎士になろうという漢なの。
まず貴男、貴男はチェンワルフ第二王子に恩を感じさせて褒美を受け取れると、本当思っているのなら、自分で行ってチャンスをつかむ努力をしなさい。
それと貴男、貴男も盗賊から奪った軍馬なのだから、軍功を誇る気ならここで売ろうと考えずに、チェンワルフ第二王子の所にまで連れて行きなさいよ」
令嬢然とした、優雅な所作で軍馬に乗っていた私が、いきなり啖呵を切るとは思っていなかったのか、郷士の実力者が呆気に取られています。
チェンワルフ第二王子は頭痛でも感じているかのような表情です。
わたくしの所為で計画が狂ったと思っているのでしょう。
チェンワルフ第二王子の計画など知った事ではありません。
王子ともあろう者が、自分のために戦ってくれた年端もいかない子供を見捨てるなど、絶対に許される事ではありません、いえ、わたくしが許しません。
「なあ、こんな所でレディが喧嘩を売るモノじゃないぜ」
チェンワルフ第二王子が、郷士達に囲まれている状況を考えろと謎かけをしてきますが、知った事ではありません。
「貴男とはたまたま途中で一緒になっただけ、命令される覚えはないわ。
可哀想な少年を見捨てるような性根の腐った者と、一緒に旅をする気はないの。
わたくしは一人で行かせてもらいます、皆様、ごきげんよう」
「惚れた、その男顔負けの度胸に惚れた。
マッカイ氏族の村の中で、それも部族長の息子の俺を前にして、そこまではっきりと言える度胸を持つ女など、この国のどこを探してもいない。
生れてから今日まで出会った女の中で、最高の女だ、俺の妻になってくれ」
はぁあああああ、襲われる覚悟で喧嘩を売ったのに、惚れたですって。
何時何に発情するか分からない野生動物の相手などしていられません。
わたくし、盛りの付いたケダモノの相手をする気はありません。
盗賊達から助けてくれた恩と、どれほどの漢なのか少しは興味があって、チェンワルフ第二王子と同じ道を使っていましたが、もういいです。
「ヒュー、助けてちょうだい」
ヒィヒヒヒヒヒィン
雄大な体格と月光で虹色に輝く黒い毛並みを持つ軍馬が、人を金縛りにする力を秘めた嘶きと共に現れました。
わたくしは令嬢とは思えない身のこなしで裸馬の背に飛び乗りました。
勇ましく思うかもしれませんが、令嬢らしく優雅な動きで飛び乗るのです。
並の騎士やお転婆令嬢とは格が違うのです、格が。
それに、自分さえ逃げられればいいとは思っていません。
チェンワルフ第二王子や盛りの付いたケダモノとは違う所を見せないと、ダグラス女伯爵家の当主として恥ずかしいですから、忠義が報われなかった少年を助けます。
助けるとは言っても、少年とはいえ騎士になるための鍛錬を受けていた子を、わたくしの腕力で馬上に引き上げる事などできません。
馬に変化した神使のヒューが咥えて運んでくれるのです。
「では、改めて、皆様ごきげんよう」
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