第8話:忠誠
「どなたかは存じあげませんが、命懸けで助けていただいた御恩は一生忘れません。
この命尽きるまで忠誠を誓う事を全ての神々にかけて誓います」
チェンワルフ第二王子や盛りの付いたケダモノから逃げきったと思い、助けた少年を地上に下ろしてから、わたくしも下馬しようとした時、とても捕虜になって疲弊しているとは思えない気力に満ちた表情で、少年が永遠の忠誠を誓ってきました。
なかなか天晴な態度ですが、見た目に騙されるわけにはいきません。
「そのような事を口にしても信じられませんよ。
貴男の忠誠は、既に誰かに捧げた後なのではありませんか。
実家の当主なのか、先ほど話に出たチェンワルフ殿下なのかは知りませんが」
「私の命を懸けた忠誠は、既に踏みにじられてしまいました。
私が忠誠を誓ったチェンワルフ殿下は、私の事など知らないと言われました。
忠誠を誓った以上、殿下を護るために命を捨てるのは本望でございます。
ですが、殿下はその忠誠に報いてくださいませんでした。
私の命よりも、乗用馬や金を取られたのです。
それでも忠誠を誓った主君なので、殿下の正体は黙っていました。
二度も命を捨てて忠誠を尽くしたのですから、誓いの代償としては十分です。
忠誠に報いてくれない主君を捨てるのも騎士の器量だと思うのですが、違いますか、マイレディ、マイロード」
あれほど追い込まれた状況で、チェンワルフ第二王子の事を知っていて、私にすら気づかれないようにしていたなんで、家臣としても騎士としても天晴な態度です。
そんな家臣を前にして、あのような態度を取ったチェンワルフ第二王子は、主君としても王子としても落第です。
まして、忠誠を誓った家臣の顔を忘れていたとしたら、言語道断です。
少なくともわたくしは全く存在価値を認めません。
「そうですか、それならば以前の誓いを破棄して、新たにわたくしに忠誠を誓う事を認めましょう。
ただし、この忠誠に僅かでも偽りがなければの話です。
わたくしへの誓いに嘘偽りがあれば、神罰が落ちますよ」
「神罰は既に落ちています、マイレディ、マイロード。
主君に相応しくない者に忠誠を誓ったせいで、このような惨めな姿になりました。
今度こそ忠誠に相応しい主君に仕えたいのです。
私の忠誠心は死ぬまで変わりません、マイレディ、マイロード。
変るとすれば、私が忠誠を誓った主君の方でございます」
ヒィヒヒヒヒヒィン
この少年は信用できるから忠誠を受けろと言うのですか、ヒュー。
誰かの忠誠を受けて、命の責任を背負うのは重たいのですよ。
先ほどまでは、この国を滅ぼす気でいましたが、忠誠を受けたら、この少年だけでなく、少年が大切に思うモノまで護らなければいけないのですよ。
ジャスパーに乗っ取られた家のようには、ジャスパーに媚を売る領民達のようには、見捨てられなくなるのですよ。
それでも、少年の忠誠を受けろというのですか、ヒュー。
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