第6話:交渉

 チェンワルフ第二王子は村人達を煽るのがとても上手でした。

 次々と腕に覚えのありそうな村人が集まってきました。

 どうやらこの村は、それなりの者達が集まった村のようです。

 騎士とまでは言えませんが、兵士として戦った事のある、郷士といっていいくらいの者達が集まった、独立独歩の村だったようです。

 そんな郷士達が、次々と軍馬との交換条件を提示してきます。


 徐々に白熱した条件闘争になってきましたが、自分達に有利になったと言って喜んでばかりではいられません。

 売買交渉で不利になった郷士達が冷静さを失った場合、数の力で軍馬を奪おうと考えて暴れだす可能性があるのです。

 適当な所で手を打たないと、何時郷士達が盗賊に早変わりするか分かりませんよ、チェンワルフ第二王子。


「だったらこいつと交換でどうだ、最近手に入れた奴隷だが、なかなかの上玉だぞ」


 十二歳前後でしょうか、なかなか顔立ちのいい少年を引っ張っている、青年とも壮年ともいえない年頃の言葉をかけてきます。

 彼が現れてから、郷士達の争いが一気に静まりました。

 この村の郷士達の中でも一目置かれる実力者なのでしょう。

 それにしても、多少顔立ちがいいとはいえ、馬車や家畜の群れを条件にしている相手に、少年奴隷を連れて来てどうしようというのでしょうか。


「俺は馬車か家畜の群れを条件に出したのだが、少年奴隷を連れて来て軍馬と交換しろという事は、脅しをかけてきたという事か」


 チェンワルフ第二王子が怒るのも当然ですが、単に怒っているわけでもないようですから、何か思惑があるのでしょう。


「こいつは先のチェンワルフ第二王子派との戦いで捕虜にした奴だ。

 身代金を要求しているのだが、こいつの実家が捕虜になるような未熟者は一族ではないと言って、なかなか交渉が纏まらない。

 いい加減殺してやろうか迷っていたのだが、単に殺すだけではもったいない。

 あんたらは旅の途中のようだから、ちょっと寄り道してチェンワルフ第二王子の領地にまで足を伸ばしたらいい。

 こいつを助け出したと言えば、味方想いだと噂されているチェンワルフ第二王子なら、結構な褒美をくれるかもしれない。

 それこそ自前の軍馬と武器と防具があるのなら、騎士に取立ててくれるかもしれないぞ、どうだ」


 これは、迂闊に飛びつけるような話しではないですね。

 もしかしたらこの男、チェンワルフ第二王子の正体に気がついていて、探りを入れて来ているのかもしれません。

 チェンワルフ第二王子を捕らえる事ができたら、クウィチェルム第一王子に差し出せば大手柄になります。

 チェンワルフ第二王子派の者達と交渉すれば、莫大な身代金を手に入れられます。

 チェンワルフ第二王子は何と返事をされるのでしょうか。

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