第5話:物々交換

「オリビア、ここで物々交換をしていこうじゃないか」


 チェンワルフ第二王子と出会い、刺客に雇われた盗賊達を撃退して頂いてから二日が経ちました。

 直ぐにこの国を捨てて、クウィチェルム第一王子とその取り巻き達に、神の審判を受けさせようと思っていたのですが、恩知らずになるわけにはいきません。

 チェンワルフ第二王子に助けてもらわなくても、神使が助けてくれたと思うのですが、絶対ではないのです。

 解毒や食糧調達は得意でも、戦いが苦手という可能性もあります。


「何を手放される心算なのですか」


 チェンワルフ第二王子は意外と強かで、殺した盗賊達の身ぐるみを剝ぎました。

 剣や防具だけでなく、汚い服や下着まで剥ぎ取ったのです。

 衣服、いえ、布自体が種類を問わずとても貴重で高価なので、当然ではあります。

 鈍らとはいえ、剣だけでも十九本もあるのです。

 同時に馬を六頭も手に入れられたのはとても幸運でした。

 そうでなければ、手に入れた物を全て持ってくることはできなかったでしょう。


 問題はクウィチェルム第一王子の圧政に苦しむ村人に、盗賊達から奪ったモノとは言え、結構高価な武器や防具や衣服を買う余裕があるかどうかです。

 買う事ができずに指をくわえていてくれるのならいいのですが、欲に目が眩んでにわか強盗にでもなられたら、また戦わなければいけなくなってしまいます。

 この国を滅ぼす気ではいましたが、目の前で血の殺戮を見るのは気分のいいモノではないですから。


「若旦那、衣類は買いたいが、これは血の跡だろ、いわくつきの品ならもっと安くしてもらわないと買えないぜ」


 ある程度駆け引きに慣れている村の年寄りが、値下げ交渉をしてきました。

 チェンワルフ第二王子も、不自由する事なく自分の勢力圏に帰ろうと思えば、この村である程度の食糧を手に入れておきたいはずです。

 ベットリと血糊の付いた衣服など、叩売りすることでしょう。


「この服にいわくなどないぞ、襲ってきた盗賊達を返り討ちにして、この剣や防具と一緒に戦利品として手に入れた物だ。

 むしろ武功を誇る証拠だから、汚れ以外を理由に値引いたりはせんぞ。

 欲しい者がいるのなら、剣でも防具でも衣服でも食料か荷車と交換してやる。

 別にワインやエールでも構わないが、どうするよ」


 チェンワルフ第二王子は、とても王子とは思えないざっくばらんな話し方で巧みな交渉をされます。

 

「武器や防具だけでなく、その馬も売ってくれるのか」


「売るのではなく物々交換だな、金などもらってもしかたがない。

 盗賊達が持っていたとは思えない、よく調教された軍馬だ。

 王侯貴族に取り上げられることなく上手く公平な市場に出せれば、莫大な金になるのが分かっていて、村で売るほど馬鹿じゃないぜ。

 どうしても欲しければ、馬車か家畜の群れを寄こすのだな。

 どうする、軍馬と剣と防具があれば、自由騎士として王侯貴族に売り込めるぞ」

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