アルプトラム Ⅱ ―闇中の旅―
どれくらい歩いただろうか。
何日も歩いているような、しかし同時に、数分しか歩いていないような、狂った時間感覚になっていた。
だが不思議と足に疲れは感じない。それもそうだ。僕は“キカイ”だから。
……まったく無駄な思考。手がかりなしのままの旅に演算機が暇をもて余し始めたらしい。
サナも体調がすぐれないのか、先程から口数がめっきり減ってしまった。いまは僕の背中で眠っている。
今までずっと明るかったサナだから、演算機も心配の声をあげる。
もしかしたらこの子が夢を見なくなった原因に近づいてきているのかもしれない。
奥に進むほどに行く手に佇む夢の残骸が増えてきていた。
「エイト……」
耳もとで声がする。
「なんだい、サナ?」
少し顔を後ろに向ければ、すぐそこに眠そうに目をしばたかせる彼女がいた。おぶされるようにしてサナはエイトの首に手を回している。
「…もう大丈夫だから。わたし自分で歩くわ」
「疲れているんじゃないのかい? もう少し休んだほうが―――」
制止も聞かずにサナは止めようとするアームをかいくぐって、するりと地面に降り立った。
「ん? エイト、これなあに?」
僕の胸のあたりを指差して尋ねる。そこにはカバーのはずれて内側の機器がまるみえになっていた。
「ああ、これならまだあと2年は大丈夫」
オーナーから長らく点検されていないが、たまに自分で修繕したりもして、何とか壊れずに済んでいる。
「本当に大丈夫? 痛くない?」
心配してくれているのだろうか。ためらいがちにサナの手が伸ばされる。
コードがむき出しのなかで点滅して充電を求めるランプに小さな指が近づいていく。
その時―――
バチィッッ
「きゃっ」
僕らの間に小さな悲鳴と火花があがり、目の前が暗転する。回路がショートしたのか……?
警告のブザーが頭の中で鳴り響く。
そのまま引き込まれるようにして意識が沈んでいくのがわかった。
そして、エイトの演算機が完全に停止した。
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