第174話 ワイズ教・教主ジャルネル・ギルメイザー
174.ワイズ教・教主ジャルネル・ギルメイザー
「何だか申し訳なさを感じますね。いきなり国教からひきずりおろした立場としましては」
「ブリギッテ。お前は世間話風に、とんでもないことをいきなり言いますから心臓に悪い」
「そうですか?」
俺たちの会話に入ってきたのは、ブリギッテである。
もちろん、ここでは正体を隠している。が、偽名などは使わず、本名を普通に名乗っている。ブリギッテ、という名前をつける者は多いので、まさか始祖がここにいるとは思わないので問題ないのだ。
正体を知っているのは本当に国王レベルの者たちだけである。
「いっそ、ブリギッテ教はやめちゃいましょうか。悪魔退治もすみましたし♪」
「世間話風に……以下、略だ。リズレット辺りと話してくれ。そう言えばここに序列第3位もいたな」
俺は冗談めかしてアリシアに話を振ってみるが、
「へ? ああ、ブリギッテ教やめちゃうんですか? まぁ私は別にいいですけど。こ、こ、こ子育てとかしたいですしね~」
ちらちら、とこっちに目くばせをした。
「お、おう」
カウンターだった。
「ふふふ。珍しいものが見れたの。それにしても序列1位と3位のやる気がないというのも珍しい。リズレットの采配なのかの。ま、いい」
フェンリルが微笑みながら、話題をもとに戻した。
「ワイズ教の今の教主はジャルネル・ギルメイザーという男よ。でっぷり太った豚のような老体であるな。ただ、知っての通りワイズ教徒はいまだに多いゆえ、それなりに支持者がおる」
「ジャルメルか。どういう男なんだろうな」
「これがよく分かっておらぬ。だが、結構な貴族どもが出入りしているとのことよ。やんごとない背景があるやもしれんなぁ」
そのあたりはバシュータの情報を待つとするか。
「で、その豚の様に肥えたご老体の邸宅まで、あのトレインを仕掛けてきた三人は戻ったわけか?」
「ご名答よな。中に侵入までしようとしたが強力な結界が張っておった。破っても良かったのであるが、途中で優先順位が変わってしもうたのよ」
「ははぁ」
「それがあの100人の子供たちですね?」
アリシアがポンと手を打った。フェンリルは頷く。
「ジャルメルの邸宅と少し離れた場所にワイズ教の神殿があっての、そこで多数のワイズ教徒たちが働いておった。まぁそれは普通のことであるが、どうにもな、鼻をつく臭いが気になったのよ。我しか気づかぬであろう、微かなものであったがなぁ」
「フェンリルさんは鼻がききますからね」
「場所は神殿の地下からであったな。まぁ地下牢のような場所であった。そこであの仔らを見つけたというわけよ」
「なるほどな」
俺は納得したとばかりに頷いた。
ただ、ラッカライは腑に落ちないらしく、首を傾げる。
「閉じ込められていた理由は何なんでしょうか。そんなに沢山の子供を……どんな理由があろうと許せません!」
義憤にかられている彼女に、俺は答える。
「多分、試験などでふるいにかけ、魔力が少ないとか、学力が優秀でなかった子供たちだろうな」
「ふるいにっ……。でもワイズ教は元々国教でその教えも弱者を救う素晴らしいものなのにっ……!」
「ワイズ教自体と、その教主の考え方は違うんだろう」
俺の言葉に、
「ブリギッテ教が脳筋すぎて、逆に珍しいまでありますからね」
ローレライが応じた。
「教皇の娘が言うと説得力が違うな。まぁ、でもそういうことだ。ワイズ教が国教から堕ちて300年。その間、ブリギッテ教は常に国家から注目されてきたが、逆にワイズ教は専横を許す程度の監視の目しかなかったとも言える」
「での、勢いで鉄格子の牢屋ごとくりぬいてのう。さらってきた。げふんげふん、救出してきたのだがのう。主様ならなんとかしてくれるかなぁと、思ってのう」
そう言って、ちらちらとフェンリルが俺の方を見て言った。
さすがに、今回は勢いで動きすぎたと内心思っているらしい。
「まぁ母性暴走しすぎ事件ではあるが、お前のやったことは正しいよ。フェンリル」
俺はそう言うと、彼女の頭を撫でてやる。
「くぅ~ん。さすが主様である。今日は我の一番モフモフな部分を使ってぜひ眠っておくれ」
「それはありがたい」
俺たちはそんなやりとりをしつつ、保護した子供たちを今後どうするか相談したのだった。
また、一方で俺の頭の中ではワイズ教の暗躍に対する対応もまた検討を進めるのであった。
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