第173話 旧国教ワイズ教・聖都『マリード』
173.旧国教ワイズ教・聖都『マリード』
さて、俺たちは100人の子供たちを連れて、学校まで戻ってきた。
今は教会の人間たちが来てくれて、いきなり増えた子供たちに対して炊きだしをしてくれている。
最初は怯えていた子供たちも、ご飯を目の前にして目の色を変えて食いついていた。
相当ひどい生活を強いられていたようだな。
「ふむ、今日は我も一緒に修練場で、あの仔らと一緒に眠るとしよう。何があっても大丈夫なようにのう」
フェンリルは相変わらず母性が強いようで、連れてきた子供たちが心配なようだ。
「あ、それでしたらボクも一緒に寝ますよ。フェンリルお姉様一人だと大変でしょうし」
ラッカライが言った。
すると、炊き出しの指示をしていたローレライも、地獄耳というか、その言葉を聞いてこちらにやってきて言った。
「では私もそうしましょう。炊き出しリーダーとしての責任。そしてフェンリルさんをモフりながら眠りにつける特典があるというなら、議論の余地は不要でしょう?」
「我、そんな特典つけると言ったか? 別に良いが」
ローレライのモフりへのこだわりは日に日に強くなっている。
「いい加減歯止めがきかなくなりそうだな……」
「そうですね。でも、どうでもいいっちゃいいですね」
「まあな」
アリシアの返事をきっかけに、本題に切り替えることにする。
「フェンリル、何があったか説明を」
「うむ。あの三人をな追って行ったところ、途中で早馬にのって逃走を試みよった」
「計画的だったわけか」
「うむ。こちらの予定を把握したうえでの行動よな。我らの本日の授業予定を知ることはそれほど難しくないが、ルートは絞られる」
「幾つかの組織には共有しているからな。ルートの絞り込みはバシュータに任せよう。あいつは確か」
「ここにいますよ、旦那」
俺の言葉が終わる前に、いつの間にかそばに立っていた。最近は俺から直接依頼する情報収集を主に担当してもらっているが、どんどんレベルが上がっているように思う。
「いつもすまんな」
「いえいえ。何をおっしゃいますやら。ですが、俺の勘では相当きなくさいですぜ」
「同感だ。慎重に慎重を重ねろ。もしかすると、想定よりも大きな組織がかかわっているかもしれん」
「大賢者アリアケ様に言うまでもなかったですね。それでは」
「大仰な呼称は……」
やめろ、という前に、姿を消す。
「やれやれ。ゆっくりしていけばいいものを」
「旦那様の役に立ちたいのじゃな! なお、儂もそろそろババーンと役に立ちたいのじゃ!」
コレットがぴょんぴょんと目の前を跳ねていた。
「お前はいつも活躍してるだろうに。これ以上、他の奴らの出番を奪うんじゃない」
「話を続けるがのう」
フェンリルが鷹揚な感じで言葉をはさむ。
「その三人はなんというか、獣道めいたルートを通り、北へ北へと進んだ。たどり着いたのは大神殿を有する巨大都市であった」
北の大神殿を有する巨大都市と言えば一つしかない。
「旧国教ワイズ教の聖都『マリード』」
その言葉にフェンリルはゆっくりと頷いたのであった。
(続きます)
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