第170話 トラブル(トレイン)
170.トラブル(トレイン)
「ちっ、トレインか」
「先生! トレインってなんですか!?」
俺の呟きに、いち早くエルフのソラが律儀に挙手して聞いた。
「モンスターを引き連れて、他の冒険者になすり付ける行為だ。基本的にはルール違反だな」
「あら、では全員万死に値するということですね?」
めらめら~と、キュールネ―の口からブレスの仄かな輝きが見て取れるが、
「空気がなくなるから勘弁して! 人族は死んじゃうからさ!?」
「あら、残念」
どこかからかう口調で、キュールネ―はブレスをひっこめた。
まぁ、俺のスキルがあれば使用できないこともないが、
「戦術として大仰に過ぎるのは確かだ。魔力をケチり過ぎるのも良くないが、大盤振る舞いも同じくらい戦略的に愚策になる。今の判断で正解だ」
褒められると、二人の頬が少し赤くなった。年齢は色々だが、どちらも
さて、それはそれとして。
「う、うわあああああああああああああああ」
「助けてええええええええええええええ」
「いやああああああああああああああああああ」
どうやら三人パーティーのようだ。
先頭を走るのは戦士。後ろ二名はタンク《防御担当》と回復術士だろう。
先頭の戦士がこちらの方をちらりと見たが、すぐに顔をそむけると一目散に出口の方へ逃げて行った。
どうやら共闘するつもりはないようだな。
それに、
「どう思う、アリシア?」
「まだ1階層ですよね? 大量のモンスター出現トラップにひっかっかった可能性はあります。でも、ちょっと元気過ぎますかねー?」
「それはいいことなのではないのですか? ケガでもしていたほうが良かったと?」
魔族の少年ルギが怪訝そうに聞く。
「いや、別に無傷なのはいいんだ。だが、とっさにトラップに引っかかったんだから、普通はもっと、な」
「そうそう。フェンリルさんと遭遇したときなんて、勇者パーティーの皆さん、鼻水と泥と涙で、全身ぐちゃぐちゃだったんですから。それが死命が天秤にかかった時の普通の状態なんですよ」
大聖女アリシアはなんでも無いことのように解説するが、その壮絶な状況を想像して、何人かの生徒はごくりと喉を鳴らしたようだった。
そう。
今の奴ら、確かに息切れはしているように見えたが、防具に違和感を感じたのだ。
そういった違和感を大事にしないといけないというのは、さっき俺が生徒に教えたばかりのことである。
「ならば実戦あるのみだな。とはいえ、ここは適任者に任せるとするか」
「適任者? あたしですか!? この斥候のフィネにお任せあれ!!!」
「どの世界に戦力分散をさせる指示を出すリーダーがいる」
俺は肩をすくめる。
「フェンリル。お願いできますか?」
俺が肩をすくめている間にも、アリシアが指示を出す。
「やれやれ、神獣使いのが荒いのう」
『ぬるり』
とアリシアの影の中から、白銀の美しい美女が現れる。
フェンリルだ。
「頼みましたよ。主様のご命令とあればテンションもあがるというものよのう」
「主はこの私ですが?」
「アリシアはアリシアよ。にゃっはっはっは」
アリシアが文句を言う前に、フェンリルはトレインパーティーを追いかけた。
「鼻がきく彼女が見逃すことはないだろう」
「まぁそうですが……。やれやれ~」
と、そんなやりとりを見ていた生徒達からは、なんだかひそひそとしたやり取りをしていた。
「あれがオシドリ夫婦ってやつなんだぜ。一言二言しかしゃべってねーのに、あんなけ細かいオペレーションをやっちまうんだからなぁ」
「さすがセラ姫様が認めただけのことはあります。ちょっと胸やけがしてきました」
「あら、私はとても良いものを見せてもらっているわよん。山に帰ったら、ああいうダーリンをもらわなくっちゃ♡」
「皆さん、まじめにしてください。今は先生方のラブラブっぷりに議論の花を咲かせている場合じゃありません!」
そんなつもりはなかったんだが……。
とはいえ、ルギの言う通り、少し距離が離れていたモンスターたちが、姿を本格的に現し始めていた。
「ミノタウロス、骸骨剣士、オーガ。100階層レベルのモンスターだな」
(モンスター発生の罠にしても、少しレベルが高すぎる。だとすれば……)
「アリアケさん。考え事は後です。フェンリルの情報も総合して考えるのが得策では?」
「だな」
俺は頷くと、
「では生徒の皆!」
俺はよく響く声で宣言する。
「これより、探索パーティーは解散。この俺賢者パーティーの一員として再編成する。俺の指示に従え!」
「で、でもあんな高レベルモンスターと戦ったことないぞ!?」
フィネが悲鳴をあげ、他の生徒たちは目を丸くしたが、
「心配するな。むしろ、ウロチョロしている方が危険だ。俺の戦闘指揮下に入っているほうがむしろ安全だ」
「あ、それは私も保証しておきます。大聖女の名のもとに」
軽いなぁ、大聖女の保証。いちおうこの大陸で有数の権威ある保証なのだが……。
だが、俺とアリシアがウインクすると、生徒達が安心するのと同時に、
「「「はい、アリアケ先生、アリシア先生!!」」」
素直に、それぞれ、自分の戦闘位置へついたのだった。
こうして、トレインされた
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