第171話 人魔同盟学校パーティー結成&初陣

171.人魔同盟学校パーティー結成&初陣




さて、敵はミノタウロス、骸骨剣士、オーガが1匹ずつの混成か。


「≪回数制限回避≫≪スピードアップ≫≪攻撃力アップ≫≪クリティカル威力アップ≫≪クリティカル発生率アップ≫≪ブレス威力アップ≫≪物理攻撃力アップ≫」


「≪大結界生成≫≪大天使の息吹≫」


俺とアリシアがすかさず支援スキルと聖魔法を使用する。


「す、すごい。一瞬で幾つもの支援スキルを!?」


「すげえよ! あたしなんてただの斥候なのに、なんか戦士みたいに力がみなぎってきてるもん!」


「私も今だったらセラ姫様にだって負けないかも! 洞窟ごと吹き飛ばせそうなほどの魔力を感じます!」


ルギやフィネ、ソラが驚きの声を上げるが、俺は苦笑しつつ、引き続き口を開いた。


「敵へ≪防御力ダウン≫≪魔法耐性ダウン≫≪物理攻撃態勢ダウン≫≪精霊魔法耐性ダウン≫」


「「「ええええええ!?」」」


更なるスキル支援に、三人がまた驚愕の声を上げた。


あ、そう言えば、ここまで力の一端を見せるのは初めてか。


「というか、アリアケさん以外に10個も20個もスキルを重ね掛けできる人間はいないから、初めてに決まっているんですよねえ……」


「心を読むなよ」


「正妻ですので~」


「むぅ……」


最近彼女だけには、かなり押され気味の俺である。


「先生方、のろけはもういいんですか? けっこううずうずしてきたんですが?」


いつもは何事も他人事、といった風なキュールネ―が声を上げた。


別にのろけではない。


それにしても、


「やっぱりコレットドラゴンっていうのは、ああなのかね?」


「そうですね、強敵を見ると血の気がうずくのでしょうかね~」


俺たちは苦笑しつつ、


「ああ。これでお前たちは通常の10倍の力を得た。互角以上に戦えるはずだ」


「あと、私の大結界と大天使の息吹で、敵の攻撃をかなり防ぎつつ、自動回復の効果が発揮されますので、おそらく致命傷は防げるはずです。とはいえ、死なないように気を付けてくださいね」


ニコニコしながら言った。


まぁ、死んだらアリシアが蘇生魔法を使うだろうが、緊張感をもって戦ってもらうためには言わないほうがいいだろう。


さて、何はともあれ、


「人魔同盟学校パーティー、俺たち教師陣も加わっての初陣だ。地味に手堅く勝つぞ!!」


「派手にではなくて?」


フィネの言葉に俺は苦笑し、


「そういうのは俺の性分ではないのでな」


俺の返事とともに、一番手貰い! とばかりに、キュールネが単身で突っ込んで行った。


それを見て呆れた様子で、すかさずウィンドカッターで牽制するソラは大したものだ。


続いて、フィネがツッコミ、それに遅れまいとルギが突っ込んでいった。


出来ればルギはちょっと様子を見ながら、フォローするような立ち回りの方が良かったんだが、そのあたりの感覚は実戦で身につけていくだろう。






さて、俺たちの支援スキル・魔法によって生徒たちは善戦していた。


回避や結界による防御。


クリティカルがヒットすることによって、数段上の敵と互角の戦いをしている。


いかに支援スキル・魔法が重要かが分かるというものである。


と、その時、意外なことが起こった。


「≪攻撃力アップ≫スキルをルギに使用します」


「「「「へ?」」」」


「ほう」


攻撃力アップのスキルがルギ単独に使われたのだ。


俺の場合は全員に対して、相当の強化度合いのスキル効果なので、ピノのスキルは大した効果ではないだろう。


だが、問題はそこではなくて、


「ピノ! あなた、支援スキルなんて使えましたの!?」


「……」


ドゴオオオオオオオオオオン!!!


と、ミノタウロスの頬を張り飛ばしたキュールネ―が突っ込みの声を上げていた。


そうなのだ。


ピノと言えば、クラスの中でも浮いた存在。


種族不明、無言、時々意味のあるのかないのか分からない言葉を話す、といった謎の存在なのである。


そんな彼女がこの窮地(いちおうそう言って良いだろう)において、戦力として活躍するというのは、余りにも意外なことなのである。





ただ、それ以上のスキル使用をピノはしなかったので、クラスメイト達もそれ以上は追求せず、戦闘に注力した。


俺の支援スキルが強力なのは議論の余地はないし、大聖女の聖魔法が比類無きものであることも言うまでもない。


何せ、邪神を退けた救世主たちの支援なのだから。


それによって、生徒たちの力は本当に格段に向上していた。


キュールネ―はゲシュペント・ドラゴンゆえに、元々の強いということもあったろうが、フィネやルギ、ソラも格上のモンスターを圧倒しはじめていた。


「どっせええええええええええええい!」


フィネの切れ味の増した短剣の一撃が、骸骨騎士の首をはねる!


「よっしゃああああああ! きっもちいいいいいいいいいいい!!」


喝采を叫ぶ。斥候が本務の彼女のしてみれば、こういった目立つ瞬間と言うのは快感なのだろう。


「馬鹿! 油断するな! ≪デス・ファイヤ!≫」


と、すかさずルギがフォローに回る。


フィネに向かって、オーガが突進してきたのを、暗黒魔法で真横から攻撃したのだ。


おかげで不意打ちになったが、フォローが無ければ危なかっただろう。


「なーに、あんたならやってくれると思ってたぜ!」


グッ! とフィネが調子のよい様子で親指を立てるが、ルギは不満そうだ。


「打合せもなしに」


「心が通じあってんだから、いけるって分かるだろ?」


「な、何を言ってるんですか!」


フィネが当然といった様子で言うのを、ルギは顔をプイっとそむけて怒ったように言った。


フィネは不思議そうな顔をするが、


「はいはい。命は大事にしてくださいね。これでおしまいですっと!! ウィンド・ソード!!!」


風で作った剣が、ルギのデス・ファイヤーでダメージを受けて混乱しているオーガを両断した。


ミノタウロスの方はキュールネーが押さえていたが、どうやら一人で倒してしまったようだ。





「よし、戦闘終了だ。初陣にしては、よくやったみんな」


俺は彼らを褒める。と、同時に、


「今回は俺と彼女の支援があったから特別だったことは忘れないで欲しい。本来ならば100階層以降で遭遇する敵だ。今のお前たちのレベルなら、うまく逃げる作戦を立てろ」


「というか、フィネの攻撃は無謀すぎると思います。ヒヤヒヤしました」


ルギが文句を言っている。


「だから信じてたんだってのに~。あたしがそんなに信じらんないのかよー」


ベーと、フィネが舌をだして抗議した。しかし、


「いえ、信じられないのは……。僕の力で……」


「?」


フィネは首を傾げるが……。


(ふむ)


そういうことか。


まじめなルギはまだ自分がパーティーに十分貢献できる自信がないし、あてにされると大きなプレッシャーを感じるのだ。


とはいえ、こればかりは実戦を重ねていくしかない。


そう伝えようとしたところ、また意外なことに、


「ルギ」


ピノがルギに話しかけた。


「は、はい? え? ピノ?」


「本当に解決出来ないことが起こったら、このセリフを言うといい」


そう言って、彼の耳にゴニョゴニョと何かを吹き込む。俺にもその言葉は聞こえない。


「は、はぁ……」


言われたルギも、何をされているのか、よくわかっていないようだ。


ふむ、だが、どうやら彼のことはピノが受け持ってくれるらしい。


なら、


「安心だな」


「何か言いましたか、アリアケさん?」


「いや」


俺は首を振り、


「では、少しアクシデントがあったが、第2階層へ下りるとしようか。スキル支援は解除するから、さっきのようには行かない。十分気をつけてな」


「「「「はい!」」」


ピノ以外は戦闘後なのか、いつもよりも気合の入った返事をし、


「はーい」


ピノはさっきまでの人が変わったような様子はなりをひそめ、いつものよく分からない、間延びした感じの返事をしたのだった。


こうして俺たちは次の階層へと下りて行ったのである。


ところで、


(あの三人。どいつも赤いアクセサリーをつけていたな……)


俺はあのトレインをしかけた三人のことを考える。


(フェンリルはそろそろ、奴らにおいついて、拠点をつきとめた頃かな?)


彼女のことだから、心配はしていない。


ダンジョンから出たくらいには、十分な情報が得られるだろう。


いや、何かもっと違うものも持ち帰るような。


そんな予感がする。


なぜなら、


(赤色か……。あの色は確か……。いや、先入観は禁物だな。とはいえ、ずいぶんきなくさくなってきたな。俺のしようとしている事がずいぶんと邪魔らしいな。今回の”黒幕様”には)


そんな曖昧ながら見えてきた暗雲を見据えながら、俺は生徒たちの引率を続けるのだった。


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