第169話 ダンジョン攻略をやってみよう
169.ダンジョン攻略をやってみよう
~ アリアケ視点 ~
「さて、今日の授業が何か、分かっているな?」
俺の問いに、一番元気なフィネが真っ先に答えた。
「待ちに待ったダンジョン攻略に決まってるじゃん! じゃなくて、ます! 今から楽しみ~」
「遊びに行くわけではないからな?」
「分かってます! そこは、はい。冒険者の娘なので!」
と言いつつも、フィネの顔は喜色満面といったところだ。
まあ、これが油断と言うべきか、
冒険者稼業など、全員それなりにスリルを求め、気合がないと出来ない、アウトローだから、彼女の態度はむしろ普通だともいえる。まぁ、そのあたりは俺がサポートすればいいか。それに、
「勝手はこのリーダーのソラが許しませんよ! ダンジョンを走ったら校庭100週です!」
「ダンジョンと学校の廊下を混同しているリーダーがいる冒険者パーティーがいるらしいけど、大丈夫かしら、アリアケ先生?」
キュールネ―が呆れた様子で言った。
「まぁ大丈夫だろう。それに学校の廊下より、ダンジョンを走るほうが危ないしな」
「モンスターに見つかりますし、罠にもはまりますからね」
ルギがまじめな様子で頷いた。
「論点がずれてるような気がするけれども。まぁいいか。ピノ、あなたはどう思う?」
あまりしゃべらず、今もキョロキョロとしているピノに、キュールネーは話しかける。
「晩御飯までには帰って来たい」
「あら、それは重要な指摘ね。野宿はお肌に悪いから」
「ダンジョン内での野営は予定していないから、そのあたりは心配ないと思うぞ。早朝に入って、夕方には出てくる。目的は一度ダンジョンがどんなものか、実際に見ること。弱いモンスターと戦ってみることだ。ダンジョン名は『深淵のダンジョン』で300階層あるが、今日は10階層まで踏破することを目的にする」
「先生もついてくんの?」
フィネの質問に、
「もちろん。俺が付いて行こう。これでも支援は得意な方なんだ」
俺がそう言うと、生徒達全員から、
『得意とかそういうレベルじゃないよね?』
という生暖かい視線を向けられるのであった。
ともかく、かくしてクラスメイト+同伴教師一名(俺)は、近隣のダンジョンへと赴いたのである。
さて、『深淵のダンジョン』であるが、10階層までで出てくるモンスターは強くない。
せいぜい、ゴブリンやスライム、コボルト、人食いバットといった、Dランクレベルのモンスターである。
なので、
「≪ウインドブレス≫! よし、スライムどもを壁に追いやりました! ルギとどめを!」
「分かった!!」
「3匹いっぺんだと、手が足りないでしょ! 手伝うよ!」
「追い込みもいいですけど、頭上が少しがら空きですわよっと!」
「ピノもやるー」
子供たちでも、俺たち優秀な教師陣の訓練を受けている彼らからすれば、余裕のある戦いになる。
本来、ダンジョン攻略というのは、これくらい余裕のある状態でやるほうが好ましい。
勇者パーティーにいた時は、やたらと高ランククエストを受けようとして辟易していたものだが。
まぁ、ビビアとしては、そうやって少しでも世界平和に貢献しようとしていたのだろうが。
「いえ、アー君。あれはただの名誉欲ですから。げひひひ、これでまた金と女が入れ食いだぜええ、って言っていたでしょう?」
「おっと、そうだったか? もしそうだとしたら、最低だなぁ」
「もし、ではなく、事実なんですがねえ」
さて、このダンジョン攻略に同伴するのは、俺だけのつもりだったのだが、アリシアもついてきてもらうことになった。理由を聞くと、
「将来のためです」
「将来?」
「えーっと、まぁ子供ってどう育つのか、私としても個人的によく見ておきたいな~、と。」
そう言って頬を赤らめるのであった。
なるほど。
ごほん。
あー。
俺は返事をせずに、ただ頷くにとどめた。別に言葉にしなくても、お互いの気持ちを理解しあっていればそれでいいからだ。
ちょっと話題を変えた。
「連携もいい感じだな」
「ですね」
アリシアも教師の顔にすぐに変わる。こういうところは、さすが教会の序列第3位の大聖女である。
「この前のアリアケさんの実技訓練が効果を発揮している気がしますね。全員で敵に向かって行動しています。ルギやフィネが目標に目を奪われがちになったところを、キュールネ―さんがすかさず、頭上からの人食いバットの襲撃を防ぎました」
「ドラゴンでも案外ああいうサポートタイプの奴もいるんだな」
「コレットちゃんと見ていると意外ですよね。やっぱり、何でも見ておかないと」
そんなやり取りをしている間にも、フィネがマップを作りながら、進んでいく。
それほど広いダンジョンではないので、地下第2階層へ下りる階段を発見した。
「よし、じゃあ下りようぜ! みんな!!」
フィネが元気よく一歩踏み出した。
が、
「おっと、ストップ。まだ2階層へ行くのは、危ないな」
「へ?」
俺に首の襟元をつかまれて、猫のようにぶら下げられたフィネがポカンとしていた。
「先生、心配しすぎだって! まだ低階層だよ!!」
抗議するような声だが、
「よく観察しろ。ダンジョンのごつごつした岩肌に比べて、この階段は少し奇麗すぎないか?」
「あれ? そう言えば?」
「つまりな」
俺が一歩踏み出すと、
『いただきまーす!!!!』
階段かと思われた空間が、いきなり大きな口のようになり、俺を丸のみしようと襲い掛かってきたのである。
「「「「うわあ!?」」」」
「ということがありますのでね」
『うが?』
≪イリュージョン≫
幻影の俺を丸のみし、歯ごたえのなかったモンスターは、何が起こったか分からないといった表情を浮かべる。
≪攻撃力アップ≫付与
「アリシア、頼む」
「あいあいさー」
彼女はそう言うと、一歩、二歩と進む。
「ちょっと、アリシア先生、あぶなっ……!」
ルギが慌てた声を上げる。
無論、可憐で
しかし、
「三歩必殺、聖女さんパーンチ!!!」
ズドン!!!!!!
その正拳突きはモンスターを貫通し、その奥の壁がひしゃげるほどの攻撃力を発揮する。
「スキルはいらなかったな」
俺は苦笑するが、
「いえいえ、こうやってアリアケさんにスキルをかけてもらうと、守られてるって感じで、スキル以上のパワーが出るんです。これからも宜しくお願いします♡」
よく分からんが、そういうことらしい。
ま、それはともかく、
「や、やっぱ、さすがアリアケ先生だなぁ」
「うん、本当にすごい」
「奥様のアリシア様もすごいです! これはお似合いカップルですね!」
「ていうか、この二人だったらドラゴンより強いんじゃ?」
「さすがー、アリアケ―、アリシア―」
生徒たちが歓声を上げていた。
「お前たち、感心するのはいいが……。ダンジョンとはこういうところだ。ちょっとの変化に気を付けろ。そこに大きな罠が眠っていることがある」
「はい!」
返事を受ける。
とはいえ、
「これはミミックの一種だな。低レベルで階段化けるタイプだ。だが1階からというのは珍しい」
「ですね。うーん、聖女さん的直感では、少し嫌な予感が……」
そう、アリシアが言った時である。
「う、うわああああああああああああああああああああ!!」
「助けてくれ!!!」
「なんでこんなところに、あんな!!!」
どうやら別の冒険者たちのようだ。
悲鳴を上げながら、別方向からこちらへ走ってくる。
「なんであんな
どうやら、大きなトラブルが発生しているようだな。
やれやれ。
俺は杖を構えなおすと、そちらへと注意を向けたのである。
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