第166話 実技
166.実技
~アリアケ視点~
「さて、今日は実技科目だな。どこからでもかかってこい」
実技科目は大きな平野を使用して行う。
丘や川がある場所で行うこともあるが、今日は学校の近くの
実技の内容は、教員である俺に、生徒たちが日頃の修行の成果を実戦で試すというもので、特に禁じてもない。
(科目の中でも一番、生徒たちが好きな科目だったはずだ。歴史とか外国語とか、机上の勉強は眠くなりがちだしな)
それはビビアたちを指導した経験を思い出して苦笑する。
だが、意外なことに、生徒たち5人はぽかんとした表情を浮かべていた。
誰一人かかってこない。
「あれ? どうした?」
俺が首を傾げていると、エルフ《学級委員長》のソラが挙手しながら言った。
「アリアケ先生! いつもならコレット先生や、ラッカライ先生ですが、今日はアリアケ先生がお相手をしてくださるんですか?」
なるほど、説明していなかったな。
「ああ。彼女たちはほれ、向こうの方で見学だ。たまには他の先生の実技指導がどんなものか見たいとのことだ」
先日、職員会議で教育方針の違いを確認した俺たちは、じゃぁ、少し出来る範囲で科目の教え方をお互い見学してみようということになったのだ。それで、いいところがあれば、自分の教鞭にも採用しようというわけである。
学ぶとは真似ることだとはよく言ったものだ。ビビアなんかはそれを言うと、「だっせえええええええええええええ! 俺はオリジナルで人まねなんか一切しねえからなあああああああ!!!」 と哄笑していたものだが。
ちなみに、2,3日経過したあとに、こっそり他人を盗み見しているビビアを見かけることが多々あった。まぁ、そういう素直になれない可愛い奴である。あれは。
さて、それはともかく、俺が担当する理由は合点がいったようだが、次は魔族の子のルギが挙手する。
「ですが、先生はバックアップの天才ですよね? 僕たちはまだ生徒の身ではありますが、それなりの攻撃方法をすでに修得していいます。実戦だってこなせるほどに! なので……」
「なんだ。俺を倒してしまうことを心配してくれているのか?」
「えっと、その、まぁ」
「ちょっと、ルギ! あんたアリアケ先生に対して失礼じゃん!」
人族のフィネが怒声を上げるが、その言葉のニュアンスはルギの言葉の内容を否定したものではなく、言い方に対する文句だと言えよう。
「あいつらちょっとブレスしてくるか」
「お姉様すとーっぷです! すとーっぷ!」
遠くからやんごとないやり取りが聞こえてくるので、俺は少しばかりはっきり言っておくことにした。
「お前たちは優しいな。まぁ、確かに普通ポーターや支援術士といった、俺の様なタイプに集団でかかれば、普通負けないと思うのも無理はない。だがな」
俺は微笑みつつも少しだけ声のトーンを落とし、
「その程度の実力で俺の相手になると思えるとは思わないことだ。俺なら、今しゃべっている間だけでも、お前たちを100回以上倒せる」
「「「「!?」」」」
普段から何を考えているのか分からないピノ以外、全員が俺のプレッシャーを感じたように、今まで持っていた余裕をなくす。
「あー、すまんすまん。脅かすつもりじゃなかった。だが」
伝えたかったことはこれだ。
「そんな甘い認識では。ダンジョンに潜った途端死ぬ。冒険のクエストで失敗して死ぬ。野盗やならず者に負けて死ぬ。だから、そういった油断は今後一切禁じる。できるだけ肝に命じておいてくれ」
そう言うと、彼らは半信半疑ながら、納得したようだ。
「まぁ、戦ってもいないのに、納得も無理か。さ、だからこそ、だ」
俺は杖を取り出して、
「一斉でも、一人ずつでもいいぞ。かかってこい。そして自分の実力を確認するといい」
その言葉に、生徒たちの目つきが、普段の日常生活のものから、戦闘態勢へのものに変わったことが分かった。
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