第165話 仲良くさせるには?

165.仲良くさせるには?


「いやぁ、なかなかあれだけの種族を仲良くさせるのは難しいな」


俺は職員室に戻ってきて、微笑みながら言った。


ラッカライが何があったかと、どういう対応をしたのかを説明した。


「どうしたら仲良くなってくれるんですかねえ。やっぱり時間をかけてゆっくり……」


そうラッカライが話していると、


「それは手ぬるいと思うのじゃ! そこは、ビシバシーっと、指導!指導!指導なのじゃ!」


コレットがザ・スパルタな意見を言った。


「コレットちゃんは意外とスパルタな先生ぶりなんですよね。意外なことに」


「だってアリシア。あいつら幾ら言い聞かせても反省も何もしとらんのじゃ! ならばここは鉄拳制裁なのじゃ! 最悪ブレスなのじゃ~!」


「お姉様、それは校舎が消失しますって」


「そうですねえ。とりあえず腕立て、スクワット1万回ずつとかにしましょうか。パワーは全てを解決しますし」


「あはは~、それは人体が消滅しそうですね(汗)」


ラッカライが苦笑した。


「とはいえ、実はこの中で一番気苦労しているのはラッカライだろう。すまないな」


俺がそう言うと、ラッカライは驚いた様子で、


「え?」


と言った。


「ラッカライの受け持ちは、もちろん槍の訓練ということで、実技も担当してもらっているが、本命は家庭科マナーや一般教養関連だ。あれだけ個性的な生徒たちを一度に教えるのは大変だろう。すまないな」


「え、そ、そんな。私なんかを労わってもらって、その大したことは出来てませんし」


「謙遜ぐせがあるなぁ、ラッカライは。あまり無茶しないでくれよ。お前が頑張ってくれていることはよく分かってるんだから」


「は、はい! 私のアリアケ先生!」


ラッカライがなぜか瞳を輝かせ頬を染めながら言った。


「はー、この朴念仁。朴念仁。朴念仁。隣に新妻がいるというのに~」


「す、すみません、お姉様、そんなつもりでは!?」


「分かってますよー、ラッカライちゃんが悪くないことは自明の理ですからねー。悪いのはこいつですよねー。大賢者さーん」


なぜか、ゴゴゴッゴゴゴ……、という効果音が、俺の隣にいるアリシアから上がる。


「一体、なぜだ?」


時々本当に身に覚えのないことで、こうやってアリシアからプレッシャーを受けることになるのだ。


先日、邪神を倒したが、その比ではない。とまぁ、それは大賢者ジョークだが……。


「まぁ我は歴史や言語担当ということで、少ない科目しか受け持っておらぬので偉そうなことは言えぬが……」


と、俺たちのやりとりをのんびりとした様子で眺めていたフェンリルが口を開いた。


なお、今は狼の状態であり、ローレライが時折モフモフとしている。


彼女は人型の時は雪のような美しいロングストレートのヘアスタイルだが、狼の際は美しく青い光沢の毛並みとなる。その手触りは触っているだけで夢見ごこちになるほど柔らかい。


モフられるのは人を選ぶようだが、ローレライのことは「良い根性をしている娘」ということで、モフる許可を与えているようだ。


なお、今は不在だが、この辺境国の斥候を担当してくれているバシュータは、モフろうとしたら、片腕が氷ついた状態で発見されることになった。なかなか厳正な審査基準があるのだなぁ、と思った次第だ。


なお、俺はモフってOKである。モフるようにすり寄ってくることもある。また、その際にアリシアが追っ払うこともあったりして、モフれる機会はそれほど多くは無い。


えっと、何の話だったか。


ああ、フェンリルの教育方針の話だったな。


「その場その場で臨機応変にする必要があるのではないかのう? 種族ごとに、あともっと言えば個人ごとに考え方に相当違いがあろう?」


彼女はアンニュイな雰囲気で言葉を続ける。


「例えばのう、人族の子フィネなどは、打たれ強いのう。一方で、幾ら叱っても馬耳東風であったりするときが多い気がするのが欠点ともいえる。じゃが、誰とも分け隔てがない。一方で、魔族の子のルギはやられたらやり返す、が徹底されているのう。魔族ゆえかの? だが、個人としてみれば、相当に生真面目な男子であるがゆえ、あまり厳しく叱責すると、予想以上に気にしていたりもする。割と他人との接触にデリケートな感じもするし。そのあたりのバランスに気を付けてやらねばならぬのではないかのう?」


そう、実は人間は案外耐久力が高かったりする。逆に魔族はそれほど攻撃的ではないが、正当防衛の時は割と徹底的にやる、といった特性がある。


そして、個人レベルで言えば、コミュニケーションレベルは千差万別だ。


アリシアは頷きながら補足するように、


「あとエルフは、エルフらしい潔癖さをもっていますね。ただ、視野は広いのですが、かなり偏見もあります。排他的な意見も結構言いますからね~」


よく退学退学とクラスメイトに言っているからな。


「あと、キュールネ―はクラスメイトにあまりとけこめてないんですが、あれは逆にドラゴンらしいっちゃらしんですよね」


「儂はすぐに旦那様と打ち解けたのじゃ!?」


「どっちかが例外なんだろうさ」


まぁ、どちらが例外かは分かりやすいと思うが。


あとは、ピノ。一見人族に見えるいで立ちだが、実は別種族の彼女だが……。


しかし、彼女に言及する前に、コレットが叫んだ。


「むむむむむ! 一人一人で対応を変えぬといかんのか! わしには難しいのじゃ!!! じゃじゃじゃじゃ!」


「まぁ落ち着け」


なでなでと俺はコレットの頭を撫でる。


「しかし。うまく出来る自信がないのじゃ、旦那様。あやつらを仲良くさせるなんて。むにゅにゅにゅ、わしは先生失格かもしれん」


「そう考えられるうちは大丈夫だと思うぞ?」


なでなで。


「え?」


おとなしくなでられながら、コレットがきょとんとした表情で見上げた。ちょっと涙ぐみながら。


「俺たちだって先生一年生だからな。いきなり何もかもうまくいくはずがないんだ。手探り手探り、それこそ今日みたいに皆で話合いながら、どうすれば生徒たちのためになるか、考えながらやっていくしかないんじゃないかな。何しろ、多種族の学校というのは前例がないから、何もマニュアルがないわけだし、正解なんてないんだよ」


「それでいいのか? 失敗しても?」


「いいさ。まぁ無責任と言われるかもしれないが、それは外野の意見というか、無責任な遠吠えみたいなものだな。気にする必要はない。俺たちが目指すのは、100年後の世界だからな」


「まーた、壮大なことを言い出す」


アリシアが呆れた口調で言う。


だが、別にその瞳は茶化している様子ではなかった。俺の心情を一番理解しているのは、彼女なのだ。そのことは疑いを持つことは一生ないだろう。


「100年後にあらゆる種族が当たり前のように交流できる世界。その橋頭保きょうとうほ。きっかけを作ろうとしているんだ。気長に行こう。それに……」


俺はそう言って、皆を見渡し、


「俺たちだって、別に誰かが強制したから仲間になったわけじゃない。彼らも一緒だ。いろんなイベントをのりこえてきっと良い仲間になれるだろうさ」


「本当かの、大丈夫かのう」


「案外心配性よのう、このドラゴンは。我は見ていて面白くてよいがのう。きっと良い母になりそうであるなぁ。教育ママになるのではなかろうか?」


「なっ!? それとこれとは別なのじゃ!?」


なぜか全然別の話題が始まってしまったが、ともかくこうして日々、俺たちもクラスメイト達のことを気にかけながら、授業を進めているのだった。


(まぁ、そういう意味では実技を少し多めに取り入れてもいいのかもしれんな)


そんなことを少し思ったりした。

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