第5章 人魔同盟学校を作ろう!
第163話 学級崩壊
163.学級崩壊
『ドンガラガッシャーン!!!!!!!!!』
「こらぁ! 二人とも席につきなさい! 今は家庭科の時間でうわっぷ!?」
少し通りかかった俺は、教室の窓から中を見て、いつもの光景に苦笑を浮かべた。
ここはアリアケ・ミハマ辺境伯が作った中立国オールティの中心街に作られた学校であり、その名も人魔同盟学校と言う。
その理念は、学校の名称通り。
これまで長い戦争をしてきた人族と魔族の融和を、幼いころからの教育を通じて行う、というものだ。
ただ、この2種族だけではバランスが悪い。
このエンデンス大陸には沢山の種族がひしめきあっているので、他の種族の生徒も加えている。
まずは小規模、一つのクラスを編成し、人数も目が届く範囲のぎりぎりの5人とした。
人族は1名。名前は『フィネ』。
魔族も1名である。名前は『ルギ』。
そして驚くことにエルフ族からも1名が参加。名前は『ソラ』。
また、更に驚くべきことにドラゴニュート。つまりゲシュペント・ドラゴンからも人型で1名が参加している。名は『キュールネー』。
ただ、これだけだと4人である。
残り1名は、
「ラッカライ先生、問題ありません。授業を続けて下さい」
白いワンピース姿で、無表情。ベリーショートの黒髪。何を考えているか分からず、しかも種族は公式には不明となっていた。名前は『ピノ』。
「そうもいかないよ~。ほらほら、喧嘩しちゃだめだよ~。まーた、アリアケ校長? アリアケ辺境伯? に怒られちゃうんだから」
「へっへーん、ならこのスキルを見破ってみなよ! 斥候スキル≪ステルス≫!」
そう言ったのは、冒険者の子供で将来は自分も冒険者になりたいと熱望している人間の女の子、フィネである。
「こらー!? お裁縫に使う、布で姿を隠さないの!!!」
「ならこっちにも考えがありますよっと!」
「こらー、ルギも応戦しないの! いや、どうなのかな? 売られた喧嘩はほどほどに買うべきなような気もしてきました。うーん」
先生たるラッカライも悩み始めた。まぁ、別に教える専門家ではないしな。
とはいえ、悩んでいるうちに魔族の男の子ルギが対応策を繰り出した。
あれは、
「魔術≪ブラトリオン≫!」
ルギの声とともに、彼の体が一瞬で血液のようにパシャリと崩れ落ちると同時に、無数の
「うわぁ、すごい! なんかわかんないけど、かっこいい!」
とフィネが悲鳴のような歓声のような声を上げれば、
「あっはっはっはっは! やっぱこのクラスさいっこー! 退屈しないわー!!!」
と、のんきな声にゲラゲラ笑っているドラゴニュートの女子キュールネー。
なお、彼女はわりとゲシュペント・ドラゴン種族のやんごとない家系の娘だったはずだ。
「こらああああああああああああああ! 二人とも!!!! これが見えないの!??!」
と、そこに一喝の怒声が飛ぶ。
悩める先生……は放っておいて、生真面目そうな肩まで伸びた金髪、そして碧眼をもつ幼い少女ソラが黒板の横の紙をビシっと指さした。
「分かってるよーだ!! ソラこそ文字が読めないのー?」
「だからこうして牽制攻撃だけにしているのですよ、ふ。ソラは相変わらず頭が固いですね」
エルフの少女……。ソラと呼ばれた少女が指さした先の紙面にはこう書かれていた。
『喧嘩はしてもいいけどマジギレはご法度だ。攻撃をするくらいなら頭を使って嫌がらせしろ BYアリアケ・ミハマ』
(あれは、アリシアになんでもいいから訓示のようなものを書けと言われたので、校舎が破壊されないように最低限のルールを書いたものなのだが……)
しかし、
「あんたらぁ~」
声のトーンが一つ下がったソラの周りに風の精霊が大量に舞い始めた。
おっと、こりゃまずいな。
「校舎の建て替え費用なんぞ、予算に計上してないぞ?」
俺は困った表情を浮かべる。
そんな間にも、ソラの魔力は結集し、一つの
「精霊魔法≪ウインド・ブレス≫!!!!!」
「おいおい! マジ切れしてしてんのはっ……!」
「あなたのほうじゃありませんか!?」
ソラの攻撃魔法に、人間のフィネと魔族ルギは慌てる。
このままだと教室どころか、校舎もただでは済まないからな。
ただ、
「はい、そこまで!」
俺の言葉が割って入る。
「生徒たちへ≪無敵付与≫。ラッカライ」
「はい。次元、一閃」
シャキン!
「「「「「……あれ?」」」」」
今までの喧噪というか、学級崩壊というか、学校崩壊が嘘のようにピタリと止まる。
そこには、聖槍で『何か』を一閃したラッカライが微笑みを浮かべてたたずんでいるだけである。
「学級崩壊もほどほどにな」
「ア……」
皆がこっちを見て、
「「「「「アリアケ先生!」」」」」
先ほどまで学級崩壊させていた生徒たちが、おどいた表情で初めて俺に気づき振り返るのだった。
まぁ、そんなわけで、現状人魔同盟学校は毎日学級崩壊しているのが、嘘偽らざる本当のところ、というわけなのである。
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