第162話 エピローグ2 ~ひと時の団欒~

162.エピローグ2 ~ひと時の団欒~




オールティ村でひと悶着があった後、俺たち賢者パーティーは全員でピクニックに来ていた。


空は晴れていて、風が吹くと高原にはのどかに草の匂いが香った。


「にょわわわわ! これはうまいのじゃ! さてはアリシアの作なのじゃ! 間違いない!!!」


早速広げたお弁当バゲットからサンドイッチを頬張りながら、コレットがはしゃいでいた。


しかし、


「あ、いえ~。そちらはわたしの作ではなくてですね~」


「す、すみません、コレットお姉様。それはボクの作ったサンドイッチでして」


アリシアとラッカライは両方頬を搔きながら訂正した。


「ラッカライ! いつの間にこれほど料理の腕を上げたのじゃ!? わしは教えておらぬというのに! なお、わしは料理は出来んけどね!」


「いちおうテーブルマナーですとか、一通りの教育は受けさせられていまして。というか、本当はそっちが本職になるはずでしたので」


「ボクっ娘槍娘のくせに、お嬢様属性も持っておるのだから、本当に恐ろしい娘であるなぁ、もぐもぐ」


ちょうどよい岩に腰かけながら、フェンリルは風に美しい銀髪をなびかせながら、優雅にサンドイッチを頬張りながら言う。


「わしもそういうギャップみたいなのが欲しいのじゃ! 今度教えて欲しいのじゃ!」


「もちろんいいですよ、お姉様!」


「私もお願いします! おいしいお料理を、あ、あ、アリアケさんに食べさせてもごもご」


「はい、もちろんアリシアお姉様も!」


加熱にブレスが使われたり、怪力によって厨房が粉砕され、崩壊する未来が見えたが、それを口にすることで俺自身が崩壊する未来も見えたので、賢者たる俺は口をつぐんだ


「アリアケ様、何か言いたそうですが、どうされましたか? 思うことがあるのでしたら、口にされたほうがストレスがなくて良いと思いますが」


「ローレライ、お前のその勘の良さは何なんだ……」


淡々とつっこむローレライに、俺は苦笑を浮かべるしかない。


何はともあれ、全員がゆったりとした時間を共有している。


のんびりと時間が過ぎていく。


まるで空を流れる白い雲のようだ。


「ふむ、それにしても、ごくり! いちおう村の重鎮たるわしらって、こんな風に遊んでいても良いものなのじゃ?」


コレットが指をなめながら言った。


それを見て、アリシアがハンカチで指をぬぐってあげていた。


仲の良い姉妹みたいである。


まぁ、ドラゴンたるコレットのほうが千歳ほど年上なのだが、これも口にすれば禍のもとであろう。


俺は彼女の質問に微笑みながら、


「もちろんだ。お前たちだって、毎日沢山働いているだろうに。たまにはこうして羽休めをしないとなあ」


俺も草原にごろりと横になって、雲がゆっくりと流れていくのを見守りながら言う。


「ですが、それを言うのでしたら、先生の方こそ沢山働いているのではないですか? ボクたちの休憩につきあっていては休めないのではないでしょうか?」


まじめなラッカライらしい疑問を口にした。


やれやれ。


俺は微笑む。


ふと、隣を見ると、やはり草原に寝転がるアリシアがいた。彼女も同じことを考えているのだろう。


優しく微笑んでいた。


俺はラッカライの質問に、やはり首を振って、


「そうじゃない」


そう言ってから、


「すまん、すまん」


と謝った。


大事なことを一番最初に言い忘れていたからだ。


「俺がこうやってお前たちと遊びたかったんだ。言ったろう? 俺の夢はのんびりすることだと。それはこうやって平和な片田舎で、お前たちとピクニックをすることなんだ」


「「「え??」」」


コレットたちが驚いた声を上げた。


「旦那様の望みが、わしらとこうやってのんびりすることなのじゃ?」


「そうだぞ?」


俺はあっさりと頷く。


アリシアはそんな俺の方を見て、嬉しそうに微笑んだ。


俺の答えを聞いて、他のみんなも嬉しそうに笑う。


と、


「にゃならば、余興が必要じゃな! 一番コレット、ブレス吐きます!」


コレットがいきなり嬉しそうに口を大きく開いた。



『そういうのはいらん!』



全員がつっこむ。


だが、みんな楽しそうだ。


そんな平和な光景が、オールティ村の片隅で見られたのだった。


……ただ、まぁ当然と言えば当然。


(今まで世界を救ってきた俺の様な人間が急に暇になる訳もないだろうな。こうやって団欒の時間が徐々に取れるようになれるといい)


これが束の間の。ひと時の団欒だと知っている。だからこそ余計に大事に感じる。


俺はまた空を見上げたのだった。

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