【書籍化＆コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って来られては困るのだが？

第154話 ちょっとハッキリさせておきたいのですが

１５４．ちょっとハッキリさせておきたいのですが

（続きです）

「あー、ごほんごほん。だいぶ盛り上がられているところ、すみませんが、ちょっと宜しいでしょうか」

主要メンバー全員がそろった部屋で、アリシアが挙手した。

「どうした、アリシア？　大事なことか？」

「うーん、そうですね。これを確認しておかないと、最終決戦にはのぞめない程度のことなのですが」

「あら、超重要事項ではないですか。私の説明に何か漏れていましたか？」

女神イシスが首を傾げる。すると、アリシアは力強く頷き……だが、顔を真っ赤にしながら、俺の隣にくると、腕をがっしりと掴んで、

「お、おい。アリシア。その胸があたっているんだが……」

という俺の抗議の声は全く聞き入れらず、そのまま彼女は女神を睨むようにすると、

「これはあたしのですので」

「「「「………………」」」」」

一瞬の静寂の後、

「おいおい、アリシア。さすがにそれは今言うことじゃ……」

俺がたしなめようとしたのだが、

「うおおおおおおおおおおおお！　さすがアリシアは目の付け所が違うのじゃ！　本当なのじゃ！　なんか急に参戦してて気づかんかったが、何気にこのメンバーの中で一番縁もゆかりもあるポジションにおる。しかも、さらっと『君（くん）』付けで気安いのじゃ！！！」

「お、おい、コレットまで何を……」

俺は改めて彼女もたしなめようとするのだが、お構いなしに俺のもう片方の腕にムギューとしがみつく。ちなみにアリシアとは若干感触が違うのはご愛敬である。

「儂のじゃ！　儂のったら儂のなのじゃ！！　ふえええええん！！」

「お姉様ったら、泣かなくてもいいじゃないですか。ねえ、先生♡」

「と、言いつつ、ラッカライ。重いんだが？」

「もう。僕（わたし）だって女の子なんですよ？」

「よく知ってるが」

「あっ、えっ、あっ、そ、そうですか。えへへ～」

体中に賢者パーティーのメンバーがくっついたり、ぶら下がって来るので重たいことこの上ない。

そして最後に、

「我もおるゆえな。主様。ゆめ忘れぬようにのう。ほれ、お前も遠慮せずにのっておけ」

「わ、私もいいんですか！　そ、そうですね。リズレットお母様（大教皇）もチャンスは一瞬、出遅れはアルカノン家の恥といってましたから！」

「おわっと！？」

フェンリルが大きな狼の姿になって、俺たちを担ぎ上げた。そこにはローレライ・カナリアも嬉しそうに乗っていた。

「待て待て、一体なんの勝負なんだ！」

「アー君！」

「お、おう！？」

「愛しています！　私が一番です！　あなたの一番ですからね！」

俺はまず左腕にくっつくアリシアからいきなりキスされる。

「だ、だ、だ、だだだだだだ旦那様！！！！」

「お、おう？」

いきなりのことでボーっとなったことがほとんどない俺は、この時は混乱の余り意識をはっきり保てず、反対側から呼びかけるコレットの方を向いた。

「大好きなのじゃ！　儂を二番目のお嫁さんにしておくれ。これでも尽くす女なのじゃ。末永く添い遂げたいのじゃ」

そう言うと、やはり遠慮がちだが、背伸びをして、はっきりと俺と唇を合わせる。

「先生、大丈夫ですか？　治療するので、こちらを向いて下さい」

「え、ああ。んむ！？」

「えへ。私（ぼく）もファーストキスを上げられました。お姉様ともども宜しくお願いしますね♡」

お、お前たち。

「ふむ、我は今は人型ではないし、ローレライはまだ少し幼過ぎるかのう。ここは一つ予約ということでよいのではないかのう？　無論、我の次ぞえ？」

「むむ！　そ、そうですね。見てるだけで鼻血ブーしそうですので、ご提案の通り、キス予約権で了承します！　ということで、女神様！」

ローレライがビシリ！　とイシスの方を見てはっきりと言う。

「女神さまの順番は、このローレライの次になりました！　あ、もしかすると、ここにはいらっしゃらないブリギッテ様が主張した場合はもう一つずれます。ご了解のほどお願い致します」

おいおい。

俺は呆れる。若干混乱もおさまってきた。

どうやら、アリシアが俺を好きだったことまでは了解していたのだが、なんと他のパーティーメンバーも全員俺のことを好いていてくれたようだ。さすがの察しの良い俺も、気づかなかった。

だが、

「お前らな。星の女神が俺を好きなはずがないだろう」

そう言って呆れた。

しかし、

「マジですか！？　いちおう正妻候補のつもりで1000年間過ごしてきたのですが！？」

めちゃくちゃショックを受けていた。

「星の女神なのにヒーフーミーヨー……。えー、6番目ですか～。ちょっと女神差別だと思います！　こういうのは年月を経（へ）た母性溢（あふ）れる私が正妻でいいと思います！」

「いえいえ、女神様。やっぱりアー君には私のような若い女性がいいんです」

「おっと、ちょい待ちなのじゃ。それを言い出すと、儂とフェンリルがやばいのじゃ！」

「まさかの下克上のチャンスですね、ローレライさん。2番手、3番手の余地があるかも！？」

「そうですね、ラッカライさん」

「ほう、まさか小娘たちの下克上に会うとは。長生きとはしてみるものよ」

何だか殺伐としてきた。

だが、俺に彼女たちをおさえるすべはどうやらなさそうだ。それだけはなぜか直感的にはっきりと分かった。

やれやれ。

さて、そんな呆れる光景だが、それを見ていた勇者ビビアはなぜか悔しそうに歯ぎしりをしていた。

「くそう、くそう！　なんであいつばっかり！　あいつばっかり！　俺には一人も寄り付かねえってのに！　ちくしょう、じぐじょう！　ふぎぎぎっぎいいいいいいいいいいいいい」

理由はよく分からないが、とりあえず聞くに絶えない嗚咽を漏らしている。

そして、それをいつものように、デリアが励ましているのだった。

……と、そこから少し離れた場所で、プララとエルガーが呆れたようにそれをまた眺めていたのだった。

「てかさ、ビビアも鈍感すぎじゃね？　いい加減まどろっこしいんだけど」

「いや、俺にはデリアが奥手過ぎると思うがな。やはり告白というのは女からすべきだろう」

「てめえのその時代錯誤の感覚最悪だって自覚してる？　女からとかうぜーんだけど？」

「お前こそ少しは女らしさを身につけてから、文句を言うんだな」

そんな会話をしていた。

だが、どういう意味だろうか？

俺には理解できなかったが、とにかく、方々（ほうぼう）でしばらくそんな会話というか、喧噪が続いた後に、女性陣で何やら後日話し合いが持たれるということで落ち着いたのだった。

やれやれ。

まあ、俺たちらしい最終決戦前のやりとりではあるかな。

俺は苦笑するが、

「だーれが、その原因だと思ってるんですか！　このニブチン！」

なぜか怒られながら、俺は最終決戦の準備を進めるのであった。