第76話 エピローグ③ アリアケに伸びる手 その2

76.エピローグ③ アリアケに伸びる手 その2




~ ????? side~




「何? ラッカライが聖都へ向かうと?」


「その通りですわ。あなた・・・じゃなかった。『ガイア・ケルブルグ』棟梁様」


槍の名門の一族として名高い武門ケルブルグ一族。


その棟梁たる儂に、妻の『チルノ・ケルブルグ』が告げてきたのは、聖槍の使い手として選ばれた娘のラッカライが聖都へ向かうという知らせであった。


世界に4つあるという聖具のうち、槍の使い手が我が一族から生まれたことは喜ばしい。


だが、ラッカライにその才能があるとは到底思えなかった。


娘は深窓の令嬢と言って良く、美しい絹のような髪を長く伸ばした、おとなしい娘だったのだから。


しかし、使い手に選ばれたのならば心を鬼にするしかない。


でなければ、聖槍の使い手というだけで、世間が放っておかない。


無暗に戦闘行為を仕掛けてくる輩もいるだろう。


だから儂は泣く泣く娘を鍛えた。


そして、それなりに成長はしたものの、しょせんは小娘の振るう槍に過ぎず、とてもではないが聖槍の使い手として胸を張れるものではなかった。


だから勇者の弟子入りを王に依頼したのだが、残念ながら勇者の修行に耐えられず追放され、なんとあろうことか、同じく勇者パーティーを追放されたアリアケとかいう輩に付き従っているという。


「許せん・・・。そんな訳の分からん男と一緒にいるなどと・・・。このガイア・ケルブルグの目が黒いうちは絶対に許さんぞ!」


うおおおおおおおおお!


儂はほえた。


だが、隣の妻はのほほんとした様子で、


「いえいえ、ですが棟梁様。ラッカライちゃんったら、アリアケさんのおかげで凄く成長したみたいですよ? なんでも四魔公を退けたとか。すごいわね! さすが私たちの娘! 師匠が良ければちゃんと立派な戦士になれるって、お母さん信じてましたよ!」


儂はノリの軽い妻に辟易としつつ、


「こんな短期間のうちに成長などできる訳があるまい。どうせそのアリアケとかいう不逞の輩が流した嘘に決まっておる!」


「もー、だからちゃんと社交には出ましょうって言ってるのに。結構有名な話なんですよ? アリアケさんがどうやら勇者パーティーの要だったみたいねー。その追放を知らなかったとはいえ王様認めちゃうなんて、王様やっちゃったわねー」


「あんな胡散臭い輩どもとの酒の会になど顔を出せるか! そんな情報は嘘に決まっている! 武人は自らを鍛えておればよい!」


「もー、そんなムキにならなくても・・・。って、あーそっか。自分が鍛えてもダメだったのに、アリアケさんにかかれば一気に成長したものですから、嫉妬してるわけですね!」


「そんなわけないだろう! そもそも儂が成長させられなかったのに、他の者がラッカライを一人前の戦士にできるはずがない!!」


もー、やっぱりじゃないですか。


そう笑顔で妻は言ってから、


「ま、その辺は役割分担ということで。ではそういうことで報告はしましたので、あとは教育方針の違いに則りまして行動することといたしましょう!」


はい?


何をする気だ?


儂が呆気に取られているうちに、妻のチルノはいそいそと部屋を出て行こうとする。


ドアから半分だけ顔を出して、


「もちろん、ラッカライちゃんの応援をしに行くんですよ。あとは、アリアケさんにご挨拶でしょうか。やっぱり大事な娘を託すんですから、顔くらいは見てお話しておかないと。母として」


「勝手なことを!? 儂は認めた訳では・・・。っていうか、何だその言い方は・・・。まるでラッカライがその胡散臭いアリアケとやらにほ、ほ、惚れて・・・」


イヒヒヒヒ!


という変な笑い声をあげてから、妻は顔をひっこめた。急いで廊下を見るが、もう姿は見えない。


「わ、儂は! 儂は認めんぞ! ええい、誰か、誰かある!」


その声とともに、何十人もの部下を呼び集める。


一刻の猶予もない。


大事な娘をどこの馬の骨とも分からない男にくれてやるつもりは毛頭ない!


「出陣だ!」


こうして儂ら槍の名門ケルブルグ一門は、ラッカライを嘘でかどわかし誘惑する不逞の輩、アリアケ・ミハマを討つべく出立したのであった。


第2章 fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る