第3章 ボクネンジンに気持ちを伝えるたった一つの方法/ブリギッテ教会侵入編

第77話 アリシアさんコクらされる

77.アリシアさんコクらされる



~大聖女アリシア視点~



「アリアケ君、何をしてるんですか?」


「ん? やあ、アリシアか。植物に関する本を読んでいたんだ。君も読むか?」


「いいの? 邪魔ではないですか? それにわたし、文字読めないし……」


「邪魔なもんか。ビビアとかだと覚えが悪くて困るだろうけど、アリシアならすぐ覚えられるんじゃないかな。ほら、教えてあげから、こっちに来なよ。本が読めれば色々なことが分かって便利だよ」


「う、うん。アリアケ君」


「ほら、もっと近くに来てくれないと、それだとページが見えないよ?」


「ひゃ、ひゃい……」


そうして私と彼の距離は縮まって、徐々に0に……。




がば!


日差しが結構差し込んでいることから見ると、昼前でしょうか?


それにしても……。


「はぁ~、夢ですか~」


私こと、アリシアはため息をつきます。そのため息は少し甘い熱を帯びていました。


何だかずいぶん昔の夢を見た気がします。


そう思いつつ、私は頬を染めました。


だって、毎日彼のことを夢に見るからです。見ない日はないのですから。我ながら「またですか」という感じなのです。


「いつかこの気持ちを伝えないと……」


そう思いつつ、はや幾星霜。


「ていうか、あの人が……アリアケさんが朴念仁すぎるんです!」


枕をバシバシとたたきます。


それらしいことを言ったことはあります。


あと、最近パーティーに加入したラッカライちゃんだって、私の仕草を見て、一発でアリアケさんのことが好きだって気づきました!


しかしながら。


しかしながら!


「あのボク・ネン・ジーン! は一向に気づかない! と来たもんです!」


なぜなのか!


問い詰めたい! ああ、神様なんでやねーん!とツッコみたい!


「そりゃあ、アリシアよ。お主の伝え方が間接的すぎるのではないかえ?」


「ひえ!? いきなり出てくるのはやめてくださいフェンリルさん!」


真っ白な髪を長く伸ばした、赤い瞳を持つ絶世の美女。


しかして、その正体は過去に私が洞窟より助けたフェンリルさんなのでした。


「我からの提案だがのう、抱きしめて、愛してると100回くらい言えば、いかなあの朴念仁の主様とて、お主の気持ちを察するであろうて」


「ひええええ! コレットちゃんと同じことを言う!? どうして私以外のみんなはそれほど女子力が高いのですが? 何か特別な訓練を受けているのですか!? 今からでも申し込むことは出来ますか? 大丈夫です、お金は教会の経費で落としますから!」


「普段は冷静沈着な大聖女様と言うのに、主様のこととなるとすぐにてんぱるのよなぁ、やれやれよのう」


やれやれよのう、とあくびをしながら、シュタッとフェンリルさんが窓辺へ移動しました。


「どこか行くのですか?」


「散歩よ。他の皆もそのようであるな」


気づけば、部屋には私一人。コレットちゃんもラッカライちゃんも朝の散歩に出かけているようでした。


もしかしたら朝練かしら?


「おお、それからのう。手紙が来ておったようだぞえ。教会からかのう。使い魔のカラスが置いてゆきおった」


「はい?」


フェンリルさんがその手紙を私へ放り投げます。ヒラヒラと言う軌道をえがき、手紙は私の手に収まります。


「一体なんでしょうか? あら」


そう私がつぶやいたときには、開け放たれた窓のほかには、そこには誰もいなかったのでした。


やれやれ。


自由奔放で野生なフェンリルさんに嘆息しつつ、私は手紙を読もうとします。


「そんな簡単に告白出来たら苦労しませんよって……」


アリシアさんは告りたい! でも出来ない! なのですから。


「でも、何とかしたいのは本当なんですが! まじなんですがっ……‼ くぅううう」


一人身もだえながら、手紙を読み進めていきます。どうせしょうもない指令だろう、ぐらいの気持ちです。


しかし、


「け、け、け、け、け、け、け、け、結婚!??!?!?! 私とアリアケさんが!?!?!?」


そう絶叫したタイミングで、


「アリシア入るぞ?」


なんとアリアケさんが入室してきたのでした。


「はわぁ!?」





~アリアケ視点~


何か絶叫が聞こえたような気がしたが、まあ問題あるまい。


「アリシア入るぞ」


ガチャリと俺はアリシアの宿泊している部屋へ入る。


俺ことアリアケ・ミハマは海洋都市『ベルタ』で四魔公であるワルダークを、俺を慕い集った仲間たちとともに消滅させることになった。


本来であればそんな世界を救うような戦いは、幼馴染であり不出来な弟子たる勇者ビビアとその仲間であるデリア、エルガー、プララたちの役目なのだが、彼らはまだ俺から巣立って日も浅い。


やや荷が重かったのだろう。


本来ならば手を出すべきはないのかもしれないが、しかし、俺はやはり甘いのかもしれない。


不出来な弟子たちのフォローをするのも、元とはいえ師たる俺の役目であろう。


何より幼馴染ということもあり、俺は彼らを助け、ついでだが結果的に世界を救ったのだった。


勇者たちはその戦いで瀕死の傷を負いつつも、最近発見されて、現在はベルタの病院で療養しているとのうわさだ。


ちなみに、俺はその世界を救った功績をたたえられて、勲章を授与されかけたのだが、謹んで辞退させてもらった。


俺の目的は「引退してのんびり田舎暮らし」から変わっていない。


なので、勲章授与に向かう馬車でそのまま街を出奔したというわけだ。


いやはや、英雄を一目見ようと集まっていた国民たちはガッカリしただろうが、これ以上目立つなどごめんなので何とか許して欲しい。


さて、今俺たちは街道沿いにある宿屋に泊まっていて、俺は明日の予定を確認するために、大聖女アリシア・ルンデブルクの部屋を訪れていた。


だが、俺が部屋に入った途端、


「ひゃひゃひゃひゃひゃい!? アリアケさん!? はわわわわわわ!?!?」


いつもは見られない……。というか、俺の前では時々子供の頃のように最近は素が出るのだが……、そんな驚愕して慌てふためく聖女アリシアの姿があった。


と、その手から1枚の手紙が落ちる。


ヒラヒラと。


「ぬひゃああああ!?」


聖女がそのヒラヒラと空中を揺れる手紙をキャッチしようとするが、驚くほど巧みな軌道をえがいて手紙は聖女の手をすり抜ける。


そして、聖女の空振りによって、手紙は結果的に俺の手にスポッとおさまった。


「わひゃあ!? 見ちゃダメです! アリアケさん!?」


「ん? これをか?」


そう言われて、つい反射的に手紙の内容を見てしまう。


そこには、端的に言えば、こう書いてあった。


『大聖女アリシア・ルンデブルクは、急ぎ大賢者アリアケ・ミハマと婚姻し、教会本部の危機を救うこと 大教皇リズレット・アルカノンより』


「結婚???」


俺は首を傾げつつ、その意味不明の手紙から、アリシアへと視線を移した。


「はわ、はわ、はわわわ~」


そこにはなぜか茹ダコのように顔を真っ赤にして、目をぐるぐると回して、何か言おうとして一切の言葉を紡ぐことが出来ない、冷静沈着と名高い大聖女アリシアがいたのであった。

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