第75話 エピローグ② アリアケに伸びる手 その1

75.エピローグ② アリアケに伸びる手 その1



~エピローグ ????? side~





「あらあら、これは本当なんですか?」


私は驚いて、そのレポートを何度か読み返しました。


そのレポートには、私の大事なアリシアちゃんと、何よりも、彼女が『ぞっこん』のアリアケ・ミハマ君が、四魔公ワルダークを圧倒的な力で打倒した事実が克明に記されていたからだ。


「相変わらずの規格外っぷりですねえ、やれやれ」


読めば読むほどため息が出る。にわかには信じられない事実が、普通に記されているので、何か御伽噺を読まされているような気分だ。


それくらい、彼の活躍は目覚ましい。奇跡といってよい。神の祝福を受けているとしか思えない。


「ああ、いえいえ。アリシアちゃんの予想では、神の使徒ではないかということでしたね~」


世間が勇者がどうたらこうたら言っているのを、私はちょっと鼻で嗤いながら、もう一度アリアケ君に関する報告箇所だけ読んでいきます。


そして、その圧倒的な力を感じ取り、手に汗を握り、そしてとうとう、ポツリと言葉を漏らしたのでした。


「欲しい・・・」


うううううう、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい!


ダメだ、我慢できない! じゅるり! おっとしまった、ちょっとヨダレが出た。


(誰にも見られていませんね?)


ちらりと周りを見るが、おつきの司祭は幸い目を伏せている。よしよし。


(ああ、でも本当に我慢できないわ♬)


私はこれでも大教皇。


大陸屈指の大教会、国教『ブリギッテ教』第一位。リズレット・アルカノン。


ならば当然、


「超有能な人材を手に入れるためには手段を選んでいられません!」


ならば!


「人を仲間に引き入れる方法は、昔から決まっています。ええ、そうですとも、アリシアちゃんもきっと、喜ぶわ。はい、パンパン、誰かある!」


その声に、控えていた司祭が近づく。そして、たちまち私の命令を手紙にしたためると、その5分後にはアリシアに向かってその手紙を運搬していったのだった。


「はぁはぁ、待っていてね、アリアケ君。大教皇があなたをゲットしちゃいますからね♪」


私のつぶやきが、誰もいなくなった玉座に響いたのでした。





~エピローグ ????? side~


「なんだと! 我が愛娘のコレットの居場所が分かったというのか!?」


俺は思わず咆哮を上げた。


1000年前、何者かに連れ去らわれ、もはやその生存を絶望視していた愛娘、コレット=デューブロイシスが、他のドラゴンによって偶々たまたま発見されたというのだ。


しかも、よりにもよって娘は、人間の男に付き従っていたという。


「いえ、シャーロット様、付き従ってたというか、慕ってついて行っていたみたいに見えたんですが・・・。むしろあれって恋しちゃってるというか・・・」


「そんなわけがあるかああああああああああああああああ!」


「うひゃああああああああああああ!?」


俺の再びの絶叫に、報告しに来た臣下のドラゴン『フレッド』は吹っ飛ばされた。


「ありえぬ! ありえぬ! 卑小な人間を慕うような軟弱なドラゴンがいるものか! いたら俺が引導を渡してやる! おそらく! おそらく何らかの邪法によって囚われ、従属させられているに違いない! くぅううううううコレットぉぉぉおおおおお!!」


俺は怒りと嘆きを爆発させる。その放出される魔力によって、空間がねじれて暗雲が立ち込め、雷雨になるが気にすることではない。


「うーん、私には超ぞっこんに見えたんですけどねー、超幸せそうでしたけどねー」


「まだいうか!」


俺は呆れつつ、


「ふん、まあ、むろん、この俺よりも強いならば、娘と結婚することも許さないではない! だが、そんなこと、一介の人間に出来るはずがないがなぁ!!!」


「海洋都市『ベルタ』で四魔公ワルダークを楽勝で倒していて、規格外っていうか、普通じゃなさそうでしたが・・・」


がはははははははははははははははははははは!


フレッドの言葉を聞き流しながら、俺は大いに笑った。竜を倒すなどありえるわけがないし、もし、そんなことがあり得るならば、それこそ、神代のあの頃のように、我らドラゴンは再びあの男のもとに集結したときのように・・・。


と、そこまで考えてやめた。ありえないことを考えるのは意味がない。


俺は、久しぶりになまっていた翼を広げる。


「よし、行くぞ! 娘をその不逞の輩から取り返しに行く!」


「えーっと、本当に行くんですか?」


「無論だ! そして、告げよう! 我が娘と結婚したければ、この父を倒せとな‼ わははははは! 人間め、きっと俺を見たとたん、腰を抜かしてしょんべんちびるに違いない!」


「なんか娘に嫌がられる父親そのもののような。せっかくアリアケ殿と青春しているみたいですしあまり余計なことをすると嫌われて・・・」


「アリアケというのか! 今そやつはどこにいる!?」


「聞いてないっすね・・・。えーっと、確かなんかブリギッテ教会に向かったっていう噂ですよ?」


「またあの教会か! 俺たちの領地を犯す不届きものどもめ! ようし分かった、ちょうどよい! もろとも成敗してくれるわ!」


「まあ、あそこは我々にとっても聖地ですからねえ。ま、穏便にお願いしますね~」


俺たちはそんな会話の後、全長数十メートルにおよぶ巨躯を、圧倒的な魔力の力でふわりと浮き上がらせると、ブリギッテ教会の南西の地へと向かって進み始めたのであった。


(アリアケか)


よく考えれば、たかだか人間一人に神ともいわれるゲシュペント・ドラゴンの王が動かされるというのは、それだけでも大したものだった。


そして何より、その場は人間どもの国教の総本山、ブリギッテ教会。あのいわくの地。大陸の知識のつまった場所・・・。


(まるでアリアケという人間を中心に運命が大きく動いているようではないか・・・?)


俺はそんな考えがふと頭に浮かぶが、たかだか人間になぜそんなことを考えてしまったこと自体が不快で、頭をぶるぶると振ってその考えを追い出したのであった。


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