第67話 ~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その② 運命に導かれ、集いし仲間たち~

67.~VS.モンスター・ビビア・ハルノア その② 運命に導かれ、集いし仲間たち~







「アリアケ様!」


そう俺に駆け寄りつつ、声を掛けて来たのは、ふわふわとした緑の髪を伸ばした15歳くらいの少女だ。


以前、一度一緒に旅をしたことのある女性。


彼女の名は、


「ローレライか。久しぶりだな」


「はい! ご無沙汰しています!」


彼女は花のように微笑む。しかし、すぐに厳しい顔になって、背後でビチビチと触手を振り回す化け物を警戒する。


「ですが、今は久闊きゅうかつじょしている場合ではなさそうですね……! あの化け物を……」


「ああ、その通りだ。今は目の前の化け物を倒さなくてはならん」


俺たちは迫る触手を杖でさばきながら会話する。


ローレライは頷きながら、


「おっしゃる通りです。このローレライ、全力で支援させてもらいます! また一緒に戦わせてください! 真の勇者アリアケ様!」


彼女はそう言うと、もう一度花のように微笑んだのだった。


ただ、俺は勇者ではないのだが……。


まぁ、人が何かを言う事を止めることは出来ない。


何であれ、彼女のような高位な回復術士がいれば助かることは確かだ!


だが……、


「いいのか? 君は勇者パーティーの一員だ。あの化け物は、姿を変えたとはいえ、仲間である勇者ビビアの成れの果て。そんな仲間と本当に戦えるのか?」


残酷な質問かもしれない。


即答は難しいだろう。


だがそれくらいの覚悟がなければ……。


「はい! 全然大丈夫です!」


「……え? 本当にいいのか? あいつはビビア・ハルノアなんだぞ?」


「そんなこと言ってる場合じゃありませんよ! アリアケ様! 民衆に大きな被害が出てしまいます! むしろ、真の勇者アリアケ様の元で戦わせてください!」


その迷いのない言葉に、俺は逆に勇気づけられる。


幼馴染と戦う。そのことに躊躇していたのは優しすぎる俺の方だったのかもしれない。


だが、目の前の少女は、仲間と戦うと言うのに、むしろためらいなく、俺と共闘することを選んでくれたのだ。


ならば、俺がかける言葉は一つだろう。


「いや、こちらこそお願いしよう。ようこそ、俺のパーティーへ。一時いっときかもしれないが、共にあの化け物と戦おう!」


「はい! このローレライ・カナリア、今より勇者パーティーを正式に脱退し、真の勇者アリアケ様のパーティーメンバーとして癒しの杖を振るいます! ええい!」


彼女はそう言うと高速詠唱で傷ついた民たちをたちまち癒した。


なるほど、本当に優秀だ。


こんな頼もしい仲間が一人増えてくれたならば、ずいぶん戦闘が楽になるだろう。


しかし、その瞬間、


「ロ”-□□―――■□■□”ラ"イ"イ"―――イ"イ"□□■□■□―――イ"イ"イ"イ"イ"□□■□―――デメ"エ"エ"エ"エ"エ"――マ"ダガ■ア"□ア"■□―――ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!」


どこか怨嗟のごとき人外の絶叫が響くのと同時に、触手から毒霧のような物が放出される!


(くそ、ビビアよ! もう仲間の顔も忘れてしまったというのか!)


「アリシア、結界をっ……!」


「おっと、これくらいは俺のアイテムで十分ですよ。わざわざ聖女さんの手をわずらわせるまでもない」


「なに?」


突然現れた男が聖水のようなものをまくと、紫色の毒霧がたちまち透明無害なものに変わる。


いい手際だが……。


「君は?」


「バシュータと言います。あなたのお噂はかねがね……。あの勇者パーティーを、一人で支えていた凄腕ポーター、大賢者アリアケ様。こうして話せて光栄です」


「いや、俺にとっては大したことではないさ。だが、君もその若さで大したものだな。今のは月の雫草から採取した解毒薬を、高密度ポーションに溶かしたものだろう?」


「さ、さすがです。よく分かりましたね!」


「無論だ。だがそれ以上に、敵の攻撃に動じずにアイテムを行使するその機転と行動力が素晴らしかった。ポーターはそれくらい視野が広くなくてはな」


「あ、ありがとうございます! や、やっぱりあなたは思った通りの方だ! ちゃんとポーターを必要な存在として扱ってくださる!」


「ん?」


突然の言葉に、俺が首を傾げる。


だが驚く俺をよそに、バシュータが膝を折り、


「このバシュータ・シトロ。今より勇者パーティーより完全に外れ、ポーターを越えたポーター、大賢者アリアケ様の麾下きかに入ります!」


それが意味するところは、


「俺の仲間になる、と?」


「そうです! 邪魔にはなりません! お願いします!」


彼はそう言うと、深々と頭を垂れた。


だが、


「そんなことをする必要はないぞ、バシュータ」


「そ、そんな……」


バシュータが暗い表情になるが、


「俺の方こそ君に頼もう」


「!?」


目を見開く。


「バシュータ・シトロ。その優れた技量で、一時的かもしれないが、あのおぞましき怪物、モンスター・ビビア戦における、ポーターとして働いてくれるか?」


「っ! も、もちろんです! 喜んで! もう俺は勇者とは無縁の存在ですよ!」


彼はそうはっきり言うと早速行動を開始した。


「はぁ!」


何かを取り出したかと思うと、それを化け物の周囲へ投げつける。


すると、たちまち、


『ボン!』


爆発したかと思うと色の付いた煙が広がった。


煙幕で化け物ビビア攪乱かくらんしているのだ。


(煙玉か。原始的だが、ああいう物ほどうまく使いこなすことは難しいものだ)


「バジュ□□―――■□■□あ"あ"あ"でめ"え"□□―――■□■□あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」


どうやら攪乱が効いているようだな。煙幕にイラついたのか、大暴れする化け物ビビアの攻撃は大ぶりで避けやすくなった。


こういった細々こまごまとした支援がポーターの大切な役割なのだ。


ローレライもバシュータも元仲間相手につらいだろうに、それをおくびにも出さず、容赦の無いほど有効な行動を取り続けている。


(さすがだな)


俺は感心する。


だが、俺は一つ見落としをしていた。


聖女の結界は観客席と闘技場を完全に区切る様に、半円を描くかたちで展開されている。


それによって、化け物の攻撃は観客へは届かない。


だから、安心していたのである。


だが、パニックになった民衆の中には、聖女が結界を張る前に、何と闘技場に入ってきてしまった者がいたのだ。


それは4、5歳の子供であった。パニックが起こったときに落下してしまったのだろう。


「危ない!」


子供の行動を予想することなど、どんな大人にも不可能だ。


だが、まさか、こんな時にそれを痛感することになろうとは。


(間に合ってくれ!)


ビビアのおぞましい触手たちが、本能のままに子供を襲おうとするのを見て、俺はすぐに駆け出す。


(くそ、間に合うのか!?)


しかし、


「やらせませんわ!」


「国の盾をなめるでないわあああああああ!!」


「ファイヤー! ウォオオオオオオル!」


ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「グギャギャギャギ―■□■ャギャア"ア"ア"ア"ア―■□■"ア"ア"ア―■□■"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア""ア―■□■"ア"ア"ア"ア―■□■"ア"ア"ア"ア"!?!?!?!?」


いたいけな子供に迫った恐るべき触手たちは、その直前でズタズタに寸断され殲滅されたのである。


そう、


「私たちも一緒に戦いますわ!」


「一つ貸しだぞ、アリアケ! この筋肉に目を奪われんようにな!」


「あたしの無尽蔵の魔力、久しぶりに見せてあげっから!」


勇者パーティーの3人、デリア、エルガー、プララたちであった。


先ほどまでアレほど激しい戦いをした仲であるのに、どうやら完全にわだかまりはないようだ。気持ちのいい奴らだな。


そして――、


「やれやれ、何とか間に合いましたね~。デリアさんたちを完全回復させておいたのは正解でした♫ 結界に回復に、聖女さん大活躍~♪」


「なあなあ旦那様、もう御前試合は終わったのじゃろ? なら、もう目の前のくっさい化け物は倒してしまって良いのかのう?」


「先生に鍛えてもらった集大成、お見せしますね」


後ろから大聖女アリシア、ゲシュペントドラゴンの末姫コレット、そして聖槍ブリューナクの使い手ラッカライがやって来た。


「ああ、そうだな。みんな。俺の元につどったお前たちは、今は敵も味方もない。ただの仲間だ。だから……」


俺は変わり果てた幼馴染を見上げる。


醜悪なる化け物、モンスター・ビビア・ハルノアは、なぜか憎々しげに俺たちを睨み付けているような気がした。


一人、孤高に。


「だから、あの哀れな化け物を討つ! この真勇者パーティーにつどった運命に導かれし仲間たちよ、力を貸してくれ!」


俺のその呼びかけに、


「「「「「「「「オウ!」」」」」」」」


勇ましき戦士たちの歓声が上がったのだった。


勇者以外のメンバー全員が俺のもとに集結する。


それは、たった一人孤独な勇者……いや化け物となり果てたビビアとは対照的な構図だった。

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