第61話 御前試合 その⑤ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち プララ編 <前編>~

61.御前試合 その⑤ ~勇者の仇をうつべく立ち上がる仲間たち プララ編 <前編>~




~プララ視点~


「ファイヤーボール!」


「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


エルガーにゲロまみれにされたアタシは ブチ切れて、本気のファイヤーボールを放った。死ねばいいのに!


でも、無駄に固いエルガーは瀕死のままピクピクと痙攣して意識を失う。そして、見回してみれば、勇者もデリアもゲロ吐きすぎて半死半生って感じ。


(ほんっとーに役立たずな仲間ばっかりじゃん。死ねよ、クソども)


あたしは内心で勇者パーティーのメンバーを罵倒する。


あたしが呆れるのも当然だ。


だって、


(あたしが戦えばラッカライなんていう雑魚、楽勝で勝てるってーのにさっ……。 なーに、馬鹿やってんだか)


そう、それがあたしの不機嫌な理由だ。


ま、それでも、ここからあたしが一手間かければ楽勝に違いないんだけどさあ。


でも、あーあ。ホント……。


(ラッカライみたいな攻略方法がハッキシしてるクソゴミに負けるなんて、チョーありえないんですけど~!)


あたしは心から叫び、侮蔑する。


ラッカライに倒された仲間を。


そして何より、あたしよりも格段に劣るラッカライに対してだ。


「遠距離タイプのアタシが負ける理由なんてないんだよね~、きゃはは♫」


(頭の足りないアンタらは、ひたすら馬鹿みたいに、華麗なる魔法使いのこのあたし、プララ様を守ってりゃ良かったんだよ)


あたしは体内の魔力を循環させる。膨大な魔力量と共に、マスターした様々な魔術が脳裏を巡る。


(そう、ラッカライもアリアケも防御・支援型の戦闘スタイルだ。こういったタイプにとってあたしの遠距離魔法は天敵。しかも、莫大な魔力量と多種多様な魔術を操るあたしは完全なる上位者♫)


「そう、あたしはこの戦いの捕・殺・者なんだ」


思わず唇をにんまりとさせる。


この戦いは猟そのもの。


獲物はラッカライとアリアケで、狩人はこのアタシだ。


その関係は揺るがしようもない。


ま、もちろん、近づき過ぎれば、獲物は牙で反撃しようとするだろう。


(だからこそ、馬鹿の勇者どもはあたしを守ってりゃ良かったのに。そんで、あたしが遠距離からラッカライをいたぶってやれば、牙はあたしには届かない。勇者どもはまたゲロ吐くか、傷つくかするかもしんないけど……あたしはノーダメ! あたしは優雅に、華麗に、魔力に焼かれて泣き出した相手が土下座して来んのをただ待ってりゃいだーけってわけ♫)


そんな完璧な想像にあたしは陶然となり、更にニヤニヤと唇を歪めてしまう。


(あの聖槍ブリューナクに選ばれていい気になってるいけ好かない子供ガキに、世間ってものを教えてやんなくちゃだし? それが大人のたしなみって奴っしょ)


あの綺麗な顔をいたぶって、泣かして、ぐちゃぐちゃにして、土下座させて、足を舐めさせる。ペットにして飼うのもいいかも~♪


ま、それでも許してやんないんだけどね♫


マジで、ああいう『選ばれた特別な存在』みたいな奴大っ嫌いなんだよねえ。マジでムカつくから、超いじめたくなる。ホント無理。


そんな奴の顔がどんな風に歪むのか……。


「きゃはは♫ 今から・・・ちょー楽しみじゃん!」


あたしはそう言いながら、攻撃魔法の詠唱を開始する。


そして、


「くるりっと♫」


あたしはいまだゲロってる勇者やデリア、瀕死のエルガーたちの方にふり返り、


「くらえ! サンダーストーム♪」


広い範囲に思いっきり雷の嵐を発生させたのだった。


「な、何をしやがる、プララ‼ んぎゃああああああああああああああああああああああああ⁉」


「気でも違ったの、このクソ魔法使いっ……! って、いやああああああああああああああああああああ⁉」


「……(ビクンビクン)」


あは。


あはは。


「あーっはっはっはっはっは‼ なにこれナニコレ、ちょー受けるんですけど~⁉ 勇者もデリアもエルガーも、死にかけの魚みたいにピクピク跳ねちゃってさぁ! あー、たまんねー、マジあたしを笑い殺す気っしょ~」


ああー、気持ちいい~。


忘れてねーよ。


忘れるわけないっしょ~!


洞窟で瀕死のまんま置き去りにされた恨み、一生忘れるわけないじゃーん‼


「いひ、いひひひひい♫ 身動き取れない仲間ゴミどもに魔法撃つの楽しすぎだわ~♪ 癖になっちゃう~。ああ~」


あたしは余りの快楽に身もだえする。


「お、おい、あいつ仲間に攻撃魔法つかったぞ⁉」


「一体、何が起こってるんだ⁉」


「仲間割れか⁉」


おおっと、しまったしまった。本来の目的・・・・・をあたしとしたことが忘れちまうところだったよ~。


勇者どもを嬲り続けるのも乙なんだけど、残念ながら真の目的はそれじゃないんだ。


あたしの狙いはコレ。


「みなさーん、今のは回復魔法でーす! 安心してくださーい♫」


「は?」


「何だって?」


「でも仲間たちが明らかに吹き飛んで、悲鳴も……。体から煙まで……」


ざわざわ……。


馬鹿な観客どもがざわめいている。その喧噪に乗じて、あたしは切り札を切った。


「人形に意識は邪魔なだけだかんねえ。服従の呪文。禁呪『あたしの可愛デッドいペットたち』・パペット!」


その瞬間、


『すくり』


意識を刈り取ったでくの坊仲間たちが、無言のまま立ち上がった。


「あっ⁉」


「ほ、本当だ……」


「瀕死だった仲間が立ち上がったわ……」


馬鹿どもがまんまと騙される♪


勇者たちは……目は白目をむき、ゲロや涙、泥にまみれている。だが、気を失った状態だから気にもしない。口からは「あー」とか「うー」といった、低いうめき声が漏れるのみだ。


あたしに歯向かいもしない従順な奴隷の出来上がり♫


(最高じゃ~ん! きゃはは♫)


あたしは余りに楽しくて微笑む。


(禁呪『あたしの可愛デッドいペットたち』・パペットは意識のない、抵抗力の弱まった瀕死の人間を操る呪文だ。聞いたことない呪文だけど、こーんな便利な魔法を教えてくれるなんて、さっすがワルダーク宰相じゃん! ま、もちろん操るって言っても限界があるんだけどね。細かい指示は無理とか!)


でも~♪


「代わりに筋肉とか魔力回路のリミッターは、気絶してるおかげで外し放題で超強力ってわけ! んでもって、今回求めてんのは、あたしが魔法を撃つ時間を稼ぐための盾! サンドバック! 肉の壁! だから、まさにあんたたちみたいな役立たずの方が都合がいいってわけ♫」


あたしってば超さえてる~。


(あんたらの無様な姿が見れるうえに、あたしの役にまで立てんだから、最高だよねえ♫ ちょーっとリミッター外しちゃうから、後遺症やべーらしいけど、そこは我慢してよね♫)


あくまでパーティーの勝利のためなんだから。


あたしには唇を激しく歪めながら、仲間たちを前衛へと送り出す。


肉壁として役に立てと指示を出した!


「しんぱーん! ちなみに、あくまで戦ってんのはアタシだけだから! そいつら只の盾だから! だから反則じゃねーから~!」


さすがに無理があるかもしんない。


どう見ても前衛3人に後衛1人だし。


でも~、


「勝てば官軍だしね~」


世の中負けたら終わりなんだよ!


卑怯でも何でも、とりま、勝てばいいっしょ!


そうすりゃ、後付けで幾らでも情報操作すりゃいいんだけなんだから!


「あーっはっはっはっは♫ 2対4! リミッターの外れた勇者パーティー3人、んでもって超一流の魔法使いのこのあたし様が、後衛からバシバシ遠距離魔法うっちゃうからさ~。いつまで耐えられっかな~。ま、土下座しても許してやんねーけど♫」


あたしは勝利を確信して、謳うように告げたのだった。


その瞬間、


「フングオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


「フギュルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ」


「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」


豚や牛の畜生にも劣るようないななき声とともに、今まで見たこともないスピードと威力で、勇者たちはアリアケとラッカライに襲い掛かっていったのだった。


「あはははははははははははっははははっはははは♫」


すげーな、これ!


盾としては十分じゃん!


いや、もしかしたら、このまま倒しちまうかもっ……!


このスピードと威力!


誰もかなうわけないっしょ!


(勝った!)


あたしは勝利を確信して会心の笑みを浮かべる。


……けど、その時あたしの耳に、


「ようやく本気を出したようだな、ビビア」


そう言って微笑むアリアケの声が聞こえたのだった。


「……は?」


私は思わず、唖然とした声を上げたのである。


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