第40話 アリシア視点 & コレット視点

40.アリシア視点 & コレット視点



~アリシア視点~



「初めまして、というべきじゃろうな。わしはコレット=デューブロイシスじゃ」


「こちらこそ宜しくお願いします。私はアリシア=ルンデブルクと申します」


私の挨拶に、コレットちゃんはどこか凛々しく、けれどもいかにも美少女といった様子で微笑んだ。


何という可愛さ満点のスマイル! 私にはないものです!


「アリシア、ところでなぜ君がこんなところにいる? 勇者パーティーはどうしたんだ?」


「脱退してきました。行く当てもないので、アリアケさんのパーティーに復帰させてもらって宜しいですか?」


「脱退か・・・。お前のことだから色々と事情があるんだろう。コレットどう思う?」


来ました!


こんな美少女を連れてしまっている以上、私なんてお邪魔虫の可能性が高いです!


くうううう、それにしても、さすがアリアケさんです。ちょっと目を離したうちに、こんな美少女とパーティーを組んでるなんて。


私が先に、ずっと、何年も前から、目をつけてたのにぃ・・・。


私はコレットちゃんの回答はどうかと、ハラハラします。


二人は一体どういう関係なのでしょうか。


もう正式にお付き合いなんてしちゃってしまっているんでしょうか!?


でも怖い!


それを聞くのが怖い!


それで「そうです」なんて返事が来たら、絶叫しない自信がありません!


で、ですが、せめてその際にでも。ええ、せめてせめて、傍にいさせてもらえるように交渉せねばなりません。一番じゃなくても2番でOK。


ふうふう、私は息を整えます。落ち着いてきました。


できる!


私ならできるはずです!


アリアケさんの実力に追いつくために、あの恐るべき地獄の修業を耐え抜いた私なら可能なはず!


そのためにはアリアケさんにアピール。自己PRをしなくてはなりません。


かと言って、私ごとき、誇れるものと言ったら・・・、


「聖女といちおう呼ばれております。一通りの上級回復魔法と、それから蘇生魔術が使えますが」


ああ、だめです!


心の中で頭を抱えて絶叫します。


ますます可愛げがありません!


肩書アピールって! 魔法アピールって! もっと可愛い方向性が必要なのに! せめて目の前のコレットちゃんの100分の1でも可愛さをアピールできればっ・・・!


ああ、このままでは加入拒否されてしまいます!


「すごいのじゃ!」


えっ?


ですが、コレットさんはそんな私の可愛げのない言葉など意に介していなかったのでした。


「上級回復魔法は人から失われて久しいのじゃろう? それに蘇生魔術などほとんど歴史上おらんのではないか! わしなど戦うだけで癒すことは出来ぬからなぁ!」


「ありがとうございます」


ああ・・・私は頭をガーンと殴られたような衝撃に震えます。


これこそが・・・美少女の余裕なんですね。


そこにはなんのてらいもありません。ただただ純粋な笑顔で褒めてくれます。


アピールだ何だと考えていた自分の心の醜さに、思わずへこみます・・・。


戦う前からアリシア、完敗です・・・。


この目の前の美少女が、可愛いアピールしてきたら、私なんてすぐにサヨナラです~(泣)


ですが、そんなことを考えていた私を、コレットちゃんは追い出したりすることもなく、


「勇者パーティーにも凄いメンバーがちゃんとおったのじゃなぁ。うむ、ちなみにわしはドラゴン種族の末姫じゃ。これからもよろしく頼むのじゃ、アリシア」


そう言って笑顔で握手をしてきたのです。


す、末姫!? しかもドラゴン種族の!?


私とは全然次元が違います!


それなのに、受け入れてくれるなんて。


ああ、何ていい子なのでしょう。


「宜しくお願いしますね、コレットちゃん」


あっ、しまった! つい馴れ馴れしく、ちゃん、などとつけてしまいました⁉


ですが、その言葉にコレットちゃんは嫌な顔ひとつせず、微笑んでくれたのです。


ああ、美少女って心まで綺麗なのですね。


こうして私はコレットちゃんの優しさのおかげで、首の皮一枚、このパーティーに入るチャンスをつかんだのでした。


ありがとう、コレットちゃん。この恩は一生忘れませんよ!





~コレット視点~



いや、何じゃこの美女。


わしは目を疑ってしもうた。


時々、旦那様が勇者パーティーに一人、非常に頼りになる女子おなごがおると言っておった。


じゃが、まあ正直、話半分に聞いておった。


旦那様に比べれば、頼りになると言っても、知れているというものじゃと。


じゃが、目の前にして度肝を抜かれた。


まず、ともかくその美しさじゃ。


わしのようなチンチクリンにはない、大人の魅力のようなものを放っておる。


それになんじゃろう。大聖女じゃから、ということなのかの? 普通の美人じゃ無いんじゃよな。何か神々しいのじゃ。ちょっとオーラが違うって言うか。たなびく金髪に宝石よりも美しい碧眼。柔和に微笑むその表情・・・。


わし、女なのに、クラクラするのじゃ。


そして、まとっている魔力の質が根本的に違うのじゃ。まさに神に愛された存在と言ってよいじゃろう。


・・・ていうか、これ、ずるくない?


わしがどんなけ頑張って人化してもこうはならんぞ?


わし、いちおう世界最強のドラゴンの末姫なのに、このレベルには絶対になれんぞ?


人族って時々規格外の輩が生まれるけど、まじでそれよな。


種族を超越した美しさよな、これ。


じゃ、じゃが、わしもドラゴンの末姫じゃし、余りみっともないところは見せれぬ。とにかく頑張って挨拶なのじゃ!


「初めまして、というべきじゃろうな。わしはコレット=デューブロイシスじゃ」


「こちらこそ宜しくお願いします。私はアリシア=ルンデブルクと申します」


何と丁寧に頭を下げてきた。そして女神のように微笑む。それだけでわしは又してもクラクラっとした。何じゃの、このオーラ。


そもそも、かつての勇者パーティーのメンバーなのじゃから、わしよりよほどアリアケとの付き合いは長いはず。


その上、わしは見てくれは子供ガキじゃ。街中を歩いておっても侮って来る輩も多い。


じゃから、普通もっと上から来てもおかしくないのに、このアリシア殿は違う。まじ大聖女、礼儀正しく、人を侮ったりすることをせぬ。


じゃ、じゃが、だからこそどうしよう。


わしの心に不安が生まれる。


もし、このアリシア殿が旦那様を返せと言ってきたら?


わしと旦那様がパーティーを組むことに反対してきたら?


そうなったら、果たしてわしに拒むことが出来るじゃろうか・・・。


と、そんなことを考えていると、旦那様がアリシア殿に聞いた。


「アリシア、ところでなぜ君がこんなところにいる? 勇者パーティーはどうしたんだ?」


「脱退してきました。行く当てもないので、アリアケさんのパーティーに復帰させてもらって宜しいですか?」


「脱退か・・・。お前のことだから色々と事情があるんだろう。コレットどう思う?」


来たぁあああああああああああああああああ⁉


まずい、マジでまずいのじゃ!


捨てられる!?


このままじゃと捨てられてしまう⁉


いや、待て待て、落ち着くのじゃ。


まだ捨てられると決まった訳ではない! わしが役に立つということをアピールすればよいのじゃ。


そうすればわしの立場は守られるはずじゃ!


じゃ、じゃが、どうする!?


アリシア殿は背伸びしても絶対に届かぬ超美人じゃし、わしに出来ることと言ったら火を吐く事くらいじゃ。


じゃが、ここで思わぬチャンスが到来したのじゃ。


「聖女といちおう呼ばれております。一通りの上級回復魔法と、それから蘇生魔術が使えますが」


いかにも控えめといった様子でアリシア殿が言った。


いや、まじなのか、と思わざるを得ない。


確か上級回復魔法自体が人族の中では使えぬ者が多い。そして、何より蘇生魔術って・・・。それ何て神話って感じじゃ・・・。


だがしかし! 


わしは姑息にも思いついたのじゃ。


そっち方面ならば差別化できる、と! 


もちろん、せこいかもしれん! じゃが、わしは捨てられとうない! No2でも良いから旦那様のそばに最後までおるのじゃ!


「すごいのじゃ! 上級回復魔法は人から失われて久しいのじゃろう? それに蘇生魔術などほとんど歴史上おらんのではないか! わしなど戦うことしか出来ぬ・・・・・・・・・からなぁ!」


よし、さらりと戦闘方面でアピールしたのじゃ。


・・・こんな姑息な方法でしかアピールできぬ自分に泣けてくるがのう・・・。


「ありがとうございます」


またしても丁寧に礼を言われる。


うう、自分の小ささに泣けてくるのじゃ。


じゃがじゃが、ここは泣いてる場合ではない。後ろを振り返らず、このままの勢いで最後まで行くのじゃ!


「勇者パーティーにも凄いメンバーがちゃんとおったのじゃなぁ。うむ、ちなみにわしはドラゴン種族の末姫じゃ。これからもよろしく頼むのじゃ、アリシア」


そう言って笑顔で握手をする。


「宜しくお願いしますね、コレットちゃん」


やった! 既成事実なのじゃ。


わしの心は歓喜に震えた。


何とか追い出されずパーティーに残れそうじゃ!


それに『コレットちゃん』と呼ばれた。


このような方にちゃん付けで呼ばれるのは気恥ずかしい・・・。じゃが、全然嫌ではなかった。


旦那様と冒険するのも良いが、このアリシア殿と一緒に旅をするのも、とても楽しみになってきたのじゃった。


ともかく、こうしてわしは大聖女アリシア殿の優しさのおかげで、なんとか首の皮一枚、このパーティーに残ることが出来たのじゃった。


ありがとう、アリシア殿。この恩は一生忘れぬぞ!!



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