第8話 出来損ないの竜の娘
「ま、あまりコスパがいい方法でもないか」
俺は頭をかきながら反省する。ゴーレムとの勝負には勝ったが、それよりもその戦い一つ一つを反省し、次に活かすことが大事だ。そう、あいつらにもそう言い聞かせていたものだ。
「俺がいるから勝つのは当然。だが、おごらずに今の戦いを思い返し、次はもっとうまくやるように」と。
さて、そんな思い出を脳裏に浮かべつつ、俺はゴーレムだったものたちの瓦礫の上を踏破しようとする。
と、その時、その瓦礫の中にキラリと光る物が目に入った。
「ん? これは・・・」
拾い上げてみると『血のように赤い鍵』であった。
「意味深な・・・。というか、もしかすると今の3体がここのダンジョンをクリアするための鍵だったのかもしれんな」
だとすれば何と悪辣な・・・。
「俺以外突破できる奴がいないだろ、それじゃ・・・」
どこの世界にグレートゴーレムを3体配置して、ダンジョン攻略の条件にする奴がいるというのか。魔王城じゃないんだからなぁ・・・。
俺は呆れながらも、鍵を懐にしまいこみ、ダンジョンを歩き始めた。
「ふむ、ここがどうやら終着点といったところか? ≪死にたがりの娘≫もこの中だろうか?」
無数のドクロがかたどられた巨大で真っ赤な扉が目の前に現れていた。
なお、ここまでどれくらいのモンスターを倒したかは、言うまでもないだろう。
だが雑魚を幾ら倒したと言っても自慢にはならない。それが大陸史に残るほどの数と質だとしても、な。無論、冒険者ランクなどSを突き抜けてしまうだろう。
だが、俺がそれを望まない。そういうことだ。誰もかれもが有名になりたいわけではない。目立てば煩わしいことが増える。名声にも興味がない。今のようにひっそりと後ろから前途有望な者たちの教師をしているほうが、俺には向いている。自分よりも他人の成長の方が見ていてやりがいを感じるからな。
「さて」
俺は先ほど拾った鍵を、扉にあいていた鍵穴へとはめて、回す。すると、
ガゴン!
鈍い、大きな音とともに、頑強なその扉がゆっくりと内側へ開いて行く。
中からはひやりとした空気が漏れだす。遥かなる時間の停滞を溶かすように、ひどくかび臭い匂いが流れた。
いかにも怪しげだ。
だが、俺は躊躇なく中へと入っていく。
罠であることは分かっている。だからこそ、入っていくのだ。
罠を張るということは、その奥に何かがあると言っているようなものだ。分かりやすい逆説なのである。こうした即断即決力は、どうしてもその人間のセンスなどにもよるだろう。
そんなことを考えているうちに、ここの間取りが大体わかって来た。
100m四方の玉座のような空間だ。目の前には階段状の段差があり、一番上にはかつて豪奢であったろう玉座が置かれている。
そして、その玉座には一人の人間が座っていた。
「ようこそ、いらっしゃいました。ここに至るかたがいらっしゃるとは思いませんでしたよ」
そう言って拍手をしながら、一人の男が立ち上がる。魔法使いといったいでたちの長衣を身に着けていて、眼鏡をかけている。口元には余裕の笑みを浮かべながら。
「少なくともこの1000年は、誰もここには至らなかった。あれほどのモンスター、そしてグレートゴーレムの群れ。罠の数々。どれほどのアイテム、魔力、体力を消費してここまでいらっしゃったかは分かりませんが、既に瀕死、重症のはず。ふふふ、我が結界の粋を堪能いただけましたかな?」
「・・・・・・はい?」
いやいや。俺は何を言っているのかと呆れながら、自分の体を見下ろしてみた。
「傷一つ、汚れ一つないんだが・・・。あの程度のダンジョンで悦に入ってるって、お前自分がよっぽど恥ずかしい勘違い野郎を演じてること、気づいているか?」
自分のことでもないのに、逆に俺がちょっと気恥ずかしいのだが。
「む、そんなわけがありません。そ、そう! 魔力消費量は膨大なものになったはずです!」
「まあそれはそうだな。一国分の魔力量は使ったかな」
「そうでしょう! ・・・って、一国分。は? あなた一人で一国の魔力を・・・?」
自分の実力と比較した時に、あまりに相手が規格外だと、人は混乱をきたす。やれやれ、この時点で相手の実力が知れる。こういった状況こそが俺の≪強さ≫というものを暗に示してしまう。それは俺の意志とは無関係に、だ。
だが、
「ふ、ふふふ。嘘で私を欺こうとしても無駄ですよ! さあ、観念して、わしがダンジョンの血肉と果て、私の神への進化の礎となりなさい!」
現実から目をそらしてしまったか。まぁ、それもまた自分と比較にならないほどの相手や現実と直面した時によくあることだ。
ただ、今はそれよりも・・・、
「神への進化だと?」
確かそう言ったか?
「左様! 私の野望、それは2000年前にさかのぼる! かつての邪神アークマターはっ・・・」
興奮したのか、テンションを上げてまくし立ててくる。あちゃーと、俺は後悔する。こういった手合いは自分の野望と言うかささやかな夢を語る機会に飢えているものだから、こういったチャンスを見逃さないのである。
が、
「うるさいなぁ、お前の野望に興味なんてないんだ。黙ってくれるか。それに、大体みんな一緒なんだよな、そういう野望って。実にくだらんし、退屈に過ぎる。不老不死だか世界の支配か何だかが目的なんだろう? さ、そんな下らないことより、俺は助けを求められてここまで来たんだが? お前、何か知ってるなら、そこいらを説明しろ」
「そんなこと、だとう! き、貴様ぁ⁉」
途中で演説を切り捨てられて、激高する。
だが、俺の言葉に考え始める。
「む、ぐぐぐ、だが、助けだと? そんなはずは・・・。いや、なるほど、この1000年で結界が弱まり、外界へと助けを呼んだか。あの出来損ないのドラゴン娘は」
「出来損ないドラゴン娘?」
「ふふふ、驚きましたか。私の進化に不可欠な魔力供給源として、ゲシュペント・ドラゴン種族の娘。不老不死のドラン権種族を封印し、我が魔力を無限に増強する糧としているのだ! 我が編み出した秘儀によってな! まあ、ドラゴン固有の力を持たない出来損ないですがね!」
だとすれば・・・。
「そう‼ 驚くのも無理はない! ドラゴンを封印し、あまつさえ利用し、神に至ろうとする秘儀を編み出した天才! それがこの私なのだから!」
俺は息をのみ、
「未成年者略取というやつか。まさか、犯罪者だったとはな・・・」
「は?」
俺の一言に、相手は何を言われたのか分からないとばかりにポカンとした。
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