第7話 Sランクモンスターを簡単に屠る

「なるほど、ダンジョン構造か」


俺が神殿に侵入した際にすぐ看破した通り、やはり外から見ただけでは分からないほどの空間が内部には広がっているようであった。


ダンジョンのようになっている。


ダンジョンと言うのは一つの生き物のように機能する。無論、本当の意味での生き物ではない。ただ、中に侵入者が現れた場合は、モンスターによってその者を屠り、その侵入者が持っている魔力や血肉を取り込む。それによって更にだんだんと強化されていく性質のものだ。ダンジョンはまた侵入者をあえて内部へ招き入れるために宝箱という餌を用意する。


「早速か」


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


グレート・ゴーレムが3体、巨体をうごめかして通路を防ぐようにして現れる。それぞれレベル80程度。


恐らくランクS級の冒険者でも連れてこなければ倒せないほどの強敵だ。


ちなみに俺の冒険者ランクはC級。他のメンバーは勇者と大聖女がS級。他はA級であった。そう、俺は他のメンバーよりも冒険者ランクがずっと低いのだ。


ならば、論理的に言えば、普通俺にはこの強敵たちに打ち勝つ力はないということになる。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」


「うるさいなあ。耳元でわめくな」


俺は、しかし、そんな敵を目の前にしても驚くどころか、大声に対して迷惑そうに顔しかめるのみだ。


そして、


「雑魚どもめ。爆ぜろ」


そう一言だけ呟くと、


「⁉ ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉」


ドオオオオオオオオオオオオオン‼


轟音とともに、3体のグレート・ゴーレムが四肢を爆発させて崩れ落ちる。


どいつも今自分たちに何が起こったのか分からなかっただろう。


突然崩壊する自分と仲間のゴーレムたちの様子に、いかに無機物である石の怪物であっても、生物的な根源的恐怖を覚えずにはいられないようだ。


ゴーレムの目に当たる部分が恐怖の色をたたえるかのように明滅を繰り返す。


(なぜ? どうして?)


そんな叫びと恐怖を目にたたえる。そして何よりも伝わって来る感情は、すなわち怯え。ゴーレムにはないはずの恐怖という感情だ。


まあ、それはそうだ。無理もない。


なぜなら、目の前の信じられない現象を生み出したのが、眼前の一人の人間たるこの俺であることは明白なのだから。そして、そんな相手に喧嘩を売ってしまったことを後悔しないほど、こいつらは馬鹿ではない。魔術的な回路で作られた脳髄にだって知能はある。薄っすらながらも恐怖もある。圧倒的な存在を目の前にした時に混乱する程度の反射機能はあるのだ。


まあ、俺でなければ、そんな機能があることを確認するはめになることもなかっただろうが・・・。そのことだけは、申しわけがないようにも思う。だが、上には上がいる。そのことは残念ながら事実なのだ。


さて、何はともあれこのゴーレムどもは本当にランクSでなければ倒せないほどの強敵なのであった。だが、俺は間違いなくランクC。


ではなぜ俺が一瞬にしてこいつらを屠ることが出来たのか?


「無論、冒険者ランク制度の欠陥による」


俺は「はぁ」と呆れてため息をつく。


そういうことだ。俺から言わせれば冒険者ランク制度は無意味なのだ。本当の強さとは別に攻撃力が強いとか魔法が使えるとか、強力なモンスターを倒したとか、そういうことではない。


戦略を練り、状況にあわせてスキルをはじめとする各種手段を適切に選択、実行できること。何よりも勇気・柔軟性・判断力・コミュニケーション力やカリスマ。そういったものの方が重要である。


バックアップといういわば指示役、軍師役に徹してきた俺は、敵を直接倒すことが少ない。だからランクがCになるわけだ。しかし、その評価基準に欠陥があることは明らかだ。なぜならば、全体を見渡して指示命令を出せる俺は、他の人間たちの行動や技をすべて理解した上で指示を出して、パーティーを勝利に導いていたのだ。


それに実は、俺がやった方が早いときも、あくまでバックアップに徹していた。メンバー全員の力を把握し、指示を出して、望むべき結果を出しているのだから、当然、俺自身がその行為を代替することも可能なわけだ。もちろん手段は違う風になるわけだが、戦略家である俺には手段が無限にあるのは当然である。


要するに、ランク制度はこうした真の力を見定めることは出来ない欠陥のある制度ということだ。Sなどとうに超えた力を持つ俺の真の力を計測できないというのは、かなり致命的な欠陥であるという証拠でもあるだろう。


「ま、俺もお守りから解放されたから、時間があればこのランク制度の欠陥を修正してやってもいいかもしれないな」


社会制度を正すこともまた、才能ある人間の責務だ。面倒なことではあるが。はぁ。


まあ、今はそんなことはどうでもいいか。


俺は崩れ落ちて絶命したゴーレムたちを見下ろす。今回のゴーレム戦で、俺がやったのは決して難しいことではなかった。単に『魔力増幅』をしてやった、というだけ。


「こんな使い方をしてる奴は一人もいないだろうな」


俺は苦笑する。当たり前だ、こんな突飛な方法を思いつく奴もおかしいし、それを実際にこんな実践の場でやってしまうのも、どれだけの決断力と勇気がいるか分かったものではない。


ゴーレムというのはデリケートな創造物であり、綿密な魔力神経システムによって動く、精密器械だ。


よって、魔力のコントロールが非常にデリケートに行われている。


そこに魔力を多少流してやったというだけだ。


では、少し魔力増幅をしてやれば、ゴーレムは崩壊してしまうのか?


「否」


そうではない。例えば、今俺が流してやった魔力は、一体につき国の魔法使いたちが何とかひねり出せる魔力の合計を優に超える。


それを一気に3体分、流してやったのである。


規格外、そう言わなければならないほどの魔力量を、ゴーレムに流してやったのである。いわば、大陸中の魔力を俺一人で凌駕しているようなものだ。


軽々しく口外すると、また外野がうるさくなるので言わないが、俺の才能と、そして戦略眼と勇気・判断力があって初めてできる奇跡的な大戦術だと言える。 

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