第6話 ダンジョンを攻略し少女を助けよ

奇抜すぎる方法で潜入した封印神殿には、大きな魔力反応があった。


光源を「ライト」と呟いて魔力で作り出す。


俺の強力な魔力は広範囲を照らし出す。通常魔法使いが使う範囲限定的なものではどうしても視界確保という点では片手落ち感がいなめない。そんなわけで範囲を広げるアレンジをしている。


さて、今いるのはドーム状の大きな一室のようだ。


俺は魔力反応のある方角へ歩き出す。


ざっと見たところ、古びてはいるが、もともとの作りはしっかりとしていて、今にも崩れそうだとか、そういう状態ではない。


また、結界の大きさは外から見たときはそれほど大きく感じなかったが、内部は相当広いダンジョンのようであった。


どうやら、結界によって内部の空間を歪めていたようだ。



そこまでの状況を瞬時に頭の中で整理する。


環境認識、そして戦略立案。その準備と実行。


俺が勇者パーティーで発揮していて能力そのものだ。それによって勇者パーティーは最適な鼓動を取り続けてこれたし、成長の速度も速かったのである。


俺の背中を見た彼らが、巣立った後にどうなるか楽しみにである。


反面教師と言う言葉はあるが、優れた教師の背中を見るほうが成長の糧になるのは確かなのだから。


さて、そんな余談はともかく、俺は歩みを進めていく。すると、このドーム状の一室からの出口の扉の両脇に悪魔をかたどった銅像が二体鎮座していた。


「ふむ」


俺はそいつらの目の前に「空間操作」のスキルを発動しておく。


さらに数歩近づいて行くと、


「侵入者か、赤き者を解き放とうと言うのか」「災厄の奴をか。愚かな、即刻排除する」


ゴゴゴゴゴ。


今まで単なる銅像だった二体の悪魔が、たちまち生物としての動き出したのである。


そして、一瞬のうちにこちらへとびかかって来た。


常人ならば見切れないほどの速度だ。恐らくはこの神殿のガーディアン。防衛機構のようなものだろう。パッと見てレベルは60ほどだろうか。魔王麾下の将軍クラスがこれくらいの強さだ。場合によっては一国が動かなくては討伐できないだろう。


だが、


「ぐぎ!?」「ご、ごればばばっば」


目の前に事前に張っておいた空間操作によって、大気の分厚い層を作っておいた。そこに思い切り頭からぶつかっていったものだから、思うように進めずにレベル60の防衛機構どもが焦りを浮かべているようだった。


しかし、


「なめるではないぞ、人間風情がぁ!」


パァン!


魔力放出によって、無理やりに圧縮された空間そのものを吹き飛ばす。


「残念だったな人間!」「人間のわりにはよくやった。この言葉を冥途の土産とし、幽世で誇りにするが良いわ!」


二体が目前に迫り、強靭な膂力を活かした攻撃をしかけてくる。


「「とったわ!」」


二体のガーディアンが俺の頭部そして心臓へと喰らい突く。


そして、次の瞬間、俺の体はその攻撃によって、ぐにゃりと曲がってしまう。そう、あたかも空間に浮かんだ残像に斬りかかったかのように。


「なぁ⁉」「ど、どういう⁉」


空間の中に溶け込む俺の姿に狼狽しながら、ガーディアンたちが立ちすくむ。


「やれやれ、こんな初歩の手に引っかかるとは、正直がっかりだぞ」


「なっ、いつの間っ・・・」「後ろだと!?」


「遅すぎる」


ズバン! 


俺の手刀によって、ガーディアンの一体の首が勢いよく斬り飛ばされた。その首は遠くの壁にぶち当たると、ぐしゃりと音を立てて砕け散った。


「跡形も残らないか。軟弱なものだな。人間風情と侮るほど上等な木偶人形ではなかったようだ」


「き、貴様・・・何者だ。一体どうやって背後へと回った・・・。それにこの絶対防衛機構たるわし々をこうもいともたやすく・・・ありえぬぞ・・・」


「全て目の前で起こったことが現実だ。まずは現実を直視することだ、木偶人形。それに雑魚に関わっている暇はない。俺は忙しいんでな。さあ、実力の差はよく理解できたろう。さっさとガーディアンなどという大層な役目は捨てて、その扉を開けろ、出来損ない。これはお前などよりもよほど上位に位置する人間から、お前という愚か者に対する命令であり情けだ。選ぶがいい、口端にものぼらせる価値のない愚物よ。素直に道を空けるなら、見逃してやろう」


甘い俺はチャンスを与える。しかし、


「ちょ、調子に乗るなよ、人間んんんんんんん! 不意をうったくらいでいい気になるなあああ」


ガーディアンにも感情があるのだろうか。悔しそうな雄たけびを上げながら突進してくる。


「やれやれ、温情は与えてやったんだがな・・・」


俺は突進してくるガーディアンの攻撃を正面から受け止める。


「は?」


「ではな」


次の瞬間、ガーディアンの胴体部分が10以上に解体されて、絶命した。


断末魔の声を上げる暇もない。


「おそらく、絶命したことすら理解できなかっただろう」


苦痛すらもなかったはず。それがせめてもの情けだ。甘すぎるかもしれんが、むやみに相手を侮ったり苦痛を与えることは俺の趣味ではない。愚かにも勘違いする奴がいるが、挑発はあくまで戦闘を有利に進めるための技術にすぎない。殺し合いともなれば、俺も普段の紳士の仮面を脱ぎ捨てるということだ。それは甘さではなく、逆に厳しさと言ってよいだろう。あくまで守るための力なのだから。そのことに気づけない者があまりにも多い。


「ネタばらしをすれば、最初の空間圧縮は二つの目的があったわけだ。一つはお前らの動きを空気の層で鈍らせる役目。だが、これは囮だ。本当の目的は光と空間を歪めることで屈折させ、俺の姿を幻影として見せる。その間にお前たちの背後をついたというわけだ。そして、二体目を葬ったときのネタも単純だ。一回目の攻撃傾向を分析したのと、挑発して単純な攻撃しかできないようにした。それによってまんまと一点集中防御で防いだというだけの話だ。そして、ダメージ返しのスキルによって、相手にその攻撃をそのまま返した」


つまり、


「最初から俺の掌の上だったと言うだけの話だ。戦略を駆使するというのはこういうことだ」


特別なことではない。俺のようにセンスさえあれば誰にでもできることだろう。最初から勝っているというだけの話だ。


願わくば、勇者パーティーたちが少なからず俺から学んでいてくれればと思う。


さて、それはともかくとして、


「開門せよ」


俺の言葉に、扉は反応し、ギギギギギという、久しぶりの稼働にさび付いた音を立てながら門を開く。あたかも俺を主かのように、従順に、招き入れるがごとく開く。


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