第5話 殺され解放されることを望む少女を救う話
「一人旅というのもいいもんだなぁ」
俺はしみじみと呟いた。
幼馴染の勇者パーティーのお守りをクビになった俺は、一路オールティという街を目指しているところだった。1か月以上はかかる旅である。
お守りをクビになる、というのも変な表現ではあるが、本当のことなのだから仕方ない。
あいつら、ちゃんと旅の準備はできるだろうか。アイテムの在庫管理や準備については、その重要性を常日頃から口酸っぱく言っていたから大丈夫だとは思うが・・・。
「というか、あいつらマップ読めたっけ?」
いつも俺が指示していたような気がする・・・。
俺は若干冷や汗を浮かべながらも、
「ま、まさかな。マップも読めない勇者一行など洒落にもならん」
やれやれ、どうやら俺もずいぶん過保護だったようだ。出来の良し悪しはともかく、生徒の巣立ちを見守るのも、保護者の役割だというのに。
案外、俺は彼らを指導することに充実感を覚えていたのかもしれない。何せ出来の悪い生徒ほど可愛いものだからなぁ。
そんなことを考えて、苦笑するのであった。
ま、それに、
「あのしっかり者もいるしな」
あまり心配しすぎることもあるまい。
などと考えていた、その時である。
『・・・誰か・・・た、助けて』
頭の中に何者かの声が、かすれかすれであるが、響いた。どうやら、俺の脳に直接声を届けているようだ。
「これは・・・」
俺は驚く。なぜなら、俺は特殊スキルによって常時魔法障壁を展開している。はっきり言うと、例えば不意にそこそこの攻撃を仕掛けられたとしても無効化できるほどの障壁を、だ。
もちろん、そんなことは普通の人間ではできないレベルのことなので、秘密にしているのだが。
あまり特別過ぎるというのも、周囲に警戒心を抱かせる原因になるという、そういう深謀遠慮からである。
さて、それはともかくとして、かすれてはいるものの、その声は俺へ達することが出来た。それだけで、そこそこの使い手ということが分かる。
「誰なんだ? というか、人間か?」
そう、そこが疑わしくなってくる。俺の障壁を乗り越えてくる人間と言うのが、あまりイメージできなかったせいだ。
すると、
『!?・・・返事が・・・お願いじゃ・・・わしを・・・この呪いから解放することは誰であれ不可能じゃ・・・だから、わしを、せめて殺してくれ・・・』
「いきなり話しかけてきておいて殺してくれだと?」
訳が分からない。だが、答えられるとすれば一つだ。
「そんな依頼は受けられないな。殺して欲しいなら他を当たるといい」
「お願いじゃ。出来損ないとはいえ・・・竜族の誇りを失う前に・・・」
プツン。チャンネルを閉じた。こちらから一方的にだが。
向こうは縋るように何か言いかけていたようであったが・・・。
あと、竜・・・ドラゴンとか何とか。
多分嘘だろう。ドラゴンがこんな風に人間に助けを求めるわけはない。なぜなら、ドラゴン種族というのは人間に負けた場合、その人間に服従するという性質がある。伝説では結婚した逸話などもあるが、まあそれは嘘であろう。人間のお得意の誇張表現の結果に違いあるまい。ドラゴンが人間と結婚するなんてな。
まあ、とにかく、そんなわけで、そもそも助けを求めてくるようなドラゴンはいるはずがないのである。いたとすれば、何かしらの卑怯な手段でつかまっているといった時くらいだろうか?
「そもそも、最初から助けてとお願いされていれば、また違うのだがな」
独り言を言って、歩き出す。
だが、
『お、お願いじゃ、助けて・・・』
ツーツー。
俺は驚く。またも無理やり障壁を乗り越えて来たのだから。
(もう一度だけチャンネルが力づくで開けた。それによる魔力の逆流・・・要するに俺の自動防壁によって、相手は甚大なダメージを受けて気絶してしまったようだ)
というか、致命傷かもしれない。
「まさか力づくで開けてくるとはなぁ」
呆れるとともに、俺の責任ではないものの、生来の優しさゆえに心配になってきた。
あと、付け加えるならば、
「いちおう条件クリアか」
二度目の正直とも言う・・・かどうかは知らんが、ともかく「お願い」をちゃんとやり直して来たようだ。
そのこと自体は偶然だろう、だが、例え偶然でも、俺にそれをアピールできたのは幸運・・・すなわち天運、要するに実力といってよい。生きる力があるということ。ならば、
「あっちか」
急ぐ旅ではない。俺は街道を外れ、虫よけのスキルを使用しながら、森の中へと踏み入ったのである。
それに俺の鋭い勘が予感したのだ。ドラゴンを助けを求める。となれば、別の何者かの大いなる悪意がそこにあるのではないかと。
「やはり運命は俺を放そうとしないのか」
そうぼやきながら先を急いだ。
「なるほどな」
森の中を進むと結界にぶちあたった。
どうやら、最近地震があったらしく、結界の封印力が弱まっていた。
中の何者かはそれによって、声を外部へ届けることができるようになったのだろう。
だが、
「ふむ、みな死んでいるな」
俺は周囲を見回して言う。
盗賊か何者か不明だが、結界をこじ開けようとして失敗し、死んだ亡骸が散乱している。大方、金目のものがあると踏んで侵入を企てたのであろう。
(だとすれば、俺とは相性が悪い結界だな。何せ俺は欲望とは無縁と言って良い生き方をしているからなぁ)
さて、どうするか。無理やりこじ開けても良いが、それではこの辺り一帯の生態系に異常が出るかもしれない。魔力とは力の渦のようなもの。結界とは魔力による環境操作に他ならない。だから現在の安定している状態を維持したほうがいいだろう。結界だからと言って何でもかんでも破ればいいというものではないのである。力とはそれにおぼれずに使いこなす頭脳こそが、真の意味で必要とも言い換えられるだろう。
「なら、これだな。スキル『メタモル・フォーゼ』スキル発動」
シュウウウウウウウウンンン。
そんな音を立てながら、俺の体が変化していく。
『モグラ』に。
「さて、どうかな?」
俺はモグラになって、地中を掘り進んでみる。
よくあるのだ。
案外盲点だった! みたいなのが。
信じられないよ、そんな方法があるなんて、みたいな抜け道が。
まさかと思うので、わりと誰も確かめてみようとしないのだが、こういう結界を張る人間と言うのは頭はいいのだが柔軟性にかけるという特徴がある。
「おっと、こいつは???」
そう例えば今回のように、
「真下までは結界を張ってないパターンだなー」
こんなことがある。
信じられないが、土の中に隠れてしまっているので、結界を張り忘れるというパターン。
目の前のぽっかりと空いた結界の抜け道を発見する。これが真実なのだ。
「いや、というか誰もかれもモグラになれるわけじゃないか・・・」
誰でも自由に形態変化ができるわけではないことを失念していた。何でもできると一般から外れて行ってしまい、特別なことを特別と感じなくなってしまう。それはそれで持つ者の悩みと言うべきか、つらいものだ。
それはともかく、俺は土中から浮上する。そして、
「ぷは!」
前人未到であろう、神殿の内部のようなところに出たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます