第4話 一方その頃、勇者ビビアたちは①~

「はぁ、やれやれ、清々したぜ! くくく、あいつ、みじめに何も言えず出ていきやがったぜ。なぁ、みんな!」


「本当にそうです!」「あいつ、ちょーむかついたしね!」


俺こと勇者ビビアの言葉に、拳闘士デリアと魔法使いのプララが応じる。


パーティーの盾である大男エルガーは静かにうなづいている。


「アリシア、お前もそう思うだろう⁉」


俺は沈黙を守り、なんの反応もしないアリシアに水を向ける。


すると、


「勇者様のいないパーティーに意味はありませんよね」


そう言ってニコリと笑う。


「お、おう。そうだな! ああ、この勇者ビビアさえいれば、このパーティには何の問題もねえよ!」


聖女アリシアも俺を肯定する。


最初聞いた時、意味が少し分からなかったが、要するに俺がいれば大丈夫・・・すなわち、アリアケを追い出せて清々したということだろう。


そう考えて俺は留飲を少し下げる。


俺たちは幼馴染で、『リットンデ村』という寒村育ちだ。小さい頃からお互いを知っている。その中で俺が一番優れていた。リーダーシップ、剣の腕前、判断力、すべてが優れていた。そして勇者としての選定が下され城に呼び出された時、俺の運命は華々しく彩られることが確定したのだ。


「それなのにアリアケときたら、俺に意見してきやがる! ユニークスキルもない、ただの器用貧乏のカスのくせに! 幼馴染のよしみでパーティーに入れてやってただけだってのに!」


それにあの見透かしたような目が気に入らなかった。単なる偶然で奴の勘が当たることは確かにままあった。だがアレはたまたま運が良かっただけだ。なのにさも当然といわんばかりの顔をする!


「ビビア様に意見なんて、とんでもないことですわ! ビビア様がパーティーの主ですのに!」


「ほんとほんと! 本当だったら身ぐるみ剥いで追い出しちゃえば良かったのにさぁ!」


「ははは、さすがにそこまでしたら可哀そうだろう! 情けをかけてやったのさ!」


「さすがビビア様ですわ!」


「勇者らしくて最高! 素敵じゃん!」


そうだろう、そうだろう!


俺は女たちの喝采を受けて満足する。聖女は何の表情も浮かべていないが、まあいつものことだ。何せ大聖女だしな。


だが、ああ、そうだ。俺こそが勇者であり、世界を救う人間なのだ。俺は正しい。だからこそ、デリアやプララは当然だが俺に惚れているようだし、アリシアだって、いずれ俺の女になるに違いない。表情に出さないだけで「勇者様のことを深く信頼している」って言っていることが俺には分かる。


いや、俺を認めるべきなのは、こいつらだけじゃない。


俺は内心でにやりと笑う。


いずれ世界を救ったあかつきには、この国の姫も俺のものにする。そうすれば俺が一国の主・・・王だ!


王になり下々の者たちを支配する。そして、その華々しい未来はもうすぐ目の前に来ているのだ!


俺は不快なアリアケのことなどすっかりと忘れてしまう。気持ちが落ち着きを取り戻し、自分が世界で一番優れた存在なのだと改めて確信する。


よし! と気合を入れて、いつも通りにダンジョンの攻略へと向かうことにする。


だが、賢明な俺に油断などない。


「いちおうメンバーが一人抜けた後だ。とりあえず肩慣らしに以前攻略した『呪いの洞窟』にでも行くとしよう」


あそこなら確実に、簡単に攻略できるしな。


「堅実で適切な判断ですわ」


「むしろ邪魔者がいなくなってスムーズに攻略できるかもね!」


「わははははは、確かにな!」


デリアとプララの言葉に笑いながら、俺たちは出立の準備を始めるのであった。


「ん? アリシアどうしたんだ?」


ふと気が付くと、俺たちの会話など聞いていないかのように、アリシアが窓の外から遠くを眺めていた。


その目はひどく遠くを見ているような気がした。


まるで俺たちがいないかのように・・・。


「いいえ、何でもありません。ちょっと足りなくなってきただけです」


おっと、何を考えているんだ俺は。


俺はブンブンと首を横に振る。


そんなわけないじゃないか。俺は勇者なんだぞ。俺は冷静を装って話を続ける。


「足りない? えーっと、何のアイテムだ? 聖水とかポーションか?」


まだ在庫はあったはずだが・・・。ええっと、くそ、アリアケしか正確に把握してないんだよな。くそ、こんな時まで面倒をかけやがって。


「いいえ、もっと、ずっと、大事なものですよ。わたしの・・・成分が・・・」


聖女が何かを言った。だが、よく聞き取れない。


「? ま、まあ。なんのアイテムのことか分からないが、よろしく頼むぞ」


正直、細々としたアイテムのことなど考えたこともなかった。


そんなことを考えるのは他のメンバーがやることだ。


それに、あまり詮索して聖女のご機嫌を損ねることは得策ではなかった。俺の勇者としての権威は、無論聖剣に認められ、王国の後ろ盾があるからだが、一方でこの大聖女が仲間であるという点も大きいのだ。


もし、大聖女が俺を見限るようなことがあれば、俺の権威は失墜してしまうだろう。


まあ、そんなことはありえないのだが。


俺の言葉に聖女は「ええ」と物憂げに頷いた。


そんな聖女の様子は、今まで見たことがなかったので気にはなったが・・・。


「おい、ビビア。洞窟のマップの件だが・・・」


エルガーに話しかけられて、そのことを深く考えることはなかったのだった。


とにかく俺たちはこの3日後、以前楽勝でクリアしたダンジョンへと潜ることになる。決してリスクのない、腕慣らしには最適な、簡単なクエストになるだろう。

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