第3話賢者の独り言
さて、俺は幼い頃に夢枕に立った”神”からお願いされた”幼馴染の勇者パーティーを時が満ちるまで背後より
まったく、今思いだしても厄介な依頼だった。
まずもって、幼馴染を助けろ、などと言われれば、・・・何よりそれが彼らの命に関わることなのが明白なのならば、俺と言う人間が断ることなど出来ようもない。俺の善性に付け込んだ巧妙なやり口であったし、そういう点でも悪辣な神だった。まあ、それで彼らが今まで生き永らえて来れたのだから、俺としては後悔はないのだが・・・。
次に厄介というか、面倒だったのは、この神託によって俺が授かったスキルが『バックアップ』そのものだったという点だ。俺はあくまで彼ら勇者パーティーの影の支配者、黒幕、後ろで糸を引く者であり、けっして表舞台には出ないというのが前提であった。だから、俺のスキルと言うのは、補助系、探索系、そういったスキルをオールマイティに使えるのが俺のユニークスキルとして付与されたのである。
で、これまた厄介なのが、俺のユニークスキルは一見、何のユニークスキルも持っていない様に見えるのだ。が、しかし『実は万能』なのである。そういうややこしい性質なのが俺のユニークスキルなのである。
普通ユニークスキルは鑑定などによってステータスに表示される。だが、俺のユニークスキルはそうした表示はされず、あくまで膨大なスキルが表示されるに過ぎなかった。だから城で鑑定を受けた際も・・・たとえ上級鑑定官でさえも、俺の真の力を見破ることはできなかったのである。その上、現在俺は念のため、ある一定レベル以上のスキルを見えない様に”隠ぺい《インビジブル》”のスキルで隠している。もはや、頭の足りない奴には器用貧乏なスキル持ちにしか見えないはずである。
まあ逆に、もしも俺の才能をしっかりと見抜ける者がいれば、それは物事の本質を見抜けるレベルの人間ということになるのだが・・・。ちなみに、こんな手の込んだことをしているのも、手の内をばらすと危険というのもあるが、何より万能すぎると周りが驚愕してしまうだろうという配慮の面もあった。
だが・・・本当に俺がいなくても大丈夫だろうか。ステータス上昇やダンジョンの罠回避、ガイド、準備・・・そういったことが、俺がいなくても本当に大丈夫だろうか。
確かに俺は攻撃魔法や防御魔法は使えない。だが、武器強化や防具強化、時間加速や遅延、回復力上昇など、様々な補助スキルを駆使していたのだが・・・。もちろん、あいつらもそれを理解していたはずである。・・・いや、してるよな。あいつらは俺の幼馴染だ。さすがにそこまで侮るわけには行かないし、実際そんなことがあるはずがない。理解したうえで、自分たちだけでやっていけると熟慮したうえで、俺を追放したのだろう。
「いや」
俺は笑いながら首を振った。
「そうに違いあるまい」
俺は頷く。
あいつらならきっと俺がいなくても何とかやっていくだろう。神は時が満ちるまであいつらを助けてやって欲しいと言った。今まさにその時が来たのだろう。
なんだか考えていたら清々しい気持ちになった。
ようやく、自分の面倒をみていた子供が一人で歩き出したかのような、巣立ちの日を迎えたようなそんな気持ちになったのだ。
では逆に、と俺は思う。
今まで保護者のような生活をしてきた俺もまた、子離れをしなくてはならないだろう。さてさて、俺こそ明日からどうしようか。そんな風に自由をかみしめるのであった。
「僻地にでも行って、ゆっくりと暮らすのもいいかもしれないな」
一人ごちながら、明後日の方向へと歩き出す。『オールティ』という町を目指すことにした。そこは冒険をしていた時にふと立ち寄った小さな町だ。だが、そこで暮らす人々は温かかった。
俺は呑気に未来へと進み始めたのだった。
・・・俺が去ったのち、勇者パーティーに大惨事が訪れるとも知らずに。
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