第2話 無能の烙印

そんなわけで、俺は冒険者ギルドの一角でパーティー追放を宣言され、こうして元パーティーメンバーたちから罵詈雑言を浴びせられているわけだ。


「ハエみたいにうるさいものだなぁ」


・・・おっと、しまった。


またしても、ついつい本音が漏れてしまった。正直すぎるというのも美点だけとは言えない。


なぜなら、案の定、そうした本音に過剰に反応してしまう人間が少なからずいるからだ。


例えば、もちろん俺の出来の悪い幼馴染たちとかだ。


「て、てめえ、いい加減強がりを言ってるんじゃねーぞ、アリアケ! お前みたいなお荷物、俺様のお情けでパーティーに入れてやっていたのに、追放されちまったら引き取ってくれるパーティーはないんだぞ!」


「そうよ、アリアケ! 謝るなら今のうちよ!」


「立つ鳥は後を濁すべきではない。いかに無能なお前であろうとも、最後の最後までそうした振る舞いをすれば、幼馴染である俺たちも情けなくなってしまうぞ」


「ハ、ハエとか、ちょー腹立つんですけど。ここでボコっちゃおうよ! ねえ勇者様!」


「はぁ・・・」


思った通りみんな激高してしまった。聖女だけは嘆息をするにとどめたようだが・・・。それがまた俺への敵愾心の現れだと如実に感じられた。露骨に嫌悪を示されるよりも、よほど感情的な反応だと思われた。


ただ、変わっているなと思ったのは、彼女が冷ややかな表情を浮かべていることだった。いや、そこまでは普通だ。だが、そういった侮蔑の視線と言うのはその相手にぶつけるもののはずだ。なのに、彼女は一切俺の方を見ず、幼馴染たちに顔を向けている。


まあ、俺を見たくないくらいに嫌悪しているということだろう。まったく、昔は俺の後をずっと付いて来るくせに言葉一つかけてこないという、恥ずかしがり屋な娘だったんだがな。


なった今では、ずいぶんと変わってしまったということだろう。


「いいから話を進めろ。いちおう聞いておくが、なぜ俺が追放されねばならんのだ?」


理由を話す機会を与える。


「お前らにも何かしらの言い分があるのかもしれん。その理由を言ってみろ。ただ俺は忙しいから簡潔にな」


そう言い添えた。


「何を偉そうに! そんなの決まってるだろうが‼ お前が無能だからだよ‼」


そうビビアが言った。


俺はため息をつきながら、


「はぁ…。理由を言えといったんだ。それは、具体的にわけを言えということに決まっているだろう? そんなことも理解できなかったか?」


「っ・・・・! あんたいい加減にしなさいよ!」



デリアが顔を憤怒に染め、俺に殺気を飛ばす。今しも殴りかかろうとする。


だが、さすがに勇者を名乗るだけあって、それを制す。


「やめろ、ははは、なら言ってやるよ。しかもメンバー全員からな!」


勇者ビビアは余裕たっぷりといった様子で宣言した。


「簡潔にと言ったのだがな。まあいい。ではお前からだ、ビビア」


俺は呆れながら指名する。


「命令するんじゃねえ! このクソ無能野郎が! 追放する理由は簡単だ。まずはお前は一切の攻撃・防御魔法が使えねえ! 攻撃にも防御にも、何の役にも立たねえ。使えると言えば探索や毒消しなんかの補助系魔法ばかり! そんなのは誰でも使えるんだよ! つまり、パーティーにお前の力は不要ってことだ。足手まといなんだよ。ああ、これ以上の理由はねえ! そうだろう、みんな!」


勇者ビビアの言葉に、他のメンバーも続く。


「その上、攻撃力もないし、これと言って得意な武器もないわ。いつも私たちの後ろで守ってもらってるだけ。荷物を運んだり、キャンプをはるだけなら、その土地で雇った案内役で十分すぎるわよ!」


そうデリアが言えば、


「男らしい鋼の肉体もない。そのひ弱な身体ではとても今後の魔王軍との戦いについてくることはできないだろう。俺の役目はあくまで魔王軍と戦う勇者パーティーを守るためのもの。お前の様な後ろで何もできずに震えている輩のためではない」


エルガーが淡々と言った様子で言う。


「ていうか、いつも変な意見を言い出すから私たちいつもめっちゃ迷惑してるんですけどー! この前だってダンジョンでいきなり、こっちは罠があるからって、遠回りさせられるしさあ! 大げさなんだよ、あれくらいの罠なんて楽勝なんだから前進すべきだったよね! 迂回したせいで余計なモンスターとも遭遇したしさぁ!」


憎悪の炎を燃やしながら、プララは言った。


「あなたにこのパーティーは相応しくありません」


そして、聖女アリシアも結論づけるようにそう口にした。


相変わらず冷ややかな表情を浮かべながら。


まあ、やはり俺の方に顔を向けてはこないのだが・・・。


「お前たちの言い分は分かった。では、俺からもいくつか忠告がある。俺のスキルのことだが・・・」


「はぁ? 忠告だぁ? はん、今更泣いて謝っても戻してやるつもりはねえよ! 今の俺たちからの言葉を聞いても分からなかったのかよ! お前に聞くべきことなんて一つもねえんだよ。それにスキルだぁ⁉ お前にはユニークスキルが『ない』だろうが‼ 役立たずの凡人‼ 何より今更パーティーを去るお前に何を聞くっていうんだ!」


「ん? いや、そうではなくてだな・・・・・・」


「さっさと消えろ! お前はクビなんだよ、アリアケぇ‼」


ビビアが鬼の首を取ったとばかりに・・・最後通告とばかりに立ち上がると同時に俺を指さし大声を張り上げた。他の奴らも同じ意見のようだ。


ううむ。


「まあ、そこまで言うのなら、あえて口にはしないが・・・」


腐っても幼馴染。俺は最後までこいつらのことを心配し、後ろ髪をひかれる思いを持つ。


だから、やはり聞かせておいたほうがいいと思うのだが・・・。


「早く行ってください、アリアケさん。先ほども言いましたよ、このパーティーはあなたがいるにはふさわしくない、と。聞く耳を持たないというのは悲しいことですね」


アリシアが淡々とした口調で告げる。その言葉に他の奴らも笑みを浮かべた。勝負ありとばかりに。


ま、まあそこまで言うならしょうがないか。


俺は後ろ髪をひかれる思いを抱きつつ、冒険者ギルドを出て行ったのだった。


・・・こうして俺は、幼い頃に夢枕に立った”神”からお願いされた”幼馴染の勇者パーティーを時が満ちるまで背後より助けてバックアップせよ”という、『義理』だけで参加していたパーティーからついに解放されたのである。


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