ささたけ氏、書を読む【ぐらんぶる】

 ささたけ氏はたいそう疲れていた身体からだ


 思わず乱文から始まってしまった。それくらいささたけ氏は疲れているので、どうか許してほしい。

 原因は、連日の除雪作業である。これに関しては、機会を改めてこの場で書こうと思う。

 ともあれ、肉体はへとへと。おかげで週間連載も休みがち。新しいコンテスト用の作品も、構想はあるが形にする気力が沸かない。第二回直木賞選考のレビューはどうなった。解ってはいるが頭も身体も働かんのである。

 あまりの疲労困憊こんぱいぶりに、飯を食いながら眠り、風呂に入りながら眠り、果ては立ったまま眠ってしまうような有様であった。このままではいかんと思いつつも、この状態では一度横たわると起き上がることが難しい。そもそも意識を保つことが難しい。


 すわ、かくなるうえは全てを捨ててカクヨムから失踪する時が来たかと、布団の中でスマホを見つめながら覚悟を決めかけた矢先――出会ったのがこの世にも奇妙なダイビング漫画の『ぐらんぶる』であった。

 ともすればすぐに眠ろうとする脳に刺激を与えんと、以前から馬鹿馬鹿しいと評判の漫画の試し読みに手を出してみたのだが、ささたけ氏は一話目を読んで即座に後悔したのだった。


 ――ところで話の途中だが、『ぐらんぶる』をご存じない方のために、ここで作品の概要を紹介しよう。


・アフタヌーン掲載漫画らしい美麗な作画。

・画力の有効活用か無駄遣いかの判別もつかないほどセンスに満ちあふれたくだらないギャグ。

・強烈を超えて劇薬のような個性を発揮するキャラクターたち。

・画期的な酒と水の見分け方。

・登場する裸、裸、裸。主に男の。

・あと、ほんのり恋愛要素。なお異性同性血縁は問わない。

・ついでに恋愛以上に淡いダイビング要素。


 以上の要素を含んだ作品である。面白くないわけがない。

 では、これほど褒めそやしておいて、ささたけ氏はいったい何を後悔したというのかというと。


 ひとつには、肌に合いすぎたのである。

 人にはそれぞれ趣味嗜好があるので合わない人もいるだろうが、ささたけ氏はドハマりした。そのハマりようは、既刊の全巻を即買いするくらいである。

 そこまでハマッた本を、読まずにいられるだろうか。

 答えはノーである。

 結果、ただでさえ疲労困憊のくせに朝までかけて読破してしまった。リフレッシュのつもりが、更なる疲労をため込む有様となったのだ。

 軽い気持ちで刺激を求めてはいけないと、ささたけ氏はこの年齢になって学んだのだった。


 続いては、電子書籍で買ってしまったことだ。

 今回は深夜の衝動を抑えられずやむなく電子書籍に手を出したが、本来ささたけ氏は紙媒体派である。そして蒐集癖もある。

 そんなささたけ氏が、ここまでハマッた本を紙媒体で買わずにいられるだろうか。

 これもおそらくノーである。

 今現在は直木賞候補作全巻読破などの影響により、そもそも軍資金が無いのでその愚行に走る恐れは無い。

 だがいずれ懐に温度を取り戻した時、そうしないという自信も無い。

 ささたけ氏はきちんと解っている。紙と電子の両媒体で購入するなどというのは、およそ貧乏人に許される行為ではないと。まして一冊や二冊ではないのだ。すべてを新品で購入すれば、軽く万は超えてしまう。

 それだけはいかんと思いつつも、伝家の宝刀クレジットカードとにらめっこをする日々は我ながら不毛であると、ささたけ氏は頭を痛めている。


 そして最後に、創作意欲を刺激されてしまったのだ。

 ささたけ氏の信条として、「良いインプットは良いアウトプットを生み、優れたアウトプットは優れたインプットからなる」というものがある。

 皆さまにも経験はあると思われる。

 良作に触れた際の、「自分もこんなものを書きたい!」という衝動の根源である。

 それにまんまと突き動かされてしまったのだ。

 結果、ささたけ氏の胸中にとある思いが浮かぶ。


「この情熱があれば、『戦うイケメンコンテスト』用の作品作れんじゃね?」


 ――とはいえ。


 ささたけ氏の筆は遅い。

 現状、毎週連載の予定は守れておらず、近々にはエロいほうのコンテストへの応募も控えている。そこへさらに作品創作を増やそうというのは、比喩ではなく自殺行為である。リアルに生命維持に直結しかねない。

 日ごろから意識を保つことも困難な状態であるのに、これ以上書くものを増やすなら、必然的に削られるのは睡眠時間である。通勤帰宅の途中で居眠り運転でもしようものなら、冗談抜きで命に関わる。

 やめたほうがいい。

 いや、断固としてやめるべきだ。

 それが賢明だ。

 そうとは理解しつつも。

 おそらくささたけ氏は作品を作るのだろう。


 なぜならば。


 この漫画を読み終えて。

 ささたけ氏はたいそう浮かれていたからだ。

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