第27話 お花見イベント

「第一回、お花見イベントかいさ~い!!」

ネオ人材派遣会社田中マックスの4月の交流イベントの開催を高らかに宣言したのは同社の受付係のミーユ・ホレットだ。


周りではクラッカーを鳴らしたり、ファンファーレを鳴らしたりしているやつもいる。


このイベントには結構大勢の参加者が集まった。


「みなさんこんにちはー。今日のお花見イベントでは、目玉桜を沢山討伐していただきます。ついでに花も見れますよー」

ミーユは会場でアナウンスをしていた。


うおぉおおお


会場は謎の盛り上がりを見せた。


「今度こそミーユさんとキスできるぜー!!」


前回のイベントに引き続きそんなの無いって言ってるのに、なぜそういう話になってしまうのだろうか。


「キスとか、そんなのありません」

ミーユははっきりと間違いなく言った。


うぉおおおお


でも会場の冒険者たちは聞いてない。


「今回の討伐では数が多かった人の他に、ボスの目玉桜を倒した人にも賞金があります」



うぉぉぉおお


会場は盛り上がった。そこまで盛り上がれるのは逆にすごいなとミーユは思った。


「イベントの時には盛り上がるのが冒険者ってもんさぁ!!」


いかつい冒険者が元気よく言った。


「そうだぁ、その通りだー」

ひょろ長い冒険者もそれに乗った。


「今回のお花見は、毒や麻痺や石化には気を付けてください。石化した方は無料で解除の治療はしますが、それ以外の治療は有料となっております」


「ポーションはもちろん、毒消し、麻痺治し等の薬品類の他に、毒、麻痺、石化対策のアクセサリーも販売しております」


「ベテラン冒険者がすべて倒して終わりとならないように、スタートは初心者の冒険者からとなります」


「冒険者の皆さんは、さらに冒険者としてのランクに応じて重りを背負っていただきます」


「本日はイベント本部に私ミーユの他に、AIのエルエとイロロンにお手伝いいただいております」


「エルエでございます」

お使い型マスコットデバイスに入ったエルエは丁寧にお辞儀した。


「イロロンよ」

人型デバイスのイロロンはエルエを真似てお辞儀した。


「説明は以上。さぁスタート。冒険者なら危険に挑んで自ら活路を見出してくのよ」

イロロンはスタートの合図をした。



まずは初心者冒険者がスタートした。

この組には鈴木や三衛門、ドミール、Rin・Feeなどがいた。


「優勝はいただきでしてよ。行きますわよ三衛門」

「へえ」

意気込みあふれるドミールに三衛門が続いた。


「みんながんばろうね」と町田美樹。

「がんばろー」と関口かおり

「おー」と幡ゆり子


三人は元気に走って行った。


「もう少しレベルが上がれば中級者だったな」

鈴木は少し残念そうだった。重りのハンデも無しだし、レベルは中級者目前、宵闇の衣の力もあって、初心者の中ではかなり速い方だった。


鈴木は初心者集団を追い越して先頭で目玉桜の森にたどりついた。



目玉桜はそこら中に生えていて、木の幹に大きな目玉が生えていてその目玉には花弁はなびらがついている。目玉はぎょろっとしていて気持ち悪いし血走っている。


ボフン


複数の目玉桜は大量の毒を蒔いている。


鈴木は毒耐性のアクセサリーを持っている。毒に関しては問題ない。


しかしこの毒花粉は、毒性だけでなく、麻痺の効果もあるのだ。持っててよかった麻痺耐性アクセサリー。


冒険者の何人かが早速しびれてうずくまったり、痙攣しながら倒れたりし始めた。初心者の中の初心者なら麻痺耐性のアクセサリーを持っていないことも多い。


目玉桜の目玉の方を前とするなら、鈴木は宵闇の衣の力を使って目玉桜の背後に回り込み、背後から目玉を突き刺して目玉桜を倒していった。


ザクー ザクー ザクー


目玉桜の背後に回って攻撃することは他にも意味があった。目玉桜に見つめられると石化してしまうのだ。



「うぁあああ」


ペキペキ


石化耐性の無い冒険者たちが次々と石にされていった。


目玉桜のツルで叩く攻撃は大した威力は無いものも、叩かれるのは邪魔くさくてストレスにはなる。


目玉桜たちは多数のツルを伸ばして、麻痺した冒険者や、石化した冒険者をペシペシとたたいてた。


ウィィギャーー


目玉桜はどこかから鳴き声を出して冒険者たちを威嚇した。


ウィーギャーー



ペシペシ



石化した冒険者たちは救護班によって救助されている。うまく目玉桜に見られないように戦えば、石化しないという方法もあるにはあるのだが、それができる初心者冒険者は少ない。


戦っても毒耐性さえしっかりしていれば、まず死ぬことはないある意味安全なモンスターだ。


狩場には初心者の冒険者が増えて来て、乱戦に近い状態になった。この状態なら、目玉桜に見られないようにうまく戦えるかもしれない。


ボフン


毒と麻痺の花粉が吹き荒れるなか、ドミールと三衛門は目玉桜がいるところにやって来た。


「さあ、やりますわよ。三衛門」


「へえ」


ドミールは意気込んだ。


三衛門は若竹道場で鍛えられて結構レベルが上がっていた。三衛門ももうすぐ初心者を抜けるレベルだ。


三衛門は横を向いている目玉桜の目玉を狙って斬りかかった。


「いやー」


ザクー


三衛門は目玉桜を倒した。


「やりましたわ三衛門。どんどん行きますわよ」


「へえ」


三衛門はドミールの指示に従って次の目玉桜に襲い掛かった。


「いやー」

縦に振り下ろされた剣は見事に目玉桜の目玉に命中した。


ザクー


また問題なく目玉桜を倒した。



「次はあれですわよ」


ドミールの指示に従って三衛門がまた次の目玉桜に襲いかかる。


「てやー」


今度は横から薙ぎ払う太刀筋で目玉桜の目玉を斬った。


ザクー


目玉桜を倒した。


三衛門が振り返ると後ろでドミールが石になっていた。


「おじょう!」


三衛門は慌てた。急いでドミールの方へかけ寄ったが、どうしていいのかわからずにあたふたするばかり。そこへやって来た目玉桜は三衛門を見つめた。


ピシピシ


三衛門は石になった。


救護班は忙しそうに石化した冒険者を収容していった。


鈴木はそれを遠目に見ながら次々と目玉桜を倒していった。


茂助はネオ人材派遣会社田中マックスのイベント本部で石化耐性のアクセサリーを買って、目玉桜と対峙していた。


「うおおおおー、やぁー--、はー---、すえー--」


気合の入った声の割に茂助は動かない。


目玉桜も時折、ボフン、ボフンと花粉を噴出して、茂助をツルでペシペシとたたく。茂助はアクセサリーで毒も麻痺も石化も耐性があるので、目玉桜の方に有効打は無い。


にもかかわらず、茂助はなかなかモンスターに斬りかかることができずに、ペシペシと叩かれながら、ほとんど見合ったままの状態だ。


その横ではRin・Feeのメンバーが目玉桜の討伐を始めた。どうやら石化耐性のアクセサリーをそれぞれ買ってきたようで、目玉桜ににらまれても石化することはない。


「行くよー、ゆりちゃん、かおりちゃん」

元気よく目玉桜に挑んでいくのはRin・Feeの盾役、町田美樹だ。


「うんいいよー」

と関口かおり。


「おっけー」

と幡ゆり子。


町田美樹は大きな盾を目玉桜に向けて、ツルの攻撃を防ぎ、目玉桜に接近して目玉桜の目を塞ぐように盾を目玉に押し付けた。


ぐいぐい


「肉体強化」

幡ゆり子は町田美樹に支援魔法をかけた。


「稲妻よ敵を撃て、サンダー」

関口かおりは雷の魔法を放って目玉桜を攻撃した。


雷の魔法が空を切り町田美樹を避けて目玉桜のに命中した。目玉桜はまだ倒れない。


「もう一発だよ、かおりちゃん」


「うん、稲妻よ敵を撃て、サンダー」


ビシャー


今度こそ目玉桜を倒した。


「やったね」

と三人は喜んだ。


こうしてRin・Feeのメンバーはかつてハーミンに教わった通り、初心者のするべき動きを完全に実行しながら目玉桜を倒していった。




「石化した冒険者さんを発見しました」

エルエは目玉桜が出る会場を飛んで回り、要救護の冒険者を探して本部に連絡していた。


「わかりましたわ。お姉さま」

連絡を受けたイロロンは他の救助スタッフに知らせたり、自ら救助に赴いたりしていた。



そろそろ中級冒険者がスタートするころだ。中級者はレベルにもよるが、最低でも80㎏の重りを背負っている。

この組には、マッカサスでの戦闘で急激にレベルの上がった者たちが結構いた。その中にはグラムドもいた。


「ヒィィイイイヤァァァアア皆殺しだぁー!!」


中級者集団は目玉桜のいる会場へと一斉に走って行った。


グラムドは当然知らないが、中級あたりの冒険者になると、目玉桜を好物にしている八大竜王がいるらしいということを知っている者は多い。たまに現れる竜王の討伐希望者に、どれかは知らないが八大竜王を呼び寄せる餌としてまぁまぁいい値段で売れるのだ。上級者が来て取りつくされる前に急いで目玉桜の目玉を集めなくては。


ボフン


目玉桜は例のごとく毒花粉を噴出している。


「ヒィイーヤァアーー」


ザクー


「ヒィイーヤァアーー」


ザクー


「ヒィイーヤァアーー」


ザクー


グラムドは思いのほか、先日上がったレベルのおかげでいいペースで目玉桜を倒している。もちろん彼は売れるなんて知らないから目玉桜の目玉を狙って攻撃している。


グラムドはろくに状態異常装備もないのに、レベルが上がったら一緒に上がる耐性だけで結構頑張った。


しかし


ウィィギャーー


「ぐぅえぇ、何だこりゃあ? 体がしびれてきやがった」


ペシペシペシ


グラムドには全然効いてないが目玉桜にツルで叩かれている。


ペシペシペシ


そして目玉桜の目玉に見つめられた。


グラムドは石化した。やっぱりこうなった。



「石化した冒険者一名発見でーす」

エルエは本部に報告した。


中級の冒険者となれば皆、目玉桜のことについては知っている。当然毒、麻痺、石化の耐性装備を持っている。中級者以上で石化したのはグラムドだけだった。


そんな様子を遠くから鈴木は見ていた。石化耐性のアクセサリーも無しに、目玉桜を次々と倒していく鈴木は順当にレベルアップして行った。


中級冒険者たちは目玉桜の目玉を傷つけないように徐々に目玉桜を倒していく。


ガツ ガツ ガツ


ウィィギャーー


ペシペシ ペシペシ


こうなると目玉桜がちょっと哀れに思えてきた。状態異常耐性が完璧かんぺきな冒険者に対して、できることはツルでペシペシ叩くことだけなのだから。



本部の方では、石化して運ばれてきた冒険の石化を解除する係の中にオーディースがいた。


「ディスペル」

オーディースの掌から出た光が石化した冒険者に当たって、石化が解除される。


「仕事があるのはいいが、目玉桜に挑むのなら、石化対策のアクセサリーくらいつけないものかね」

オーディースは小言をこぼした。


石化から解除された冒険者のところへやって来たミーユはすかさず声をかけた。


「石化耐性のアクセサリーはいかかがですか?」


「よし、もらおう」

冒険者はすぐにアクセサリーを買った。


「お買い上げありがとうございます」


こうして冒険初心者に結構な数の石化耐性のアクセサリーが売れた。売り上げにつながるということも一つはあるのだが、冒険初心者に身をもって状態異常耐性のアクセサリーの重要さを知ってもらって、少しでも事故を減らそうというのがネオ人材派遣会社田中マックスの親切心でもあった。



ドミールと三衛門も本部の救護所に運び込まれた。


「ディスペル」


オーディースは石化を解除した。


「は、危ないですわよ三衛門!」

ドミールはハッと目を覚ました。


「おじょう!」

三衛門も急に目を覚ました。


「あ、あれ? ここは? 一体どこですの?」



「イベント本部の救護所ですよ」

オーディースは落ち着いて答えた。


「なんでこんなところに私たちはいますの?」


「モンスターに石化させられたので、救護班がここへ連れてきたんです」


「そういうことですのね…だそうですのよ、三衛門」


「へえ」

三衛門は首を左右に振りながら体の調子を確かめてみた。体は元どうり動くようだ。


「そこの冒険者、石化対策にアクセサリーがあるわよ。もちろん買うわよね?」


三衛門とドミールの横に突然現れたのは、イロロンであった。


「アクセサリー?」

三衛門はこいつは突然なにを言っているんだという顔をしていた。


「石化耐性のアクセサリーを買えば、今日のイベントモンスターは簡単に倒せるわよ」

とイロロン


「そのアクセサリー、おいくらですの?」

ドミールは尋ねた。


「10万円です」

イロロンは答えた。


「結構お高いのね」

ドミールの金銭感覚ではそうだろう。


「いやいや、そんなことは無いですよね。目玉桜の目玉を集めて戦えばそんな金額すぐ稼げますよ」

イロロンはアクセサリーを売りたくて仕方がないという顔をしていた。


「目玉桜…あの気持ち悪い目玉が売れますの?」


「あれは、欲しがる人には一個1万円くらいで売れますよ」

イロロンもあんなものを欲しがる人の気が知れないという顔で言った。


「1万円! 三衛門やりますわよ」


「へえ、お嬢」


「そのアクセサリーをくださいな、お一つね」

ドミールは財布を取り出して金を払った。


「お買い上げありがとうございます」

イロロンは嬉しそうに笑うとその場を去って行った。


「お嬢? 一つですかい?」


「ええ、三衛門、わたくしも頑張りますが、戦いは向いていないでしょう? だから三衛門がこれを使って沢山稼ぐのですわ」


「だから、これを三衛門にあげますわ」

ドミールはそう言って石化耐性のアクセサリーを三衛門に渡した。


「へえ、お嬢、承知しやした」

三衛門はアクセサリーを受け取った。


「さぁ、行きますわよ、三衛門」


「へえ、お嬢」


ドミールと三衛門は目玉桜がいる会場へと戻った。その途中、武器を構えて目玉桜とにらみ合っている茂助を見かけた。まさかまだ最初の一匹目じゃないだろうなと三衛門は思った。




石になって運び込まれたグラムドは石化解除の順番を待っていた。


グラムドの番になってオーディースが石化を解除した。


「ディスペル」


「あ、ああ? なんだここは? 俺に何してやがる?」


「ここはイベント本部の救護所です。石になったあなたの石化を解除しました」


「あぁ? そうかよ。 ありがとよ」


ミーユは颯爽と現れた。


「石化耐性のアクサセサリ―はいかがですか? 他にも毒耐性や、麻痺耐性のアクセサリーもありますよ」


「そんなもんナンに使うんだぁ? モンスターを倒すだけならそんなもんはいらねぇぜー」


ヒィィヤァァアアー


勢いよく起き上がるとグラムドは討伐会場の方へと走って行った。


後にはあっけにとられたミーユとオーディースが残されていた。



そろそろ上級冒険たちがスタートする。若竹源二もこの中にいた。レベル的には中級者でもいいのにわざわざ上級者のグループに入りたがるなんて、若竹源二はちょっと無理をしているのではないだろうか。


上級冒険者たちは一直線に目玉桜の討伐に向かった。



ウィィギャーー ウィィギャーー ウィィギャーー



わらわらとやってくる目玉桜を次々と倒す上級冒険者たち。


「アースクラッシュ」

売れるとか関係なしに目玉桜を倒しまくるクラスア。今日も元気いっぱいです。


「ハーミンスペシャル」

目玉桜の目玉は避けてうまく倒していくハーミン。


「それそれ、もっと行くわよー」

クラスアは右に左にと跳躍しながらついでに目玉桜を倒していく。


「なんだか今日の戦い方は雑ね」


ハーミンはクラスアをそう評価した。



「すごい、あんな速度でモンスターを倒すなんて。あれが上級冒険者の実力か」

鈴木は遠くからクラスアやハーミンをはじめとする上級の冒険者たちの戦い方を見て感心していた。


「やぁっ、はっ、せやっ」


バク転や側転を駆使してアクロバティックに次々と目玉桜を倒すメーラムも鈴木の目を引いた。


「あんな風に回避と攻撃の流れが一体化しているなんてすごいな。とても重りを背負っているとは思えない」

鈴木は独り言のように口から感想がこぼれた。


上級の冒険者になれば100kg以上の重りを背負っているハズなのだが、ハンデとは何だったのかというほどに、上級の冒険者たちは軽々と目玉桜を倒していく。


鈴木もレベルを上げればあんな風になれるのだろうかと憧れに近い感情をいだいた。



若竹源二は先に挙げた三人には少し遅れを取っているものの、素早く目玉の視線を躱し目玉桜の幹を斬り倒していく。なんとこいつも石化対策のアクセサリーを持っていない。貧乏道場の主は侮れない動きで目玉桜を次々と倒していく。重りのせいで鈴木と同じくらいの速度なのに、モンスターを一撃で倒すその様は、鈴木とはまるでちがっていた。


初心者も、中級者も、上級者も目玉桜を倒しに倒して、目玉桜が絶滅する日も近いのではないかと思うほどだ。



「ハーミン、今日はどっちが多く倒せるか競争しましょう」

クラスアはハーミンにそう言って勝負を挑んだ。


「あらいいわよ。あなたが勝ったら装備代を割引してあげるわ。逆に私が勝ったら料金は上乗せよ」

ハーミンはにっこりと笑って答えた。


「いいわよ」

クラスアは真剣な表情で答えた。


「決まりね」


ハーミンとクラスアの対決が始まった。



「そこの御仁、やるなぁ」

とメーラムに声をかけたのは若竹源二だった。


「何か御用かな?」

メーラムは戦いながら若竹源二に答えた。


若竹源二も戦いながら話を続けた。


「何、用というほどのことはない、お主の腕前に感心しただけじゃ」


「それはどうも」

相変わらず、メーラムは表情を変えない。上に横にと飛び跳ねながら会話をしている。


「こう言ったイベントはお主のような強者と出会える機会になって助かるわい。いい勉強になるわい」


「それではこちらも勉強させていただこう」

メーラムは二連続の側転をしながら答えた。


「わしは若竹源二じゃ、お主、名はなんという?」

若竹源二は近くにいた二匹の目玉桜を倒し終えた。


「私の名はメーラム」

メーラムもちょうどモンスターを宙返りからのジャンプ攻撃で仕留めたところだ。


「お主の名は覚えておこう」

若竹源二は手を出して握手を求めた。


「よろしく若竹源二殿」

メーラムも手を伸ばして握手を返した。


「ところでメーラム君、うちの道場に入門しない?」

若竹源二はおどけて勧誘した。


「それはお断わりします」

メーラムは無表情で断った。


「それは残念」

若竹源二の悲しそうな表情だけが残った。




「うぉおー、出たぞ、巨大目玉桜だ」

目玉桜討伐も佳境に入る。満を持して、巨大目玉桜が登場した。体長30mはあるだろう。巨大目玉桜を最初に発見して声をあげた男の冒険者は、巨大目玉桜の巨大なツル攻撃で吹っ飛ばされた。


ドスン バスン グシャー


周りにいた冒険者たちも次々と巨大なツルの餌食になっていく。通常サイズの目玉桜のペシペシという攻撃とはわけが違う。


当たれば簡単に気絶や骨折くらいはするであろう強力なツル攻撃だ。


ドスン バスン ドスン バスン


しかもレベルが高いのか、攻撃の頻度も高く速度も速い。


目玉桜は目からビームを放って冒険者たちを攻撃した。


ムビー ムビー ムビー


さらに目ビームは拡散して発射され一度に大勢の冒険者を襲う。


ギュビー ブワー


「ひゃぁー、これはかなわん」

茂助は慌てて逃げて物陰に隠れた。


鈴木は距離を取って様子を見ている。


「三衛門、離れますわよ」


「へえ、お嬢」


ドミールと三衛門は敵わない敵だと判断して、戦わない方向に向かった。


鈴木は遠くで通常の目玉桜を倒しながら様子を見ていた。


一般の初心者冒険者は皆近づかずに逃げることを選んだ。



「ヒャッハァー、大物だぁ」


様子を見て距離を取っている中級や上級冒険者を無視して、一人突撃して行く男、グラムド。


グイーン バスン


「ぐぇ」


彼は巨大なツルのなぎ払いによって骨折しながら遠くへ飛ばされた。着地の時に頭を打って気絶した。


それを見て中級者は皆怯んだ。


「む、うちの弟子を可愛がってくれたな」

と言って若竹源二は巨大目玉桜に向かって行った。



ムビー ムビー ムビー


目ビームを放って冒険者はなかなか近づけない。


そんな中ビームをかいくぐって何人かの冒険者が接近していた。


遠くからは弓や魔法が放たれているが致命傷には至らない。この魔法攻撃の中にはRin・Feeの関口かおりのものも混ざっていた。


「えーい」


上級や中級冒険者たちも徐々に周りを取り囲み、接近戦をこなせる距離まで近づいて行った。


巨大目玉桜の耐久力はかなりのもので、結構な数の冒険者に囲まれて攻撃を受けているが一向に倒れる気配がない。それどころか切れたツルや幹がすぐに再生している。


ドスン バスン ドスン バスン


近づく冒険者たちを次々となぎ倒す目玉桜。こいつは強敵だ。


そんな中Rin・Feeの3人は何故かこの目玉桜の一本のツルと戦うことを決めた。


「行ってみようよ、ゆりちゃん、かおりちゃん」

と町田美樹


「でも、危ないよ」

と関口かおり


「でも練習にはなりそうだよね。ここでやられても他の冒険者もいっぱいいるし、救護の人もいるから死ぬことは無いよ」

と幡ゆり子


「かおりちゃんが怪我しないようにしっかり守るから」

と町田美樹。


「うん、わかった。冒険者だもんね。冒険しよう」

と関口かおり。


三人は巨大目玉桜の本体から一番遠そうなツルを相手に戦いを始めた。


町田美樹が襲い掛かるツルをしっかりと盾でガードし、それでもダメージを食らってしまうのを幡ゆり子がヒールし、関口かおりはうまく町田美樹に隠れながらサンダーを何度も放った。


ガコン ベコン ドカン

盾が何度叩かれても町田美樹は敵の攻撃を盾でうまく抑え込んでいる。


「結構うまく行ってるみたいだよ」

と町田美樹


「油断はしないでね」

と関口かおり


「危なくなったらすぐ逃げてね」

と幡ゆり子


「わかったぁ」

と町田美樹は返事をした。


本体と戦うには多数のツルが邪魔でなかなか近づけないが、周りのツル一本とだけ戦うならそれほど難易度は高くは無いようだ。そう分析して、鈴木はRin・Feeとは反対方向のツル一本と戦いはじめた。


ツルの攻撃が来るのを回避してナイフで斬り込む。


ガツ ガツ


ナイフの刃が固い木の皮膚に阻まれる。巨大目玉桜を倒すことができないなら、通常の目玉桜を倒して続けたほうがお金は稼げる。しかし、鈴木は強い相手と戦って訓練になる方を選んだ。


「ちっ」


ガツ ガツ


二本のナイフがなかなか巨大目玉桜の皮膚を斬れない。木の表面をむなしく削るだけだ。


鈴木はそれでも戦いを続けた。



「どいたどいたー」

クラスアが巨大目玉桜と交戦を開始した。次々とツルをきって、叩きつけられるツルを避けてクラスアは見事に戦かう。目ビームも避ける。避ける。


「耐久力がすごいわね」

ハーミンはハンマーでツルを叩き、ハーミンハンマーからは7属性が2順する攻撃が常に放たれる。ツルを次々と潰していく。

「目玉はつぶさないでよ。いい素材になるんだから」

ハーミンはクラスアに言った。


「わかってるわ」


さすがにこのサイズとなると、材料として無視はできない。先ほどまでとは違ってクラスアも目玉を潰して倒そうとは考えてはいないようだ。


他の冒険者たちに交じって一番多くのツルを相手にしているのはメーラムだ。

なぎ払い、叩きつけと次々に襲い掛かる巨大なツルを避けてはカウンターを繰り返し、いつものようにアクロバットな動きでツルと戦っている。当然、何度も降り注ぐ目ビームも側転やバク転を駆使してうまく避けている。


若竹源二もツタに襲いかかる。手に持った剣を使って太いツタをザックリと斬って見せたり、細かく刻んで見せたりしていた。やはりこのじじいできる。


大勢の冒険者に囲まれて攻撃を受け続ける目玉桜はついにしゃべりだした。


「お前ら人間どもよ。我ら目玉桜を見てお花見とは酔狂なやつらよ。しかし忘れるな、人間が花を見ているとき、花もまた人間を見つめているのだ。それこそが花見の真髄なのだ」


そして今までに無いくらい強力で広範囲の拡散目ビームが放たれた。逃げ遅れたり、防ぐのに失敗した冒険者が何人かビームで貫かれた。


「どっから声を出しているのかしら」

とハーミンは不思議そうに言った。


「さぁ、どうでもいいわ」

とクラスアは斧を担いで言った。。



「終わりにしましょう」

とハーミンが槌を持って突進し


「いくわよー」

とクラスアは勢いよく跳んだ。

降り下ろされたクラスアの斧とハーミンのハンマーの同時攻撃がついに巨大目玉桜を葬った。


目玉桜の目玉を潰さないようにうまく木の幹を斬ってつぶしたのだった。


「やったわ」

と着地しながらクラスアが言った。


「勝負は引き分けね」

とハーミン。しっかりとクラスアの討伐数も数えていた。さすがだ。


ボスである巨大目玉桜が倒されたことで、他の目玉桜も枯れて死んだ。戦いは終わって、皆はイベント本部へと戻って行った。



「目玉桜の目玉がいらない人はこちらにお売りください」

イベントの戦闘が終わって本部に集まった冒険者たちに対して、ミーユが声をかけた。


ごく一部の上級冒険者を除いて、皆は目玉桜をネオ人材派遣会社田中マックスのミーユに買取を求めていた。


八大竜王のどれかの、なんかおびき寄せる餌か召喚の触媒かは知らないが、結局よく使い道のわからないものなど皆いらないのだ。気持ち悪いからなおさらだ。


「討伐数の確認をしてまいります。討伐報酬もこちらでお渡しします」

とエルエはが言った。隣でミーユはお金の用意をしていた。


「それではよろしくお願いしやす」

真っ先にその列に並んだのは茂助だった。


「はい、茂助さん。目玉桜の討伐2体で7200円です」

ミーユは茂助に討伐報酬を渡した。

「ありがとうごぜえやす」



「鈴木さんは32体で11万5200円です」

「ありがとうございます」


「町田美樹さん、関口かおりさん、幡ゆり子さんは三人ご一緒でいいのですね?」

「はい」

「三人で28体討伐で10万800円です」

「ありがとうございます」

代表して町田美樹が受け取った。


「ドミールさんは0、三衛門さんは20体ですね。7万2千円です。どうぞ」


「三衛門受け取りなさい」


「へえ」

三衛門は報酬を受け取った。


「目玉を売ったお金と合わせてもアクセサリー代を稼げまでしたわね。これからもアクセサリーは使えますから無駄にはならないでしょう」


「へえ」



「メーラムさんは、242体討伐で87万1200円です」

「ありがとう」

メーラムは表情を変えずに受け取った。


「若竹源二さん129体討伐で46万4400円です」

「ありがとう」


「ハーミンさん、237体討伐で83万5200円です」

「ありがと」


「クラスアさん、同じく237体討伐で83万5200円です」

「ありがとね」


「グラムドさん、27体討伐で9万7200円です」

「ありがとよ」

グラムドはなんか首をフラフラさせながら受け取った。麻痺毒を受けすぎた後遺症だろうか?


「そして、本日のメイン。巨大目玉桜の討伐について、とどめを刺したのはお二人、ハーミンさんと、クラスアさんです。お二人には討伐報酬を分け合っていただきます。おひとり5000万円づつとなります」


ハーミンとクラスアは当然よという顔で討伐報酬を受け取った。


盛り上がる冒険者の観客たちに二人は軽く手を振った。


「そして最多討伐賞はメーラムさんです。惜しみない拍手をお願いします。最多討伐賞のメーラムさんには追加報酬として300万円が贈られます」


「ありがとう」

メーラムは全く喜ぶ様子を見せずにお金を受け取った。


「それではこれにて本日のお花見イベントは終了となります」

ミーユがそう宣言するとその人のイベントは終了した。


皆はそれぞれの家路についた。

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